都市と地方を行ったり来たり……多拠点ではたらくってどういうこと? ADDress 佐別当隆志社長インタビュー

自宅以外にも地方などに拠点を持つ「多拠点生活」。複数の場所に住むことで、どのような働き方が実現できるのでしょうか。多拠点コリビングサービス「ADDress」を運営する株式会社アドレスの代表取締役社長 佐別当隆志さんに話を聞きました。

f:id:doda-media:20200426124433j:plain

地域とつながれる「全国住み放題サービス」

「ADDress」を一言で表現するなら「定額制の全国住み放題サービス」。月額料金を支払えば、全国に約50箇所ある物件のどこにでも住むことができます。

各物件は空き家や別荘をリノベーションしており、築120年の古民家や、海が目の前の家、温泉付きの別荘など、その特徴はさまざま。都心に近い家で仕事をするのも、自然が豊かな地域でプライベートを楽しむのも自由です。

f:id:doda-media:20200427153307p:plain

f:id:doda-media:20200427153333p:plain

千葉県の南房総邸。海の近くにある拠点。目の前には海水浴場が広がる

「各物件はシェアハウスになっていて、個室を予約して利用するシステムになっています。家具や家電は共用部に完備されており、光熱費などは料金に含まれていますので、体一つあればどこでも暮らせます」

ADDressの特徴は、地域で暮らす方が「家守(やもり)」として、物件の管理者になっていること。地元の人たちが通うようなスナックやサーフスポットを案内してもらえるなど、家守を通じた地域とのつながりも提供しています。

 「家と地域と家守さんによって、物件のテーマがそれぞれ違うんです。ボードゲームを趣味にされている家守さんは毎日会員の方と遊んでいたり、アウトドアが好きな家守さんと山登りに行ったり。ハンバーガーの販売をされている家守さんもいますね」

f:id:doda-media:20200427153439j:plain

f:id:doda-media:20200427153521j:plain

熊本県の宇城邸。1万冊超の古本が並ぶ明治建築

場所を提供するだけでなく、家守を設けたきっかけは、佐別当さん自身の体験が大きいそう。かつて佐別当さん自身も、友人たちが暮らす熱海と東京の2拠点を行ったり来たりする生活をしており、熱海に「家守」的な人がいたのだとか。

「熱海は山も海も温泉も、美味しいものもたくさんあります。でも結局、彼がいたからみんなが集まっていたんですね。この人とご飯を食べると楽しいとか、こういう出会いがあったからまた行きたいとか、モノより人に紐付く価値がこれから大事になるはず。『あの人のところに行けば自分の居場所がある』と思える場所を増やせたらと、家守を置くことにしました。いわば、私にとっての『熱海』を全国に増やしているわけです(笑)」

住む場所を変えることで「小さなコミュニティ」を手に入れる

ADDressの会員は約半数が20代と30代。フリーランスはもちろん、テレワーク推進の影響で会社員の会員も増えています。

「20代30代だと、プログラマーなど、場所を選ばずに働ける方が増えていますよね。人の多い都心から離れ、温泉付きの物件などで仕事をされていたりします。会社員からフリーランスになるなど、多拠点生活をきっかけに自分のライフスタイルを変える方も多いですね」

f:id:doda-media:20200426124427j:plain

株式会社アドレスの代表取締役社長 佐別当隆志さん

都市部から地方への移動だけでなく、地方から地方へと移動しながら働くケースもあります。

「企業研修の講師やコンサルタントなど、全国各地を飛び回っている方が、ADDressの物件に近いエリアで仕事をされている例があります。これまで出張やホテル暮らしで対応していたそうですが、ADDressを拠点にすることで、多拠点生活を楽しみながら仕事に通われているそうです。地元の人と仲良くなって、そのままその地域の仕事を受注される方もいますね」

多拠点生活は、自宅とは別に複数の拠点を持つのが一般的。しかし若い人のなかには、自宅の賃貸契約を解約して、ADDressだけで生活する「アドレスホッパー」もいるそう。地域の病院を転々としながら医療行為をする「アドレスホッパーのお医者さん」もいるのだとか……!

「地方では医者不足が深刻な地域もあり、都心部の病院よりも求められる場所で働きたいという価値観から、アドレスホッパーを選ばれるお医者さんもいるそうなんです。そうした方のためにシェアハウスを設けたい、という医療法人からお話をいただき、法人契約をしています」

さすがに自宅を解約するのは勇気が要りますが、自宅の家賃を払いながら多拠点で生活するのはお金もかかるはず。そのハードルを越えてまで多拠点生活を選ぶ魅力とは、どこにあるのでしょうか。

「サウナやスナックなど、少ない人数で楽しめる『小さなコミュニティ』を手に入れることは、人生を豊かにすると考えています。ADDressの物件は4LDKほどの一軒家が多く、1週間も生活すれば家守さんや他の会員と顔見知りになれるので、まさに『小さなコミュニティ』そのもの。多拠点生活でのつながりは、その日限りでもなければ、定住ほど密ではありません。カジュアルな居心地の良い関係に、魅力を感じてもらえるのではと思います」

せっかくの多拠点生活、地域を楽しまなければもったいない!

「場所を選ばずに仕事をする」という意味では、テレワークも多拠点生活も同じように見えます。ただ、テレワークは「会社でできる仕事を持ち帰った」もの。多拠点生活で働く魅力は「移動した先の地域で、新たに仕事を見つけられる」ことにあると、佐別当さんは言います。 

「地域で活動する人を一人でも増やしたい、というのが私たちの思いでもあるんです。地域の方々にも喜ばれますし、仕事を通じた出会いから人間関係も広がります。カフェ運営でも農業でもDIYでも、拠点ごとに仕事が変わってもいいんです。自分がずっとやりたかったことに、地域でチャレンジしてもらえたら嬉しいですね。せっかく移動するのであれば、その地域を楽しまなければもったいないですから」

f:id:doda-media:20200426124421j:plain

多拠点で暮らすだけでなく、地域を通じた新たな働き方も提案するADDress。今後どのようなサービスを目指すのでしょうか。 

「多拠点生活はどうしても交通費がネックになります。『交通費のサブスクリプションサービス』の実現に向けて、今年1月にはANAと定額制チケットの実証実験を始めました。今後はJR東日本やIDOMとも連携して、飛行機・電車・車と交通手段を増やしていけたらと考えています」

「将来的には海外の物件も増やしたい」という佐別当さん。海外にも家守さんがいてくれたら、異国での暮らしも大きく変わりそう。「世界中住み放題」になったら、さらに新しい働き方が生まれるかもしれませんね。

<取材協力>
定額住み放題 多拠点生活プラットフォーム「ADDress」

取材・文=井上マサキ
撮影=土佐麻理子
編集=TAPE

<関連記事>
シェアが暮らしを変える? 知っておきたい社会の動き「シェアリングエコノミー」とは?
オンライン学習で時間を有効活用! これから学びたい「どうなってもいい力(りょく)」
AIの時代。はたらく私たちに必要なこととは? 27歳のAIビジネス経営者が語る未来
「不安とは上手に付き合っていくことが大事」モノオク株式会社CEO阿部祐一さんの仕事観
孤独やストレスを癒やすのは“しっぽ”!? ロボットが導くコミュニケーションの新たな未来

page top