ホンダのバイクや日清のカップヌードル、アップルのiPhoneにGoogleの検索サービス。
21世紀に生きる私たちにとって、当たり前となっている商品やサービスも、最初は当時のベンチャー企業による、まったく新しい価値の提案から始まりました。22世紀を代表するような企業やサービスも、今まさに私たちの周りで産声を上げているはずです。
今回は、時価総額や株価ではなく、「これからの社会で必要とされる事業」という視点から5つの会社をピックアップ。選んでくれたのは、サムライインキュベートの代表である榊原健太郎さんです。同社は日本のインキュベーターの草分けとして、2008年の創業以来80社を超えるベンチャー企業を支援。ソーシャル旅行サービスとして注目のトリッピースや、スマホアドネットワークのノボット(2011年に株式会社medibaの子会社化)などを世に送り出してきました。現在イスラエルで、世界進出する日本の起業のサポートに取り組む榊原さん。一体どんな企業を選んでくれるのでしょうか。
1.「Less is more」をスマートフォンに
BHI株式会社
同社が運営する「Swingmail」は、スマートフォンに届く雑多なメールをフィルタリングし、メッセージの中から重要なものだけを届けるウェブサービス。メールだけでなく、SNSのメッセージも1つのアプリ上で見ることが可能です。大量のメールやメッセージによるユーザーの負担を、緩和することをミッションとしています。
■榊原さんの視点
「このサービスは、『より少ないことは、より豊かなこと』というLess is more(レス イズ モア)の概念に基づいています。全部のサイトを見なくても、自分の必要な情報を必要なときに、そのアプリで見ればいい。そういう意味で、現在のような情報過多の時代に重要になる事業だと思います」(榊原健太郎さん:以下同じ)
※Swingmailのサービス詳細はこちら
2.子どもたちをネット犯罪から守るために
エースチャイルド株式会社
同社はいじめや出会い系、個人情報漏えいなど、ネット上の危険から子どもたちを守るサービス「filii」を運営しています。 子どもが利用するSNSやスマートフォンの利用データを取得し、分析するというデータマイニングの手法により、状況の見える化を実現します。また、親子で分析結果を共有することで、危険に気付き、対処することも可能に。
■榊原さんの視点
「SNS上でのいじめ問題など、ネットが普及することによって、子どもを取り巻くいろいろな犯罪のリスクが増えています。今はいじめですが、例えば出会い系や、個人情報の漏えいなどのリスクに対して、早めに対処をするということがより必要になってくる。そういう意味で重要なサービスです」
※filiiのサービス詳細はこちら
3.あなたのイラストがフィギュアに?
Emotional Brains株式会社
同社の「Okuyuki」は、イラストをフィギュアに変身させるウェブサービス。アニメのキャラクターを描いた2次元のイラストを、3Dで出力することができます。イラストレーターがキャラクターをサイト上にアップし、一定数のファンが集まれば、プロジェクトのオーナーとファンにフィギュアを作成して届けてくれるという仕組みです。
■榊原さんの視点 「例えば僕がドラえもんの絵を2次元で描いたら、ドラえもんのフィギュアがでてくる。3Dにするためにデータ化をしなくてもいい、という技術です。また、今はフィギュアですが、今後はモノを送れるようにしたい。例えば海外にいて「日本の扇子が欲しいな」というときに、2次元のデータを送れば海外でも出力できてしまう。最近では3Dプリンタによって、デジカメで撮ったようなものを立体にするお店もできてきているので、今後こういったサービスが重要になってくると思います」
※Okuyukiのサービス詳細はこちら
4.職人さんの情報革命
株式会社 職人さんドットコム
同社は「職人さん.com」という、建築業界に特化した地域密着型情報流通サービスを運営。これまで建築業界、特に現場作業に携わる職人さんたちは、情報化から取り残されがちでした。具体的には、作業現場が変わったとき、仕事に必要な道具や服などを買おうと思っても、どこに店があるかを探せるサービスが無いなど。このサービスではそうした職人の方が必要とする情報を提供することにより、個々の技術向上と時間的ロス、人的ロス、物的ロスの低減を図っています。
