佐藤:ボーカリストってね、「先生、私の個性ってなんですか?どうしたらいいんですか?」って悩んじゃう子、結構多いんです。
―そうなんですか!?ボーカリストって、なんとなく自我の強い人が多いイメージでした。
佐藤:自分で曲や歌詞を創れる人は、まだそうでもないですけどね。シンガーで歌はうまいけどそこから先が分からないって子はたくさん見てきました。だから、私が先生になったら、その個性を一緒に探すところから始めるのね。
―ボイストレーナーって、いわゆる「歌う技術」を伝授するだけではないんですね。
佐藤:技術はもちろん教えますけど、「売れさせたい」と考えると、上手に歌えるだけじゃぜ~ったい無理なんです。なぜなら、ボーカリストってライブのMCもやらなくちゃいけないし、ライブ全体を仕切らなければいけないので。
そうすると人間力が問われるんですよ。パワーを貰えた、勇気を貰えた、ホレた。そういうお土産をちゃんとあげられることが大事だから、私は「ライブはデート」って伝えてます。
歌のテクニックってね、桜の木で言えば花だけ見て「キレイに咲かせたい!」って、言ってるだけなんですよ。でも、根っこが腐っちゃってたらダメでしょう?
じゃあ、先生が栄養と水をあげようねって。私の場合は、「心・技・体」なんです。全部やるんですよ、レッスンで。だから私、「歌道りょんりょん流」って名乗ってます。
独自の「歌道」を歩むこと27年。最近では、生徒でもあるMay J.さんとボイストレーニング&ストレッチDVDも共同制作されているのが、今回お話を伺ったボイストレーナーの佐藤涼子さんこと、“りょんりょん先生”です。
これまでに担当したミュージシャンは、実に300名以上! しかも、スタジアムを満員にする大物バンド、夏フェスの目玉!と言える歌手、それにミュージカルの主演を務める有名俳優などなどを手掛けられており、読者の皆さんも確実に驚くレベルです。
そう、普段りょんりょん先生がレッスンを行うのは、メジャーアーティストやデビューを控えたスター候補のみ。超レアな機会をいただいた私たちは、「せっかくの機会!」とばかりに1つ教えを乞うてみました。
それは、「自分らしい道の見つけ方」。
meターン=自己実現に欠かせないこのポイント、先生はどう考えているんでしょうか?
PROFILE
ボイストレーナー 佐藤涼子
1963年7月生まれ。山形県出身。国立音楽大学声楽科卒業。二期会オペラスタジオ32期生として学び、数多くのオペラやミュージカルの舞台で活躍。その後、ゴスペルコーラスグループのメンバーやシンガーソングライターとして活躍の幅を拡大。また20代から自身の音楽活動と並行してボイストレーナーをスタート。数多くのアーティストのレコーディング、TV、ライブ、CM音楽に参加し、2013年7月でプロボイストレーナーとしてのキャリア25周年を迎えた。ツイッターやオフィシャルブログにも、力を入れている。
自分を見失ったら、自分の大切な人を思い出すべし。
―アーティストの個性を探る場合って、どんなアドバイスから始めるんでしょう?
佐藤:まずはね、自分の身の回りの人やモノを見つめなおしてみましょう。お父さんお母さんの好きなこととか嫌いなモノ、覚えてますか?カウンセリングしていくと、それが大体影響しています。小さい頃、兄弟とけんかしたこととかね、そういうのも含めて「育ち方」が自分を探すヒントの始まりってことが、結構あるんですよ。
―気づかないうちに家族の影響を受けているってことですね。
佐藤:私ね、JAZZが流れているような味のあるアンティークなカフェに行くのが大っ好きなんです。でも、それも辿っていくとお父さんがJAZZばっかり聞いてて、おまけにコーヒー好きだったからなんですよね。だからDNAを探るってひとつありますね。
―身近な人以外にも、個性が見える部分ってありますか?
