ちまたで話題になっているファッションブランドがあります。それは2012年10月にライフスタイルアクセント株式会社が立ち上げた「Factelier」(ファクトリエ)というブランドです。ECサイトで購入できるファクトリエの商品は、すべて工場と一緒に作られているもの。
同社で築いた製販プロセスは消費者に最高品質の商品を従来の「2分の1」の販売価格で提供するのみならず、工場側にも適正な利益確保をもたらしているそうです。
大量生産・大量消費の潮流が生み出した「ファストファッション」全盛期の今、ファクトリエが作る衣類にはどんな思いが込められているのでしょうか。ファクトリエ代表・山田敏夫さんにお話を伺いました。
仕立てのよい、高品質のファッションアイテムを提供する
ファクトリエのECサイトをのぞいてみると、そこにはメンズ&レディースのトップスやボトムス、アウターのほか、ジーンズ、スニーカー、革靴、小物など、さまざまなアイテムが取り揃っています。
購入はすべてこのECサイト上で行われますが、東京・銀座のほか、横浜・名古屋・熊本(本店)に展開されているフィッティングスペースにはほぼ全アイテム・全サイズが揃い、ここでコンシェルジュから商品の説明を受けながら試着することもできます。
「例えば、このオーダーシャツのえり羽根の部分は“フラシ芯”で縫製されているんですよ」
そう説明するのは、ファクトリエ代表の山田敏夫さん。世の中に流通している多くの量産型シャツは生地と接着芯が糊で固定されているのに対し、生地は同社提携工場の職人さんが一枚一枚丁寧に縫製しながら仕立てており、えり羽根に使われる生地の内外輪差が異なることで汚れが付着しにくく、自然な丸みを帯びきれいに首に沿うことが特長です。
「糊を使わずにこれだけの品質に仕立てるのは、なかなか至難の技なんですよ」(山田さん、以下同)
販売価格は半分、しかし工場の利益率は2倍に!
オーダーシャツの販売価格は1万3,000円ほど。同じ品質のシャツを通常の流通にのせて販売した場合、2万5,000円~3万円はするといいます。消費者にとって販売価格を“半分”にまで抑えてあるのは喜ばしいかぎりです。しかも、抑えられた分だけ工場の利益が少なくなるわけではなく、むしろより高い利益を工場にもたらすことができるようになっているといいます。
通常、アパレルの生産から販売までの過程には商社や卸会社が介在するため、当然、その分だけ商品の価格は高騰してしまいます。同時に、原価率は低く、つまり工場の取り分は少なくなり、そうした慣習が長引いたことが一因となり、国内に数多く存在していた縫製工場は工場閉鎖を余儀なくされてしまいます。
その状況を打破すべく、ファクトリエでは中間業者をなくして「工場」と直接提携して商品を作り、ECで販売するというしくみを築きました。同じ品質でも工場直結であることで商品価格は抑えられ、かつ、工場は適正な利益―通常の2倍ほどの原価率―を確保することができます。
しかも商品の販売価格は工場側が決定することができ、そのことによって市場を鑑みた、工場による主体的なものづくりを実現することができるのです。
原点は実家の老舗婦人服店にある
山田さんは、1982年、熊本の老舗婦人服店の次男として生まれました。
「実家は商店街にあるような、いわゆる街のブティックでした。販売されているものはほとんど上質な日本製の商品。よく店番を手伝っていましたから、仕立てのよい服や、親の丁寧な接客を間近に見て育っていて、それが自分の原点になっています。今、ファクトリエが挑んでいることは、私にとって小さいころから当たり前のようにそこにあることだったんです」
大学在学中、山田さんはフランスに留学。パリのグッチ販売店で働く機会を得たときに、世界一流ブランドのものづくり精神を目の当たりにしました。その後は6年間の社会人生活を経て、2012年に同社を設立しています。
「社名である“ライフスタイルアクセント”には、“人々のライフスタイルに、幸せのアクセントとなるようなきっかけを”との思いを込めました」
正しいと思えることをやっていれば、世の中が変わるかも
日本繊維輸入組合「日本のアパレル市場と輸入品概況」によれば、1990年代に50%を超えていたそれらの国産比率は現在3%を下回っているといいます。それだけ日本国内から「メイドインジャパン」が減り続けているということです。
「ファクトリエが実現したいのは、メイドインジャパンで世界的なブランドをつくること」と山田さんは語ります。「お客様に着心地のよい服を提供したいのはもちろんですが、一口に“着心地がよい”といっても単に『パターン(原型)がよくて腕が回しやすい』『素材の肌触りがよい』といったことに限りません。例えば、お客様にとって『自分が応援したいファッションブランド』に袖を通すことも、『着心地のよさ』に通じると思っています」
山田さんが目指しているのは、高品質であることはもとより、ファクトリエを人々から応援されるブランドに育てあげるということ。オーガニックコットンを使用したベビー服を展開するなど、商品開発にも山田さんのこだわりが垣間見えます。
「私が常々考えていることは、この世の中をどうやったら変えられるか。ビジネスはそのときの手段にすぎません。ただ、私たちが正しいと思えるビジネスを継続していけば、このアパレルの世界のなかで共感を呼び、みんながまねをしてくれるようになるかもしれないじゃないですか。
共感の輪が次第に広がっていけば、世の中だって変えられるかもしれません」
自分の人生の価値を見失わない“私事(しごと)”を
企業勤めの経験もある山田さんは、「働く」ということにも常日頃からさまざまな思いを巡らせているようです。
「働いていくうえで大事なのは週休2日をどう楽しむか、ということより、メインの週5日をいかに楽しく過ごすか。『モチベーション』という言葉もあまり好きじゃなくて、そんなふうにして考えていけば、お金だの出世だのが人生の目的になってしまうでしょう。仕事とは“私事”であり、自分ごとで考えていかないと世の流れに飲み込まれ、自分の人生の価値を見失いかねないと思います。私は働くことのもっと根本にある、幸せ・豊かさの定義を考えていきたいのです」
自分なりの幸せ・豊かさとは何なのか。世の中を大きく変貌しかねないビジネスチャンスは、もしかしたらそれを真剣に考え抜いた先にあるものなのかもしれませんね。
識者プロフィール
山田敏夫(やまだ・としお)
1982年熊本県生まれ。1917年創業の老舗婦人服店の息子として、日本製の上質で豊かな色合いのメイドインジャパン製品に囲まれて育つ。大学在学中の2003年、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。2012年1月ライフスタイルアクセント株式会社を設立し、「ファクトリエ」をスタートする。2014年4月中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員。2015年2月、経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」受託者。
(文:安田博勇 / 写真:田中由起子)
※この記事は2017/01/23にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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