■榊原さんの視点 「ブルーカラーの人のための『ぐるなび』のようなサービスです。職人さんに限らず、これまでパソコンのリテラシーが低かった高齢者や子どもは、必要な情報を得られないことがありました。でも現在では、そういった方でもスマートフォンを使っている人が増えている。そうした状況を踏まえて、これまで情報を得られなかった人に対して、このようなサービスを通じて必要な情報を届けることが可能になっています」
※職人さん.comのサービス詳細はこちら
5.動画の「みどころ」を集める会社
株式会社ミノタケ
同社の事業は「みどころ.com」という、動画コンテンツの「みどころ」を集めるサイトの運営。サイト上で動画を閲覧するのと同時に、再生時間に沿った評価数の変化をグラフで表す「みどころ評価数グラフ」や、「笑いどころ」、「怒りどころ」、「泣きどころ」、「スキどころ」の評価がどの場面で高いのか分かる「みどころ分布グラフ」を閲覧することができます。
■榊原さんの視点
「忙しくて時間がないユーザーにとっては、コンテンツの面白い部分だけを抽出できるサービスです。またコンテンツの作り手にとっては、作品の分析に使えます。将来的にはどの部分が一番面白かったのか、喜怒哀楽がどの時間で大きくなるのかといった見どころを分析することによって、コンテンツ制作に生かすことを考えています。情報のチャネルが増えて、人々がより面白いものだけを見るようになってくるなかで、最終的には動画のリコメンドエンジンという感じになるかと思います」
※みどころ.comのサービス詳細はこちら
現在のスタートアップをめぐる環境と、若手ビジネスパーソンに必要なこと
最後に榊原さんに、現在のスタートアップをめぐる環境と、若手ビジネスパーソンに必要なことを伺いました。
--現在のスタートアップをめぐる環境について、どう思いますか?
「ものすごく恵まれている。なぜかというと、情報環境が充実し、大企業との取引もできますし、無料で使える場所もあります。プロモーションもSNSを使って簡単にできるし、サポーターもたくさんいるので、エンジニアさんさえいれば起業はめちゃくちゃしやすい。一方で僕が思うのは、ソニーやパナソニック、トヨタ自動車といった規模の会社を目指す人がいなかったり、海外に進出しようとする人がいないのが課題だということです。日本で上場など、成功するのは難しくないので、世界の中での日本や世界の中での自分、といった大きな視点を持つ方が増えてくれるとうれしいです」
--それでは、これからの日本の若手ビジネスパーソンに必要なこととはなんでしょうか。
「イスラエルの人と話をすると、『日本人はもっとリスクをとるべきだ』と言われます。『失敗してないと、この人は成功すると信じられない』そうです。日本だと1回の起業ですごいと言われますが、こちらでは3、4回目の起業が普通なので」
起業大国といわれるイスラエルは、今なお民間人まで巻き込んだ戦闘が起こる地域でもあります。イスラエルの起業家たちがリスクを恐れないことの背景には、「常に命を落とすリスクがあるのだから、できることはどんどんチャレンジしよう」という精神があるのかもしれません。
榊原さんが最後に言った、「日本には『七転び八起き』ってあると思うので、それを実践してほしいなと思います」という言葉が、取材後も耳に残りました。何度転んでも起き上れる、ということの幸せ。この平和な日本で、しかも若さという特権を持っている私たちこそ、積極的にリスクを取り、未来に向けて新しい価値を生み出すチャンスを手にしているのです。
識者プロフィール
榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)/サムライインキュベート代表取締役CEO。株式会社アクシブドットコム(現VOYAGEグループ)創業期において営業統括として、営業本部の立ち上げ、営業販促戦略、広告商品開発、アライアンス戦略に取り組む。その後、株式会社電通ワンダーマンにて、大手情報通信・飲料メーカー・金融会社のダイレクトマーケティング戦略に従事。その後、株式会社ECナビ(現VOYAGEグループ)に復帰、営業統括として、西日本広告販売ブランチの立ち上げ、営業本部の再構築、モバイルサイトの立ち上げに従事。2008年にシード・アーリーベンチャーの経営、マーケティング、営業、人事戦略支援に特化した株式会社サムライインキュベートを設立し代表を務める。スタートアップのベンチャーに投資するとともに、70社ほどのベンチャーの社外取締役を兼務している。
※この記事は2014/09/16にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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