コミュニケーションに悩み続けた日々
――これまでの人生で他人とのコミュニケーションに悩んだ経験はありますか?
レンタルさん:そうですね、かなりたくさんあります。あまりに多すぎて具体的なエピソードが思い浮かばないくらいコミュニケーションが苦手なので、学生時代からこれまでずっと悩んできました。「対人恐怖症」まではいかないんですけど、どんなシーンでも誰かと接するのは苦手ですね。コミュ障だと思います。
――コミュニケーション能力を身に付けるための対策はされましたか?
レンタルさん:なんとか周囲のみんなと同じようになるために、常に考えて試行錯誤していました。「○○をしたら、コミュニケーション能力が改善される」みたいな大人の考え方ではなかったですが、「輪に入るためにはどうすればいいんだろう」「うまく話すにはどうすればいいんだろう」と考えて過ごしていましたね。
今もプライベートで人と関わる機会が発生したときには、同じようにオロオロしてしまう。いろいろ試行錯誤しましたが、結果的に解消できていないままなんです。
なんもしない活動には自然と辿りついた
――レンタルさん自身のコミュ力と、現在の活動に乖離があるように思えます。「レンタルなんもしない」を始めたきっかけは?
レンタルさん:会社勤めやライター業なども経験しましたが、どれも自分には向いてなかった。ですが、その「自分にはなんにもできない」と感じたことこそが、今の活動に自然と繋がったんです。コミュニケーションに悩んだ経験も、なんもしない活動を思い付いたことも、思い付いたアイデアを実行したくて仕方なくなったことも、すべて自分がこれまで歩んできた人生があったからこそ。経験や過去が凝縮されて、「レンタルなんもしない人」は完成しました。
――現在の活動内容を教えてください。
レンタルさん:だいたい1日3件くらいなので、数えてはいませんが年間1,000件くらいの依頼をこなしているでしょうか。テレビや雑誌を見て「ちょっと興味あるな」と依頼する人もいれば、リピーターとして何度も依頼する人もいます。なんもしない活動はコミュニケーションをとっているわけではないので、「コミュニケーションをとらないこと」を心地いいと感じている人が依頼しているんだと思います。
――日々知らない人とコミュニケーションをとるのに疲れたことは?
レンタルさん:コミュニケーションをとっているように見えるのは、おそらく会話が発生しているからですよね。僕にとっては「自分がなんもしていないと考えている範囲での受け答え」になるので、特別ストレスに感じることはないです。こちらから会話のテーマを振ったりせず、向こうからされた質問に答えているだけ。相手がなんにも話さなければ、ずっと沈黙のパターンもありますよ。
――沈黙が続く気まずさは感じませんか?
レンタルさん:いや、特に気まずい雰囲気にはならないです。最初から「レンタルなんもしない人」として会っているので、僕はなんにもしませんし、相手もアクションを求めてきませんね。むしろ沈黙が当たり前として、双方の共通理解を得られている状態です。当然、これがプライベートだったら気まずさを感じることもあると思いますが……。
――レンタルさんの「沈黙を当たり前にする関係性」は、ビジネスシーンでも活用できそうですね。
レンタルさん:もちろんシーンやコミュニティによっても異なりますが、最初に頑張りすぎないことは重要かもしれないですね。初対面でコミュ力が高い“フリ”をしてしまうと、結果的にのちのち帳尻が合わなくなる。最初に築いてしまった自分のキャラクターを脱せずに、しんどい思いをする人って多いと思いますよ。コミュニケーションが苦手な、いわゆる「コミュ障」の人は、僕みたいに最初から「(コミュニケーション)なんにもしません、苦手です」を公言しておくのもいいかもしれません。
――最初から「コミュニケーションが苦手」と伝えるのも緊張しそうですね……。
レンタルさん:うーん、でも自分の“素”を出して嫌われてしまったら仕方ないですよね。きっともともと長く続かない場所だと思いますし、最初ムリしても結果的にしんどさを感じてしまうと思います。
相手の話を理解しようと思わないことが、「聞く力」に自然と繋がる
――現在の活動を通じて、「聞く力」は上達しましたか?
レンタルさん:「聞く力を上達させよう、スキルを活動で使おう」と思ったことがないので、自分で”聞く力”について意識したことはないです。でも、なんもしないことが聞く力に見えているんだと思います。
相手の話を理解しようとすると、自分の持っている価値観に当てはめてしまうじゃないですか。勝手に話を咀嚼してしまうというか。その「理解しよう」とする聞き方こそが、相手の話をどこかで見聞きしたような型にはめちゃうんですよね。
――(ギクッ)たしかに、今まさにそんな感じで話を聞いていました……。
レンタルさん:そう、相手の話を理解するために、自然とカテゴライズしようとしてしまうんですよね。僕は「なんもしない人」なので、そのプロセスが発生しないんです。だからこそ話している相手や周囲からみると、しっかり聞いている人だと認識されるんだと思います。
――最近はオンラインでの活動も多いようですが、対面と違う部分は?
