日本は海外からみると、とても小さな島国です。その周りには大小たくさんの国があり、たくさんの人が働いています。旅行などで日本を離れた時、あらためてそれぞれの国の文化や働き方、さらにはものの考え方がいかに多様であるかがわかるでしょう。
海外の事情や働き方を知ることは、私たちの今の働き方を見直し、新たな気づきを得ることにもつながります。そこで今回は日本人にも馴染みのある国、韓国の働き方事情について現地の韓国人、イ・ウナンさんのほか、筆者の友人である韓国人のビジネスパーソン数名にお伺いしました。
東京とソウルの気候、物価はどう違う?
2003年に放送されたドラマ「冬のソナタ」をきっかけに、中高年層を中心に吹き荒れた韓流ブーム。それから10年以上経った今、日本では再び韓流ブームが起きているのをご存知ですか。「JC・JK流行語大賞2017」では、韓国の焼肉料理にチーズをアレンジした「チーズタッカルビ」と韓国の女性アイドルグループ「TWICE」が各部門で1位に選ばれるなど、10代~20代の若者の間で話題になっているコリアンカルチャー。首都ソウルへは東京から約2時間30分で到着するなど、日本と距離が近いことも特徴です。
ソウルの夏は東京と同じくらいの気温ですが、冬はマイナス10度を下回り、厳しい寒さに見舞われます。物価も東京とほとんど変わりはありませんが、外食をする場合、日本食や洋食は韓国料理に比べて1.5~2倍ほど高く設定されているそう。東京と比べて安いのは交通費で、地下鉄は約125円~、バスは約120円~、タクシーなら初乗り約190円ほどです。
K-POPをはじめとする音楽や韓流ドラマといったエンタメは、20代の間でも人気があるのではないでしょうか。SAMSUNGなどの電化製品や韓国コスメ、キムチ・ビビンバ・サムギョプサルなどの韓国料理は、今では誰もが知っていると言っても過言ではないかもしれません。
一方、ユニクロやダイソーなどの日系企業も韓国でも注目されており、資生堂、TOYOTA、三菱などの企業は日本と同じく就職先として韓国人にも人気があります。
幼少期からのスパルタ教育
韓国・ソウル在住で27歳のイ・ウナンさんは、ソウルのコスメ会社で日本マーケティング部門に所属しています。ウナンさんが学生時代、親や先生からよく言われたのは「いい大学に入っていい企業に就職すれば人生は安泰」という言葉。そんな学歴至上主義が今でも根強く残る韓国ですが、日本のセンター試験にあたる「大学修能試験」は、まさに国家行事といえるそう。
「国全体が受験生のために動きます。試験当日、企業は学生が通勤ラッシュに巻き込まれるのを防ぐため、始業時間を遅らせます。そのほか、警察は遅刻しそうな受験生をパトカーで試験会場まで送ったり、英語のリスニングテスト中に妨げにならないよう、飛行機が離発着を中止したりして受験に集中できる環境づくりを徹底。高校の前では受験生の後輩たちが先輩の合格を願って祈りを捧げます」(ウナンさん、以下同じ)。
この厳しい受験戦争は、小学生の時から始まると言います。
「小学校から塾通いや家庭教師をつけるのは当たり前。私は小学4年生から英語を習っていましたが、今は幼稚園から習う子も多いみたいですね。小学校と中学校の時はほとんど遊びに行くことはなく、習い事のかけもちをしながら毎日、習い事と勉強をしていました。高校は進学校へ進みましたが、通常の授業が17時頃に終わっても、みんな学校が閉まる22時まで自習室で勉強をします」。
ちなみに韓国では1997年に、小学3年生から英語の授業が必修となりました。日本は2011年度に小学5年生から必修化されたことを考えると、韓国は日本より14年も早く英語教育を取り入れていたのです。
高校は主に進学系、商業・工業系、体育系、芸術系(音楽・美術・舞踊など、エンターテイナーの育成)などの分野に分かれるそう。ソウルの私立高校に通っていた筆者の友人は、高校1年生の時から朝7時に登校して授業が始まる9時まで自習。22時以降は学校の向かいにある自習室でさらに勉強し、夜中の2時まで勉強漬けの毎日を送っていたと言います。これは一部の人だけではなく、あくまで普通の学生の1日の過ごし方だとか。
激しく厳しい学歴戦争の中、進学校の生徒たちは日本の有名大学にあたるソウル大学、高麗(コリョ)大学、延世(ヨンセ)大学などの一流大学を目指します。その後、妥協することなく大手企業を目指しても、待ち受けているのは厳しい就職難。大手に正規雇用で就職できるのはほんの一握りですが、それでも大手に行きたいという人が多いため、就職活動が数年にわたることもあるそうです。
「面接では、一流大学卒、TOEIC満点、パソコンの資格保有など、同じような経歴とスキルの履歴書が並びます。そのため、大学では中国語や日本語の資格取得、海外留学のほか、ボランティア活動やインターンなどの課外活動に励んで差別化を図りますが、結局、横並びになってしまいます」。
就職活動では、女性は美容院でプロのヘアやメイクを施してから私服で面接へ行ったり、男の子も薄くメイクをして面接に臨むなど、外見で個性を演出するそうです。黒髪に紺のリクルートスーツで面接に臨む日本の就活生とは一線を画していました。
最大手企業の初任給は年収420万円、ボーナスは100万円以上?
