イベント業界から映画監督に。映画『Daughters』の津田肇監督に聞く、「やりたいこと」の叶え方

ファッションイベントを企画する会社でのアルバイトからキャリアをスタートさせ、現在は学生時代からの夢であった映画監督として活躍する津田肇さん。初の長編監督作である映画『Daughters』が9月18日に公開されます。一歩ずつ着実にステップアップしてきた津田監督に、自身のキャリアや仕事観、そして作品について伺いました。

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好きなことを仕事にしたい。イベントの世界を経て映画監督にチャレンジ

学生時代から映画制作を夢見ていた津田監督。大学に在籍していた2005年、自主制作した映画が第17回東京学生映画祭にてグランプリを獲得しました。そのまま映画監督の道へ……? と思いきや、卒業後はファッションイベントを企画する会社に就職したそう。

「職業を考える上で、自分の好きなことを仕事にできるというのが絶対条件だったんです。小さい頃から絵を描いたり、イベントを企画したりすることが好きで、学生時代には自主制作映画に夢中になっていました。アルバイトをきっかけにファッションイベントの世界に入り7年間働いたんですが、少しずつ『また映画を撮りたい』という気持ちが湧いてきたんです」(津田監督、以下同)

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アルバイトを機にファッションイベントの世界に足を踏み入れた津田監督ですが、20代前半の頃は「一生イベントの世界で生きていくんだろう」と思っていたそうです。そんな彼が独立を考えたきっかけは、昔から好きだった“映画”への思いでした。

「26歳くらいの頃、イベントの世界は一通り経験したという実感があって。やり尽くしたというわけではないけれど、天井が見えた気がしたんです。じゃあなにをしようかと考えてみると、映画しかなかった。それで独立して会社を興したんです。29歳の頃でした」

自分のハードルをもっとも高い位置に。細部まで手を抜かないという仕事への“こだわり”

30歳を目前にまったく異なる世界へ飛び込む。そこには想像以上の努力とバイタリティが求められるでしょう。一つひとつの仕事を確実に成功させ、ステップアップするために必要なことは何なのでしょうか。

「イベントの仕事はクライアントの要望を聞いて、それを形にしていく仕事です。だから、クライアントの要望よりも高いところに自分自身のハードルを設定するようにしていました。自分の目標をクリアすれば、おのずとクライアントの要望も満たせていることになりますから。自分の名前で恥ずかしいものは出せないですしね。今回監督した映画『Daughters』でも、劇中の美術にこだわっているのはもちろんですが、パンフレットやプレスシートなどのすべての製作物のアートディレクションを自分で手がけています。最終的には、仕事は自分との戦いですよね」

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細部までこだわってクライアントの満足度を上げていくことが、信頼と評価につながっていく。同時に、津田監督は「好き」と「収入」とのバランス面も意識していたと言います。

「はたらくうえで、自分の幸せの基準をどこに置くかも重要ですよね。自分の好きなことを仕事にするというのが絶対条件だったとさっき言いましたが、好きなことをやっていても収入が少なくては暮らしていけない。好きなことをやりつつ、収入を上げていく方法を考えなければならないと思います。もし、収入はすごくいいけどまったく楽しくない業務が続いたとすれば、それをどう楽しいものに変えていくか、考えていくと思いますね。そうやって考え続けてきた結果、今は好きな仕事と満足できる収入のバランスが取れるようになってきたんです」

好きな仕事をやって高い収入を得るためには、「この人なら期待以上の成果を上げてくれる」というクライアントからの信頼と評価があってこそ。そうやって積み重ねた結果が、“映画監督”という新たなキャリアへの道を拓いたのかもしれません。

ホームグラウンド・中目黒を舞台に、自身の経験を脚本に落とし込んだ監督作『Daughters』

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そんな津田監督の監督作『Daughters』は、監督のホームグラウンドである中目黒が舞台となっています。主人公、小春(三吉彩花)と彩乃(阿部純子)という27歳の二人の女性はこの街でルームシェアをしながら暮らしています。イベントデザイナーの小春とファッションブランドのプレスとして働く彩乃は、よく仕事をし、適度に遊び、充実した日々を送っていました。しかし、彩乃は予期せぬ妊娠をしてしまい、シングルマザーとなる決意をします。そんな彩乃に戸惑い、時には喧嘩をしながらも、小春は彩乃を支えていくことになります。映画では、彼女たち二人の震えるような心の機微が、とてもリアルに描かれています。

「僕自身、中目黒の近くで友人とルームシェアをしたこともあったし、家も職場もある身近な街が中目黒なんです。それに、小春は僕と同じイベントデザイナーだし、プレスという彩乃の職業は僕の妻の仕事なんです。よく知っている街でよく知っている世界のことを描いているので、物語にリアリティが出せているんだと思います。二人の心情も、自分や友だちだったらどう感じるだろうかと考えながら作り上げていきました」

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妊娠した彩乃は、結婚せずに仕事を続けながらシングルマザーとなることを選びます。ファッションブランドのプレスとして仕事をしてきた彼女は、27歳という若さながら多くの責任ある仕事を任される立場にありました。しかし、上司からは「産休が明けて復帰しても同じポジションには戻れないかもしれない」と突きつけられます。

「妊娠・出産によってキャリアが変わっていくという女性の現実は、僕も妻を見て実感しています。母親になるとどうしても子どものために仕事を休まなければいけない場面が出てきてしまい、その人が休むと業務が回らないというような仕事は任せてもらえないことがありますから。でもそうやって女性のキャリアが制限されることがないように、社会全体が変わっていく必要がありますよね。特に、一番身近にいるパートナーが、意識や価値観を変えていく必要があると思います。僕自身、明確な答えを持っているわけではないんですけど、仕事と結婚と子育て、このバランスについては常に考えています」

最後に、監督が考える“映画の持つ力”について聞いてみました。

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「エンタメや娯楽って、コロナのような“命に関わる危機”に関して、直接的にはとても無力なんですよね。でもその一方で、すごいパワーもあると信じたい。黒澤明監督は『映画には戦争をなくすことができる力がある』という意味のことをおっしゃったそうです。映画で社会問題を描いたからって、すぐに問題を解決できるわけではない。でもその映画を見てくれた観客の意識を変革するきっかけを与えることができるかもしれない。この『Daughters』にも、いろいろと自分の人生観やメッセージなど詰め込んでいるのですが、こと「仕事」という部分にスポットを当てるとすれば、女性のキャリアの問題について、意識の変革のきっかけとなってくれるとうれしいですね。男性にとっても、この映画が女性のキャリアや生き方の問題を考えるきっかけとなると思います」

桜の花が咲き誇る春から、若葉の夏、枯葉の秋、枝の中に花の芽が眠る冬まで、中目黒の自然の変化を背景に、二人の女性の変化と成長を描いた映画『Daughters』。仕事に対する高いハードルを設定することで自身の望むキャリアを手に入れてきた津田監督が手がけた本作は、ファッショナブルな映像で現代の女性たちが抱える問題をリアルに切り取って見せてくれます。はたらく世代にぜひ観てほしい、注目の一作です。

『Daughters』(105分/日本/2020年)
公開:2020年9月18日
配給:イオンエンターテイメント、Atemo
劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
監督・脚本:津田肇
出演:三吉彩花/阿部純子/黒谷友香/大方斐紗子/鶴見辰吾/大塚寧々
Official Website
(C) 「Daughters」製作委員会

取材・文=松村知恵美
編集=五十嵐大+TAPE

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