副業の定義とは? 副業の可否基準や副業に関するトラブルを社労士が解説

近年、さまざまな企業が解禁し始めたことから「副業」が注目を集めています。しかしそもそも副業の定義とは何なのでしょうか? どうしてこれまで多くの企業が禁止してきたのか? そして、なぜ最近になって解禁され始めたのか? 今回は副業の可否の基準や副業に関する状況について、税理士・社会保険労務士の中野裕哲さんにお話を伺いました。

副業の定義とは?

「副業」とは、本業のある人がプラスアルファの収入を得るために、本業の勤務時間以外を使ってする仕事のことです。

副業には大きくわけて二つのスタイルがあります。一つはアルバイトや短期間労働など、本業と別に雇用される形態ではたらくパターン。もう一つは自分自身が個人事業主として事業をするか、本格的ではないけれど雑所得として自分で何かしらの収入を得るパターンです。

ひと口に「副業」と言っても内職的なものや、趣味と実益を兼ねたものなど、さまざまなかたちがあります。本業で得た知識を使って、本業とは別のターゲットに提供するという副業も多いです。

よくある副業例

短期間労働・アルバイト
本業と別に雇用されて副業を行うパターンになります。

物販
自身の作った作品や、使用しなくなったものを販売する副業です。

単発の副業
イベントスタッフや覆面調査員など、単発の仕事やサービスに謝礼が発生します。

スキルを生かした副業
例えば企業の広報部でメディアに対してプレスリリースを配信している方が、そのノウハウを生かして異なる業種の企業で業務委託として広報を行うなどの副業もあります。

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複業や兼業とは何が違う?

「副業」と、「複業」「兼業」の違いについて紹介します。それぞれ細かな違いはありますが、法律の上では変わりません。

複業とは

あくまでもメインの仕事がある人が行う「プラスアルファの仕事」という位置付けの「副業」に対して、「複業」はパラレルワークの意です。つまり、本業が複数あり、どれも同じくらいの比重で行うスタイルです。

兼業とは

「兼業」は本業以外に自ら事業を持つことです。複業と似ていますが、会社に勤務しながら自分でも事業を経営した状態を指します。

副業が注目されている理由

数年前から国が働き方改革を推進し、「副業を積極的にやっていきましょう」という方針が打ち出されたことが背景にあります。それまでは副業禁止の会社がほとんどでしたが、大企業を中心に従来の就業規則を180度変えて副業が推奨され始めています。

雇用条件・雇用形態の変化

背景の一つは、会社の雇用形態の変化です。かつての年功序列や終身雇用のスタイルから、転職が一般化し、人材の流動化が顕著になってきました。

定年退職の年齢が上がり、会社が一生面倒を見てくれるという体制も崩れてきており、給料も欧米と比較して日本の水準は低い状況です。会社に在籍していれば毎年必ず給料が上がる、必ずボーナスが出る、という時代ではありません。老後2000万円問題などの社会不安もある中で、収入をどうにか増やすための一つの方法として副業が注目されています。

スキルアップの手段になる

社会不安の話とも繋がりますが、副業をきっかけに「独立して副業を本業にしていきたい」と考えている人も増えてきました。将来の仕事やキャリアアップの手段、社会経験や新たなスキルを身に付けるという目的で、副業が選択される場合もあります。

副業禁止を緩和する企業が増えている背景

団塊の世代を中心に労働市場から働き手が抜けたことによって、企業の人員不足が広がってきました。人材確保のために副業でもはたらいてほしいと思っている企業も少なくないでしょう。

例えばコンサルティング力のある人など、本業で培ってきたノウハウや知見を取り入れたいと考えて人材募集をしている企業もあります。本業の企業も、副業で得た知見や人脈を本業にフィードバックしてほしい、個人の成長がひいては企業の成長に繋がると考え、前向きに副業を推進しているケースが多いです。

実は副業の全面禁止は法律上許されていない

あまり知られていませんが、実は副業の全面禁止は法律上許されていません。いくら就業規則に「副業禁止」と書いてあっても、それが本業に悪影響を与えるなどはっきりした理由がない限り、会社としては罰則を科すことができないのが現状です。ただ、正社員としてこの先も本業を続けていくのであれば、組織に属する会社員としても、上司や同僚の心証に配慮し、就業規則やルールを守りながら副業をしましょう。

副業禁止でよくある3つのパターン

就業規則で副業がOKだったとしても、はたらき方や内容によっては副業NGになる場合も。特に「疲労等により本業に影響が出るほどの長時間の副業の場合」「本業と副業が競合する場合」「副業が会社の信用を失墜させるような場合」の3つにあたらないか、注意する必要があります。

1.疲労等により本業に影響が出るほどの長時間の副業の場合

例えば副業を朝までやって、本業に従事している日中に居眠りしてしまうなどはもちろんNGです。法律上罰則がないとはいえ、本業の仕事が全うできなければ就業規則違反になりかねません。会社員としての自分の立場を危うくするので、はたらき方のバランスを考えましょう。

