アフリカは本当にブルーオーシャンか。「DMM.Africa」の石本氏に聞く、アフリカビジネスのリアル

アフリカがブルーオーシャンといわれ始めて久しいですが、日本の企業で大きく飛躍した企業をいまだ聞きません。

アフリカは本当にブルーオーシャンか。「DMM.Africa」の石本氏に聞く、アフリカビジネスのリアル

アフリカがブルーオーシャンといわれ始めて久しいですが、日本の企業で大きく飛躍した企業をいまだ聞きません。

そんな中、2016年に海外での事業展開の一環としてアフリカでのビジネスプロジェクト「DMM.Africa」をスタートさせた株式会社DMM.com。そこで今回は「DMM.Africa」でガーナを中心にビジネス開発に注力している石本満生さんに、アフリカでのビジネスの可能性やアフリカのリアルな現地情報についてお伺いしました。

データがないから、自分の足を使って情報を確かめる


――石本さんの簡単なご経歴と現在のお仕事について教えてください。

新卒で三菱商事プラスチック株式会社に入社し、5年ほど国内外の営業・貿易実務に従事した後、株式会社シェアトレードというベンチャー企業に転職しました。

シェアトレードでは、西アフリカ原産のスパイスの買い付けと、加工・輸出をガーナ現地で担当していました。現在はその経験を生かして、DMM.Africaでガーナを中心とした新規ビジネスの立案を担当しています。

今はガーナを中心に、農業やクリーンエネルギー関連事業の可能性を探っています。とにかく現地の人に会い、ビジネスの方向がマッチしそうな人や企業を紹介してもらっています。

ガーナには信頼できるデータや統計はほとんどありません。インターネットで検索するだけでは「正しくない」データをつかまされ、足元をすくわれてしまうこともあります。

まずは自分の足を使い、情報の真偽や、現地で紹介してもらった人のビジネスの内容と企業のリアルな収益を確かめています。「こういうビジネスをやっている」と相手が言っていても、実際はしていないケースもあります。そのため、農地や工場に赴いて自分の頭でビジネスの規模を計算し、実態を推測することが大切なことなんです。

ガーナの印象とリアルな現地事情を知った


――はじめてガーナに行かれた際、どういった印象を抱きましたか?

ガーナの人たちは楽観的で明るく、日本で息苦しく働く自分よりも人生を楽しんでいるように感じました。もちろんガーナの人たちも、楽しいことばかりではなく、仕事や収入がないときもあります。でも、そういうときでも悲観せずに、とりあえず何か商売をしたり仕事を手伝ったりして、その日を生きるための生活費を稼いだり、必要なものは自分で作ったりしてしまいます。そういった、彼らの生きる強さに憧れを抱きました。

同時に知ったのは、ガーナの貧困問題です。私がホームステイしていた地域では、NPOなどの支援により、学校自体はつくられていました。しかし、貧しい家庭では学校に通うためのお金がなく、また子どもたちは家計を助けるために学校に行かずに働かなければいけないという現実もありました。


この状況を改善するには、一般家庭が安定的に収入を得ることが大切だと考え、さらにそのための雇用をつくる必要があると考えるようになりました。そして、その考えを実現するため、現地の人の雇用を増やせるビジネスを立ち上げたいと考えるようになり今に至っています。

パン工場を立ち上げた経験と、アフリカビジネスで大事なこと


――アフリカでビジネスを立ち上げた経験はありますか?

2社目の「株式会社シェアトレード」でガーナに駐在をしていたとき、個人でパン工場を立ち上げました。

立ち上げた理由は、前述のとおり現地に雇用をつくりたかったから。雇用をつくるためには製造業が適していると思ったんです。製造業の中でも安定した需要がある食品、その中でも常食となり需要が伸びているパンで事業を立ち上げようと思いました。パンの作り方を学ぶために何社かガーナのローカルのパン屋さんを巡って修業し、それからパン工場を立ち上げました。

工場を建てると決めたときは、何も分かりませんでした。なので、条件に見合う場所を探すためにガーナの友達に相談すると、彼らは、条件に合う場所を探して値段交渉までしてくれ、好条件で工場を持てることになったんです。ガーナ人のサポートなしでは、何も形にできなかったと思います。

――ビジネスを行うには、現地の方と信頼を築くことがキーとなる気がします。

たしかに、現地の人と仲良くなることは大切です。ただ、ビジネスのパートナーとして信頼できるかはまた別の話。もちろん、基本的にはみんないい人です。ただ、お金が絡んだりお酒を飲んだりすると性格が変わる人もいる。僕が人とビジネスをするときに意識するのは、「観察すること」と「コミュニティーに入ること」です。


たとえば、ある人をビジネスパートナーにしたいと思ったら、まずその人の友人や恋人、家族に会ってみます。そこからその人の人間関係や性格を知ることができ、コミュニティーの中での評価や信頼度も知ることができます。「信頼できる」と思ったらまずは相手を信じて少額のビジネスから始め、徐々に額を増やしていきます。

また、ガーナの人は自分のコミュニティーの中にいる人間を大切にします。なので、家族や友人としてコミュニティーの一員となることも良いと思います。日本のビジネスでは考えられないほど密な関係でいますね(笑)。

アフリカを「ブルーオーシャン」とは断言できない


――アフリカは本当にブルーオーシャンなのでしょうか?