韓国の厳しい就職難の原因は「収入格差」だと話すウナンさん。
「韓国最大手の企業に勤める友人の新卒初任給は、年収420万円ほどでした。これは一般的な大手企業の平均年収にあたります。超高倍率のため、書類選考から内定まで約3カ月かかることも。一方、一般企業の新卒初任給の平均は18万円ほどです」。
ちなみに大手でもボーナスの支給額には差があり、中には会社の利益によって100万~数百万円のボーナスが支給されるところもあるのだとか。大企業と高給の魅力は大きいですが、新卒初任給の平均は日本(東京)とほぼ同じ。しかし、近年ソウルは物価と家賃が高騰しており、ソウルでの生活は東京よりもお金がかかるよう。
「ソウルで一人暮らし用の部屋を借りる場合、都心から離れた地域で条件が良くなくても家賃は5~6万円から。さらに、入居するために保証金として50万円ほど支払わなくてはなりません。東京より引っ越し費用がかかるので、一般的な給与であれば負担は大きいかもしれないですね。ある韓国の記事には、ソウルの中心部で一人暮らしをするには、手取りで月収25万円が最低ラインと書いてありました」。
韓国では「自分の家を買う」ということがステータスとされていますが、ソウルで新築のアパートメントを買うとなれば数億~数十億円もかかります。そのため、ソウル近くに家を購入したり借りたりして、夫婦共働きの家庭が多いそうです。
「結婚するにしても、式場で結婚式を挙げるには300~500万円ほどかかります。物価の高いソウルで生きていくためには多くのお金が必要なので、少しでも給料の良い企業で働き続けなければならないのです」。
過酷な長時間労働に大手から転職も
ところが最近では、大手企業から中小企業やスタートアップの会社に転職するビジネスパーソンも増えています。
「大手企業は収入が良くても拘束時間がとても長いです。そのため、深夜まで残業したり、土日に出勤したり、プライベートの時間を確保できない人が多くいます。特に、若いうちは自分がやりたい仕事をできるわけでもありませんから、20代~30代の人は人生の質を求めて大手からスタートアップ企業に転職する人も目立ちます」。
スタートアップ企業への転職は、給与は下がるものの自由度が高くなることが多いそう。やりがいのあるプロジェクトを担当できる、勤務時間がフレキシブルに設定できる、リモートワークがメインなど、日本でいう働き方改革が進んでいる企業が多いといいます。
とはいえ、やはり大手企業の人気は圧倒的。転職するにも大手企業に勤めていたというブランドは有利になりますが、一般企業からの転職はそう簡単ではありません。
「転職するには、何よりも以前勤めていた会社での実績が必要です。例えば、主任や課長などの役職に就いていたなどですね。まずは今の会社でしっかりと仕事をして評価されないと、転職は難しいかもしれません」。
韓国の基本的な福利厚生制度は、年間15日の有給休暇や産休は3カ月など、ほぼ日本と変わりませんが、一般企業はボーナスの支給がないところが多いとか。企業によっては、カフェテリアや無料の社員食堂、保育所などが併設されているところもあり、ウナンさんの会社では、結婚休暇(5日間の休暇+約10万円支給)や書籍購入費の支給(月約3,000円まで、雑誌も含む)といった福利厚生制度があるそうです。
韓国人から見習いたい「タフさ」
厳しい受験戦争や就職活動。それを乗り越えて社会に出ても、少ないイスの取り合い。そんな逆境に立ち向かう彼らの「タフさ」は、どこで養われているのでしょうか。
日本と韓国の大きな違いとしては、韓国の男性は20歳~29歳の間に約2年間の兵役につく義務(徴兵制度)があります。多くは大学在学中に休学し、兵役を終えてから復学するそうです。
「以前は頼りない性格だった男性が、兵役から帰ってくると心身共に鍛えられ『大人』になって帰ってきます。体力も精神力も備わることで、自分に自信がつくようですね」。
厳しい状況でも諦めない精神力は、徴兵制度によって養われているのかもしれません。一方、女性に関してはこんな"強さ"があると言います。
「よく、韓国人女性は『気が強い』と言われますが、たしかに、日本人女性と比べればそういう方が多いかもしれません。でも、自分の主張を言えることは韓国ではマスト。もし言えなければ、仕事にもプライベートにも悪い影響を及ぼしますから」。
幼い頃から厳しい環境の中で鍛え上げられてきた韓国のビジネスパーソンたち。その高い志と強い精神力には、日本の若きビジネスパーソンも見習うべきところがあるのではないでしょうか。
(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)
識者プロフィール
イ・ウナン
1991年生まれ。韓国・水原市出身。
2010年、日本の「東放学園専門学校」入学。卒業後はテレビ番組制作プロダクションに入社し約2年間アシスタントディレクターとして働く。2014年に韓国の企業に転職。現職はソウルのコスメ会社で日本マーケティング部門に所属する。
※この記事は2018/02/16にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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