2.本業と副業が競合する場合

本業のビジネスを同業他社に持っていくことは、利益相反になってしまいます。例えば、不動産業ではたらいている方が本業で得た不動産の情報を、別の不動産会社に流して副業をするのはNGです。仕事内容や人脈の扱いに関するルールを会社側がどう定めているか、しっかり確認してルールを守らなければいけません。特に本業の知見やノウハウを生かした副業だと、本業と関連しているビジネスや企業、人脈に近しくなりがちなので注意しましょう。

3.副業が会社の信用を失墜させるような場合

例えば本業の社内や取引先で副業の営業活動をすると、場合によっては会社同士の信用問題に発展しかねません。また副業で事件を起こしてメディアに出てしまったら、本業で所属する会社の信用を失墜させてしまいます。

機密情報の扱いも注意しなくてはなりません。本業の会社の技術資料や営業リストなどを使って副業をすると、信用の失墜を超えて犯罪になる可能性も出てきます。

副業を始める前の注意点

上記の注意点を踏まえ、トラブルを避けるためにも副業をする前は準備や本業の会社との話し合いが必要になります。就業規則として副業が問題なくても、企業風土として副業をしても本業の人間関係や職場の雰囲気に差し支えないかなど、実態を把握するようにしましょう。

自社の就業規則をチェックする

副業を考えている人が最初にすべきことは就業規則のチェックです。それとともに、本業の会社の人事部にも副業を考えていることを相談しましょう。副業をするにあたり届出が必要なのか、上長に報告すればいいだけなのかなど、条件は会社によって千差万別。副業の内容ややり方によっては許可が下りない場合もあるかもしれないので、事前に相談できると安心です。

就業規則があっても、やはり最終的には人間対人間の信頼関係が重要です。本業をこれからも続けていくならば、互いに気持ちよく仕事をするという意味でも、こそこそせずに本業の会社内での相談はしておくのがベターです。

副業に関するトラブルどうしたらいい?

副業を始めてから「確定申告しなきゃいけないのかな?」と不安になる方が多いです。将来的に副業で独立開業したい人は、副業時代の利益などが加味されて独立後の融資の可否が決まることもあると覚えておくとよいでしょう。

自分の将来を考え、損害やトラブルを防ぐ意味でもひとりで思い悩まずに、税理士や社会保険労務士など専門家に相談することをおすすめします。副業だからと軽い気持ちで片付けるのではなく、慎重に考えていきましょう。

確定申告をしなくてはならない基準は?

「副業の所得が年間20万円を超えたら確定申告が必要」とよく聞くと思いますが、確定申告をしなくてはならない基準は一律に語れません。その「20万円」の算出方法に誤解があったり、本業や副業の内容によってケースバイケースだったりするからです。

確定申告は事業所得や雑所得など申告の仕方にも種類があります。また確定申告のルール自体が変更されるなど複雑化してきているので、一度税理士の無料相談などを利用してみてください。人によっては副業を法人化したり、融資を受けたほうが良かったり、補助金が受けられる可能性があるといったケースもあります。

副業を始めるのであれば、お金についての相談先を確保しておくといいでしょう。なお、本業の源泉徴収票をもらい、副業の収入と合算して確定申告を行うなどの場合が多いので、申告漏れがないよう注意してください。

副業した場合の社会保険は?

確定申告と同様、一律に語れない部分が多いのが社会保険です。例えば副業で会社を作り、役員報酬を受け取ったり人を雇ったりすると、社会保険が発生します。そうすると、本業の社会保険と副業の社会保険をそれぞれどうするかという問題が出てきますが、非常に専門的な領域なので、これもひとりで考えずに専門家に相談するのがおすすめです。アルバイトで社会保険が発生する際も、まずは会社の人事や専門家に相談するといいでしょう。

一方、個人としてフリマサイトで得た収入や個人でサービスを提供する副業に関しては、社会保険は本業のものを利用するかたちで問題ありません

本業をより豊かにするための副業

広い業務の一分野を本業として担うことが多いですが、副業として新しいことを始めると、今までの仕事では見えなかったものがたくさん見えてきます。

例えば経理だった人が営業のような動きや広報のような動きをする必要が出てくると、本業の営業部や経営陣、社長が考えていることが分かったり、それぞれの立場や苦労を知ったりすることもできます。その経験を自分の仕事にもフィードバックしていけるので、本業をより豊かにするためにも、ルールを守った上で副業を検討してみてはいかがでしょうか。

【プロフィール】
中野 裕哲(なかの ひろあき)
起業コンサルタント®、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士、宅地建物取引主任者。主な著書に『一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」』(明日香出版社)、『相談件数No.1のプロが教える 失敗しない起業の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。
https://v-spirits.com/

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