佐藤:個性って実はもう、その人のファッションに出ています。化粧にも、髪の毛にも出ています。その一つひとつがその人の“好み”でできているので。そう、例えば(ライターをじっと見つめて)あなたの、どんぐりセットっていうのかな(笑)、それは目立ちたい人の髪型だし。
―た、たしかに、僕は出来れば目立ちたいタイプです(照)。
佐藤:だから、自分が見えなくなっちゃったら、なぜこのファッションを選んだのかな?って紐解いてみるといいですよね。あとは、オシャレなことが好きなのか、無頓着なのか、部屋を見ると分かっちゃうことあるでしょう?インテリアも要チェックなんです。私の場合は、スタジオ自体にこだわりがあります、ふふふ(笑)。
佐藤:私のところに来る人って、ライブにTVの生中継が入るようなアーティストがたくさんいるので。その人たちへのストレスやプレッシャーって、すごい重圧なんですよね。だから、癒し空間プラス良い運気が来ますように、っていう願いを込めてつくったら、みんなは、スタジオのことをパワースポットって呼んでくれてますね。
今の自分を変えたいなら、「なりたい自分をオーバーに演じる!」
―ちなみに、りょんりょん先生は山形県出身ですが、出身地とかも影響しますか?
佐藤:あ、歌い方とか喋り方には出身地がすごく出るんです。例えば山形県は寒い国なので、鼻で息をするから、鼻でちょっとモゴモゴっと喋るんです。そうすると、どうしても歌い方とか性格も大人しくなっちゃう。
―先生はすごくハキハキされてますよね。
佐藤:だってぇ、ねえ。スタジオで「先生モゴモゴしてるけど、何話してるの?」だと、ねえ。と思って、普通以上にテキパキハキハキ喋るようになりましたよね。タクシーに乗っても、聞きなおされるのがメチャクチャいやなんです。「はあ?」なんて言われたくないから「(きりっと)下北沢まで、お願いします(はっきりと)」なんてね(笑)。
―ということは出身地や自分のルーツが壁に感じている人は…。
佐藤:オーバーに演じましょう。
―お、オーバーですか?
佐藤:そう、なりたい自分をちょっとオーバーに演じることが大事です。例えば憧れのアーティストがいるなら、好きな人の表情をよく見て、自分で大げさに真似てみるんです。あとは爆発的に「がっはっは!」って笑ってみるとかね。やっぱり顔はよく見た方がいいですよ。私の生徒には3~4個は家に鏡を置きなさいって言います。
―ちょっとナルシストな感じがしちゃいそうですが…。
佐藤:ちょっとぐらいならナルシストでいいんです! 最初に「心・技・体」って言いましたけど、“中身”が変わるのって遅いんですよ。どうしても時間がかかる。だから“外見”からまず変えていきましょう、ってことなんですね。そうして、「両方一緒にやっていく方が早くない?」っていうのが私の持論です。服装とか髪形も、もし今のものがしっくりこないなら、値段の高い安いは関係なく、見た目だけでも憧れの恰好を真似てみましょうね。
舞台の袖じゃイヤ!占いの結果にボロボロ泣いた20代。
―ちなみに先生自身は、「これが自分の道!」という発見は早かったんですか?
佐藤:もう全然。ボイストレーナーになって10年かかってようやく納得した感じです。
―じゅっ、10年ですか!?
佐藤:だって、私は自分がミュージシャンとしてメジャーデビューしたかったんですよ。20代からアルバイト的にボイストレーナーはやってたんです。お金がないから。専門学校で教室を持っていて、そこの生徒たちから「このまま卒業しても歌を教えてよ、先生!」って次々に言われて、だからアルバイト感覚で続けていたんですよ。でも、当時は個人的にはドロ沼で。
―夢はメジャーデビューだったわけですものね。
佐藤:その時は20代後半で、ちょうど離婚も経験したんですね。おまけに、芸能プロダクションからは何回もメジャーデビューの話が出ては消えてっていうのが続いて。もう苦しくて、何も面白くないし。そんなだから、藁にもすがるつもりで、スピリチュアルの先生に見てもらったんですよ。
そしたらね、「今はさぞかしツラいと思うけど、大丈夫。あなたは音楽で幸せになるわよ。…ちょっと遅いけどね」なんて言われたんですよ。えぇ、遅いんですか!みたいな(苦笑)。
―今がドロ沼だから来たのに!