レンタルさん:直接会って話すのと、電話やビデオチャットを通すのはまったくちがいますね。やっぱり一番やりやすいのは、顔を見ながら対面で話すとき。会話の間ができたときにも、“音”としては無言でも表情や仕草から状況を読み取れます。同じ沈黙でも電話中に「なんで黙ってるんだろう?」と考えながら待つ時間と、「あ、コーヒー飲んでるから黙ってるのか」と感じる時間は別モノですから。対面は情報量が多いので、コミュニケーションはとりやすいんです。
電話の場合は、相づちのタイミングも難しいです。対面だと無言で相づちを打てるんですが、電話の場合はずっと黙るわけにもいかないのでこまめに相づちが必要になります。自分が声を出すことによって会話のジャマになってしまう場合もあるので、加減が難しいんですよね。
――オンラインでの仕事中に気を付けていることは?
レンタルさん:僕自身オンラインでの活動がそこまで多くないですし、苦手なのでアドバイスはできませんが……。強いて挙げるならば、「オンラインコミュニケーションって難しいよね」と共通認識を持っておくことですね。自分が気まずさを感じていることって、大抵は相手も同じ気持ちを抱いています。事前にオンラインならではの気まずさを“あるあるネタ”として話しておくことで、不便なのを前提としておくのもいいかと思います。
――オンラインでのやりとり中に、沈黙による気まずさ以外に困ったことはありますか?
レンタルさん:先日「Zoomで引っ越しを見てほしい」という依頼があったんですが、途中で回線が切れてしまって……僕は退出マークが表示されたので、もういいのかなと思って次の依頼人とのやりとりに進んだのですが、数時間後にその依頼人から「退出されたんですね」とメッセージが届いたんです。お互いに相手が先に退出したと勘違いしていたことが分かりました。
今回のように双方トラブルなく終われば良いですが、仕事関係のシリアスな場面であれば知らない間に相手を怒らせてしまう可能性もありますよね。だからこそ、僕の個人的な希望としてはオンラインコミュニケーションツールはあんまり普及してほしくないかな。電話やビデオチャットって、コミュ力が高い人向けの手段だと思います。
コミュニケーションが苦手な人にとって、マニュアル&アドバイスは逆効果!
――オンライン会議のトラブルに備えて、事前練習やマニュアルを用意するビジネスパーソンも多いようですね。
レンタルさん:いや、マニュアルを頭に入れるのは逆効果だと思います。頭に入れる情報が多ければ多いほど、とっさの質問に対して「あれ、なんだっけ」と焦っちゃうので。今回のインタビュー前にいただいた質問案を読まなかったのも、実はそれが理由なんですよ。あらかじめインプットした情報以外では対応できなくなってしまうのを避けました。コミュ力が低いと感じている方は、マニュアルやルールを頭に入れ込みすぎない方がいいと思います。
――「なにか話さないと!」と焦るビジネスパーソンに向けて、アドバイスをお願いします。
レンタルさん:いやぁ、アドバイスをしてしまうとなんかしてることになるので、依頼でも取材でも絶対に言ってないんです。それに、コミュニケーションに悩んでいるといっても悩みの種類や程度も人それぞれで、場合によっては悩んだ方がいいケースもありますしね。アドバイスを受けて実践したことって、実感が伴っていないので自分の身に付かないんです。誰かに「こうしなきゃ、こうすればいい」と言われても、“素”じゃない自分を演じ続けなければならないので結果的にしんどくなってしまいます。
僕自身がそうだったように、人から言われた言葉を応急処置的に貼り付けてもすぐに崩れてしまうんですよね。どのみち生きていくなかでそれぞれに合ったスタンスが作り上げられていくものだと思うので、自分だけのやり方を模索しみるのもいいと思います。
【プロフィール】
レンタルなんもしない人●飲み食いと簡単な受け答えに限定して、「なんもしない自分」を貸し出している。Twitter(@morimotoshoji)のフォロワーは27万人以上。著書『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』(晶文社)『<レンタルなんもしない人>というサービスをはじめます。:スペックゼロでお金と仕事と人間関係をめぐって考えたこと』(河出書房新社)など。テレビ東京にてドラマホリック!「レンタルなんもしない人」が放送された。
取材・文=山本杏奈
編集=五十嵐 大+TAPE
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