「雑談」こそ、実は仕事の成功を握るカギだと話すのは、「雑談力」を高める方法を具体的・実践的に解説した『超一流の雑談力』の著者である安田正さん。
一体、なぜ雑談が仕事の成果を左右するのか、そして雑談力を鍛えるにはどうしたらいいのか、 雑談力が上がるコツについて安田さんにお伺いしました。
全てのコミュニケーションは雑談から
「雑談とは、意味のないムダ話をすることではありません。雑談とは本来、人間関係や仕事の質を根本から変えてくれる魔法のようなメソッドです。雑談は人と人をつなぐ最初の接点。どんな仕事、どんな人間関係でも、まずは『こんにちは』というやりとりから始まります。このちょっとしたやりとりの中で、お互いに共感が生まれ、理解が深まり、それがのちの信頼関係の礎となるのです」(安田さん、以下同じ)
この雑談の力「雑談力」を高めることで、安田さんは「仕事が驚くほどやりやすくなり、成果も上がる」といいます。雑談と聞くと「自分が何か面白いことを話さなければ」と思ってしまいがちですが、それは大きな間違いなのだとか。
「雑談は、自分が話したいことを話すのではなく、相手が何に興味を持っているのか、どんな話を聞きたいのか、それを特定するためのプロセスなのです」
この雑談によって、「その後の商談やミーティング、打ち合わせなどがスムーズに進むことになる」のならば、20代の今から、すぐにでも身につけておきたいもの。そこで早速、雑談に大切なポイントを伺いました。
雑談の基本、3つのポイント
(1)開口一番は「よろしくお願いします」
<意外とできていないのが開口一番の爽やかなあいさつ。
会話の始まりで大事なのは「つかみ」の部分。ここでうまくいくと、その後の会話の空気がとても良いものになるそうです。
「まずは元気に笑顔で
『初めまして。○○社の××です。本日はお時間をいただき、どうもありがとうございます。よろしくお願いします』
と言いましょう。爽やかにハキハキと『よろしくお願いします』と伝えることで、相手と話すことを許される状態をつくります」
(2)声の高さは「ファ」か「ソ」
声のトーンは高めを意識して話をしましょう。高い声は、話す人のキャラクターを社交的に感じさせる効果があるそうです。
「ドレミファソラシドと口ずさんでみて、ファかソの音の高さがちょうどいい高さです。一方、低い声は落ち着きがあり、信頼的な感じを与えるメリットもありますが、しかしそれ以上に『高圧的』『暗い』『とっつきにくい』という印象を与えてしまうデメリットがあることも」
声が低めの方は、いつもより少し高めの発声を意識してみると効果的かもしれませんね。
(3)最初の話題は「当たり障りのない」ものが正解
まず、最初きっかけとなる話題は、当たり障りのない天候や相手の会社の情報、ファッション、健康、趣味、最近のニュース、共通のこと、出身地、血液型、仕事の中から選ぶとよいそうです。
「一流の雑談とは、何もトリッキーな話を膨らませて話題をふるというわけではありません。天気などのありふれたところから話を膨らませていきながら、相手と自分との共通点などを見つけ、相手の懐に入っていく。一流の雑談は、そのプロセスがとても自然にできることなのです」
A「しかし、最近の異常な大雨には困ってしまいますね。今も駅についた瞬間に降られてしまいました」
B「急に降ってきますからね」
A「そうなんです。なかなか天気が読めないので、週末も外へ行く予定が立てられなくて困っているんですよ」
B「ありますよねぇ、私も先週予定がつぶれてしまいました」
A「ええっ、それは災難でしたね! どこに行かれるつもりだったんですか?」
このように、自然な流れで「天気」から「週末の予定」にテーマを移動させていきます。
基本的には一つの話題をフックにして、相手の反応を見ながら何か引っかかる話題があったら深堀りしていく…というのが雑談の基本的な流れです。
逆に話題にしてはいけないのが政治や宗教。個人の思想が深く関わってくるため、雑談ではなく議論になってしまう可能性があるそうです。
あいづちは「さしすせそ」が基本
安田さんいわく、雑談をうまく広げるには相手の話に対する「聞き方」が非常に大切なのだそうです。
「質問のしかた一つでその後の会話の広がりが変わってきますし、何よりも人は『自分の話を聞いてもらえると安心する、うれしくなる』生き物だからです。おおまかな目安としては『自分2:相手8』くらいの会話量を目指すとよいでしょう」
聞き方でまず大切なのがリアクション。良いあいづちとは、相手の話を受けて「自分はどう感じたのか」を相手に伝える言葉を選ぶことだそう。あいづちは次の「さしすせそ」を心がけるとよいのだとか。
さ=さすがですね
し=知らなかったです
す=すてきですね
せ=センスがいいですね
そ=それはすごいですね
「これらに共通するのは『相手の話に価値がある』というリアクションを取るということです。もちろん、ただこの言葉をそのまま使うだけではなく、しっかりと相手の話を聞いて言葉や動きに情感を込めることがポイントです」
ちなみに、よく使ってしまいがちな、「なるほどですね」「そうですね」というあいづちはできる限り避けるべきだそう。
「これらの言葉は、相手にもよりますが不快感を与えてしまうフレーズだったりもします。『なるほどですね』は、なんだか違和感のある言い方で引っかかりますし、『そうですね』は、話を本当に聞いているのかな? という不信感を抱かせてしまうのです」
「連想ゲーム」で会話をつなぎ広げる
さらに、「なるほどですね」「そうですね」がNGという最大の理由として、会話を止めてしまうことが多いからだと安田さんは言います。