佐藤:ホントそうでしょう? しかも「その時、あなたは舞台の中央にいないの。袖にいるの」って。私ね、自分の師匠からもボイストレーナーを本職にしなさいって言われてたんですけど、「嫌です!私、先生になるために音楽やってきたんじゃないです」って断ってたくらいで。だから、袖にいるって言われたときに、ガッカリして泣いちゃったんですよ。
―泣くぐらい、「ボイストレーナーは自分の道じゃない」と思ってたんですね。
佐藤:だから、30歳ころからプロのボイストレーナーとして活動するようになるんですけど、10年後にやっと自分の中で決着がつくんですよね。生徒が私のためにライブを開いてくれて。
「先生人生」のルーツは、造り酒屋の実家にあった!?
―生徒さんのライブというと、メジャーの方々が?
佐藤:そう、いっつも皆で遊んで、飲んで、騒いでたメンバーだったんですね。うちでよくパーティも開いてて、“バーりょんりょん”なんて呼ばれていたんですけど。そこで盛り上がって、「みんなで、りょんりょんのためにライブやろうぜ!」ってなってくれて。
そのライブであまりに感動してもうボッロボロ泣いちゃって(笑)。で、その時にあの言葉を思い出したんです。「あ、私いま袖にいる!」「それに幸せになってる!」って。
―一番身近だった生徒のみなさんが、自分の適性を気づかせてくれたんですね。
佐藤:パーティを開いてたのもそうですけど、もてなすとか、みんなを喜ばせるとかも超好きなんです。生徒が可愛くて可愛くて、一緒に笑って、一緒に泣いて、ってやりすぎて自分の恋愛もうまくいかないくらい(笑)。で、自分の人生を振り返ってみたら、「あ、私が造り酒屋の娘だからだ」って気づいたんです。
―ご実家が造り酒屋なんですか?
佐藤:そうなんです。山形の造り酒屋で、地域商業の代表にもなっていて。そうすると、町長とか町の人たちが家に集まって、何か会議をやって、夜な夜な宴会が始まるんですよ。そこでね、「涼子、歌って!」って言われたら歌う。「踊って!」って言われたら踊る。そして、お注ぎをする。
そんなことばっかり、ちっちゃい頃からやっていたんですけど。でも、楽しかったんですよ。大人になってからそれを思い出して、「ずっと繋がってるんだな」って。
―ご自身の経験もあってのアドバイスなんですね。よろしければ、最後に今転職に迷っている人に何かメッセージをいただけませんか?
佐藤:結局、今の自分は「自分の念」でできているんですよね。変えたくない人は、変わらなくていいと思うんです。でも、自分を変えたい人は、何歳になっても変えられます。
もし何か今の自分にモヤモヤしているなら、あなたの小さい頃のことを、思い出してみてください。それから、自分の周りを見つめること、これから始めてみましょう。今売れているアーティストたちも、そこから取り組んだ人ばっかりですから(笑)!!
(取材・構成 太田 将吾 / 撮影 西村法正)
【お知らせ】一般の方向け教室「Ryon2's voice farm Pace」が開校!
今回お話を伺った、佐藤涼子さんが磨いてきたメソッドやノウハウを、一般の方も学ぶことができる「ボイストレーニングスクール パーチェ」が中目黒に誕生!りょんりょん先生の技術を受け継ぐ直弟子の皆さんから、個性や適性を見つけるカウンセリングに始まり、ボイストレーニングをマンツーマンで受講できます。レッスン日・回数も、自由に設定できるそうなので、「ちょっと興味あるかも」という方は要チェックです!
アクセス 〒153-0061 東京都目黒区中目黒3-12-19 幸來路ビル4F
URL http://ryon2.jp/pace/index.html
※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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