アフリカ全体で見ると市場規模は拡大しつつあり、活気があるのは確かです。ただ、私個人としてはアフリカをブルーオーシャンだとは思っていません。日本にとっては新しい市場ですが、かなり昔から欧米や中東、アジア圏の国々の企業がアフリカでビジネスをしており、現地に根付いています。

日本企業が新規で参入する場合、自分たちの強みや新しい価値を提供していかないと、競合他社に負けてしまうでしょう。

――日本企業の強みはどこにあるのでしょうか?

アフリカの人々にとって、日本はJICA(国際協力機構)のボランティア活動(青年海外協力隊)や各種の技術的・物質的支援の他、政府によるODAなどの援助の印象が強いようです。だから、今はまだ他国に比べて見返りを求めない国だと思われている部分もあり、日本に対する印象はとても良いと思います。

また、アフリカでも認知度が高いTOYOTAのような企業のおかげで、技術力の高い国という評価もあります。日本企業の製品は、品質や機能は良いのですが、アフリカの人々が求めているニーズを把握しきれていないという印象もあります。今後、アフリカの人々のニーズに合ったプロダクトをきちんと提供していくことが大切になってくると思います。

――彼らのニーズを理解するためには何が必要でしょうか?

ある程度の期間、彼らと一緒に生活をすることで、彼らのライフスタイルや考え方、判断軸を理解することができ、何が必要かを知る機会が得られるのではないでしょうか。宗教観や土着の慣習も考え方に大きな影響を与えているので、それらを知ることはとても大切だと思います。

――ガーナでのビジネスの良いところはなんでしょうか。

日本では事業を立ち上げるのには大きなコストがかかりますよね。だから最初から情報をしっかり集めて計画し、成功する確度を高めなければいけない。一方ガーナでは、1つの事業を始めるのに、そこまで大きなコストがかからないため、一歩を踏み出すときのハードルが低いと思うんです。それと、情報やデータが手に入りにくく、予測や計画が立てにくいので、60%くらいの確率でも「とりあえずやってみよう」というマインドの方には合っているんじゃないでしょうか。


また、最初は完璧じゃなくても、少しずつ改善しながらクオリティーを上げていけば良いと思います。仮に事業がうまくいかなかったとしても、小さく始めていればすぐに事業から撤退することもできます。日本よりもトライ・アンド・エラーを繰り返しやすい環境にあると思います。

アフリカの人にも利益をもたらすビジネスを


――DMM.Africaのビジョンをお伺いできますか。

直近でのビジョンは2つあります。1つ目は、アフリカでのIT開発における拠点を立ち上げることです。アフリカの中のどの地域でビジネスをするか、今は選定している段階にいます。

2つ目は、ABIC(Africa Business Idea Cup ※注訳)を成功させること。ただ、現在は参加対象となる地域が限定されています。徐々に他の地域に広げていくことが目標ですね。

(注訳)ABIC:東アフリカ地域のタンザニア、ケニア、ルワンダ、ザンビア、ジンバブエ在住の起業家を対象としたビジネスアイデアコンテスト。

――石本さん自身は、アフリカでどのようなビジネスを行っていきたいですか?

長期的な視点を持ったビジネスをしたいですね。

アフリカで「長期的にビジネスをしている」だけで価値や強みとなり、他企業への参入障壁を築くことにもなると思います。ただし自分たちだけ利益を得るようなビジネスモデルでは、アフリカの人々の協力を得られず、成功させることは難しいと考えています。そのため、現地の人々との信頼関係を築き、相互に利益をもたらすビジネスを実現していくのが私の目標です。

まとめ


まだまだ未知なる領域であり、可能性を秘めているアフリカビジネス。成功へ導くにはアフリカという土地の文化を知ることであったり、コミュニティーに溶け込むことであったりと、日本とは異なる視点で動くことが鍵となるようです。

今後、DMM.Africaを含めた数々の企業がどんな展開を見せてくれるか――ビジネスパーソンとして、これからも注目していきたいですね。


識者プロフィール
石本満生(いしもと・みつお) 大学卒業後、三菱商事プラスチック株式会社に入社。国内外での営業・貿易業務を経験したのち、株式会社シェアトレードに入社。ガーナに滞在しながら、スパイス「パラダイスシード」の輸出入ビジネスを行う。2016年、DMM.Africaに参画。ガーナのエリアマネージャーとして、日々奮闘している。

※この記事は2016/09/16にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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