「聞き方で雑談をうまく広げていくコツは、『連想ゲーム』のように会話をつないでいくことです」
NG例)
相手「消費税の増税が先送りになりましたね」
自分「そうですね」
この返事では、せっかく相手が話題をふってくれたのにここで話が止まってしまいます。
OK例)
相手「消費税の増税が先送りになりましたね」
自分「どっちみち10%になるでしょうから、備えをしておかないとなりませんよね」
などと返せば相手も「御社は何か対策を考えておられますか?」と返しやすく、会話が続いていくことが想定されますね。では、相手の話題が自分の知らないキーワードや詳しくない分野だった場合はどうすればいいのでしょうか。
「このような場合に話を止めないテクニックとして、相手の言葉と同じことを伝える『オウム返し』がありますが、ただ返すだけでなく、『質問形式で返す』などして、話が広がりそうな言葉を付け加えましょう」
NG例)
相手「この前、マラソンの大会に出たんですよ」
自分「え、大会に出られたんですか」
OK例)
相手「この前、マラソンの大会に出たんですよ」
自分「え、大会に出られたんですか、それはフルマラソンの大会ですか?」
「オウム返しをしている数秒の間に何か会話が広がる質問を考えることができますし、さらに質問を足すことで、相手が詳細な説明をしてくれるなどして会話が続きます」
雑談力を鍛えるポイント
しかし、このような雑談力は「一朝一夕で身につくものではない」と安田さん。大切なのは日常の中で雑談の練習をすることだといいます。中でも簡単で効果的な方法が「知らない人に声をかける」という方法だそうです。具体的には以下の3つを実践するといいでしょう。
あいさつをする
明るく元気に、社内はもちろん、掃除の方などにもあいさつをする習慣をつける
エレベーターで「何階ですか?」と聞く
声が小さく低くなりがちなので、高めのトーンと気持ち大きめの声を心がける
お会計の時に店員さんと話す
「ごちそうさま」「おいしかったです」の一言で済ませるのではなく、「お財布のひもが許せば、毎日食べに来たいですよ」「おもてなしを感じる接客で、ファンになってしまいました」など小粋な一言を心がける
「インターネットにスマートフォンの普及など、昨今の時代背景もあって、知らない人に声をかけることがなかなか難しくなってきています。この3点は『人見知り』の壁を突破する良い方法でもありますので、『そもそも人と話すことが苦手』と思っている方も、ぜひトライしてみてくださいね」
20代こそ「雑談力」を身につけよ
最後に、安田さんから20代の読者にメッセージをいただきました。
「今の20代の方は、限られたコミュニティーの中にいる人としか話さない人が増えています。あうんの呼吸で通じる仲間としかコミュニケーションをしていないので、それ以外の人と話すことが難しいと感じてしまう傾向にあるようです。ご存知かもしれませんが、ここ5年ほどで『不特定多数の人からの電話に出ることがつらい』ことを理由に仕事をやめる人が増えています。
自分と経験や立場が違う人と会話をすることは難しいものかもしれませんが、限られたコミュニティーだけにとどまっていては雑談力が向上しません。ですので、年代が違う、出世している、など自分とは違うコミュニティーに属している方と話す機会を持つことを心がけてみてください。
そして、繰り返しになりますが雑談の基本は『自分が話したいことではなく、相手が聞きたいことを話す』こと。このマインドを持つだけで劇的にコミュニケーションが変わってきますよ」
人間関係を円滑にして仕事を成功へと導いてくれる「雑談力」。まずは今日、または明日から、爽やかで気持ちの良いあいさつをしてみませんか? 一番大事で一番身近なあいさつを毎日欠かさず継続することで、一カ月、そして一年後、あなたの雑談力にグッと磨きがかかってくることでしょう。
(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)
(オススメ記事)
デキる人は実践している! 雑談力が上がる話し方のポイント4つ
コップのフチ子は雑談から生まれた? 大ヒット商品を生む企画術に迫る
「問わず語りの松之丞」の若手講談師・神田松之丞から学ぶ話す技術
識者プロフィール
安田 正(やすだ・ただし)
株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループ代表取締役。早稲田大学グローバルエデュケーションセンター客員教授。1990年法人向け研修会社パンネーションズを起業。現在は英語、ロジカル・コミュニケーション®、プレゼンテーション、対人対応コーチング、交渉などのビジネスコミュニケーションの領域で講師、コンサルタントとして活躍している。大手企業を中心に研修、コンサルティングを通して多くの役員との交流がある。東京大学、早稲田大学、京都大学、一橋大学などでも教鞭をとる。
主な著作としては『一流役員が実践している 仕事の哲学』、『英語は「インド式」で学べ!』、
『超一流の雑談力』、『超一流の雑談力 超・実践編』、『まんがでわかる 超一流の雑談力』などベストセラーを連続して世に送り出している。
※この記事は2017/12/26にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
【関連記事】
「雑談力」の記事一覧
「人間関係」の記事一覧
あなたの本当の年収がわかる!?
わずか3分であなたの適正年収を診断します