いま、新たな舞台で活躍しているあの人にも、実はビジネスマンとして会社勤めをしていた日々があったそうです。
しかし、なぜ彼らは会社員を続けなかったのでしょうか。ただ単に彼らは向いていなかったのでしょうか。 どんなビジネスマンだったのかを訊いてみました――。
連載第1回目は、お笑い芸人のダニエルズ、あさひさん。クレジットカード端末の営業マンとして1年足らずでエリアマネージャーに登りつめた “天性の営業マン” が、破天荒なビジネスマンエピソードを語ってくれました。
1988年生まれ。東京都出身。タイタン所属のお笑いコンビ・ダニエルズのボケ担当。大学中退後、ワタナベエンターテインメントの養成所に入学し、事務所を転々とするも、25歳のとき、芸人を辞めて約2年間会社勤めを経験する。その後、2018年からタイタンに所属し、OL姿のヒステリックな女性を演じるコントで注目の若手芸人。
女の子からのご褒美欲しさに就職を決意
――ヒステリックなOLを演じるコントで話題ですが、あさひさんもかつては会社員だったんですね。
あさひ:そうなんですよ。大学を1年で中退してしまい、そのあとにワタナベエンターテインメントのお笑い養成所に入ったんです。しばらく芸人を続けたんですけど、25歳で就職しました。
――就職して「この道でいくぞ」って感じですか?「芸人をやめる」という強い覚悟があったのですか?
あさひ:そうですね。そのとき、初めてひとり暮らしを始めたタイミングで、まずは自分で生活費を稼いでみようと。会社員を一度やってみて、それでもまだ芸人をやりたいなら続けようかなって。いざ仕事を始めたらそんなガッツもなく、きっぱり諦めようと思いました。
――ということは、就職先もいろいろ考えて。
あさひ:いや、「かっこいい仕事がしたいな」という考えしかなくて……。ぶっちゃけると、当時気になっていた女の子と飲んでいたら、「就職したら好きなお願いをひとつ叶えてあげるよ」ってその子が言い出して。鉄は熱いうちに打てじゃないですけど、その場でソッコー転職サイトをググッて勤務地「新宿」で検索したら、新宿センタービルの会社が出てきたんですよ。「あ、あのビルで働けるならなんでもいいや」って。その場のノリで決めました。
――高層ビルで働く = かっこいいみたいな?
あさひ:はい。募集も営業だったので、入りやすそうな気がして。翌日連絡したらすぐに面接できて、1週間後には「就職決まったよ」と報告できました。勢いですね!
――で、どんなお願いを叶えてもらったんですか?
あさひ:あの……。ちょっぴりマニアックなお願いを……(笑)。
――それって芸人を辞めるとかいうシリアスな話ではなく、ただのご褒美欲しさで就職したように聞こえますけど…。
あさひ:まぁ、そうなりますね(笑)。
ビジネスマンはすごい人ばっかりだと思っていた
――どんな仕事だったんですか?
あさひ:クレジットカード端末の営業ですね。クレジットカードって、使うたびにお店側が手数料を払うんですよ。就職した会社は、「うちの端末に交換してくれれば、手数料が安くなりますよ」という商品を売っていて。ひたすら飲食店とか美容院に電話して「いま何%ですか? 下げませんか?」ってセールスの電話をしてました。そこから先方にお邪魔して、契約を取っていく感じでした。
――なかなか大変そうなお仕事ですね。
あさひ:初めての会社勤めだったんで、最初は不安で必死にやったんです。ビジネスマンってすごい人ばかりだと思ってましたから。でも、1ヶ月くらいで自分でも十分に通用することが分かって。その会社はボーナスとか歩合がなかったんで、コツを掴んでからは、できる限りラクしていこうと考え方を変えましたね。
――どんな方法でラクをしたのでしょう。
あさひ:ノルマさえ達成すればよかったんで、多めに契約を取ってノルマを貯金して、翌月に回すみたいな。毎月後半は「もうすぐ達成します」という状態にしておいて、のんびり過ごしていました。
――ノルマはしっかりと達成していたんですね。
あさひ:「今月はヤバいな」というときは、すでに契約をいただいている優しい社長さんやオーナーさんに電話をして、知り合いを紹介してもらうんです。「すみません! 今月やばいんですよ~」とかって。人づての紹介だと要件が伝わっているので営業トークも必要ないし、信用もある。そうやってどんどんつなげていきました。
――じゃあ仕事が楽しかったというよりも、効率よくこなしていたんですね。
あさひ:超ラクしてましたよ。社長さん同士って横のつながりがあるので、「僕新人で…なんかないですかね…」みたいな弱々しいキャラでお願いすると、兄貴肌の人は紹介してくれるんですよ。
「営業上手」は「甘え上手」
――会社の雰囲気も悪くなさそうですね。
あさひ:はい。上司も優しくて、怒られたり怒鳴られたりはなかったです。僕はきっと怒りづらいタイプなのかもしれないです。遅刻もけっこうしてたんですけどね(笑)。居心地はめっちゃ良かったです。
――朝が弱いタイプ?
あさひ:お酒の失敗が多いんです。給料日に、生まれて初めてキャバクラに行ったときは、あまりの楽しさに記憶がなくなっちゃって(笑)。
20万くらい使った挙句、一緒にいた同僚とも離れ離れになってて気づいたら中国人のマッサージ店にいたんですよ。そこから漫喫でちょっと寝て、会社に行ったら同僚はしっかり休んでました(笑)!
僕はまだ目も据わったままで、あきらかに二日酔い。当然のように上司に呼ばれまして。正直に「キャバクラに行ってから記憶がありません!」と伝えたら、「会社に来たのは偉いけど、働くのは無理だから帰れ!」って出社5分で退社しました。しかも「ほかの社員の手前もあるから、俺にすごく怒られたような顔をして出ろよ」って。
――ちなみに、普段はどんな働き方だったんですか?
あさひ:9~18時が定時でした。飛び込み営業もあったんで、黒板に予定を書いて、カフェとか、空アポでサボったりもしてましたね。担当は神奈川のエリアだったんで、移動が長いので、電車で寝て1件行って帰ってきたら1日終わり! みたいな。
あと、会社員時代にホームレスになったこともあるんですよ……(照)。
――どういうことですか?
あさひ:初めて実家を出たのが、彼女との同棲だったんです。そのときに二股をかけていて、それが浮気相手にバレて大変なことになったんですよ。SNS経由で彼女とか友達とかにも証拠を送りつけられて、ばらまかれちゃって。もう帰るに帰れなくなってどうしようみたいな……。
意を決して恐る恐る部屋に帰ったら、すでに荷物がまとめられていて家を追い出されて。その日から友だちの家を転々と……。そんな僕を見かねて優しく包んでくれたのが、会社の先輩であり、いまの奥さんなんです。
――また急な展開! なかなかの人たらしですね、まさに営業向き。
あさひ:自分でも営業は向いていると思いますね。
(後編に続く)
【連載】あの人だって元ビジネスマン!
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文/富山英三郎 撮影:佐坂和也
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