2017年5月に発売され、ファンの間で大きな話題になったおやつ。それが、セブン-イレブン限定で販売された"カレーパン味"のチロルチョコです。なぜカレーじゃなくて、カレーパンなの? というか、そもそもなぜチョコレートなのにカレーパン!?
ほかにも甘酒味や食べるラー油味など、ユニークな味でたびたび注目を集めるチロルチョコですが、昨年6月には「チロルチョコの社長がかわりました!!」という見出しの新聞広告でも大反響を呼びました。「仮免許練習中」と書かれたプレートを足元に置き、車のハンドルを握って暴走する新社長の松尾裕二さんの隣で、会長で前社長の松尾利彦さんが両目を手で覆っているという紙面。この遊び心あふれる広告は、なんと会長自身のアイデアだったそうです。
「楽しいお菓子で世の中明るく♪」というキャッチコピーを体現するように、独自路線で突き進む同社。今回は、広報を担当する企画室の御手洗千里(みたらい・ちさと)さんに、長年にわたり人を楽しませる商品を世に送り続ける開発の裏側をお伺いしました。成功秘話から失敗談、挑戦を続けるチロルチョコのモットーまで満載です。
日常生活の中からアイデアが浮かぶ
チロルチョコといえば、1962年に初めて登場して以来、広い世代に愛され続けている国民的おやつ。その種類は、これまでになんと400以上にものぼり、わさび味、柿の種味、大ヒットしたきなこもち味など、もはや作れない味はないのでは!?と思えるほど。毎年、一体どれくらいの新商品が出ているのでしょう?
「新商品は、年間で約30種類ほど登場しています。新商品を決める会議では、メンバーそれぞれが興味を持ったもの、チロルチョコにしたらおいしそう、楽しそう、おもしろそうなものを会議案として持ち寄り、具体的な商品にするにはどうしたらよいかを落とし込んでいきます」。
新商品の開発に携わるのは、開発部長1人、研究・試作チームの4人、企画・デザインチームの4人と、合計たったの9人だけ。そのうち6人は20代の女性というから、若い社員が第一線で活躍していることがわかります。
「1カ月に数回、企画室のメンバーが集まってブレスト会議を行います。メンバー個人個人のアイデア、会長や社長からの指示、営業やバイヤー・問屋の方からの要望などを持ち寄り、さまざまな角度からアイデアが生み出されます」。
アイデアを生むために、さぞ厳しい研修でもしているのでは……と思いきや、アイデアのネタ元になるのは、インターネット、テレビ、飲食店めぐりなど。意外と身近なものが多いそうです。
「食事の時間など日頃の生活の中でも、これがチョコになったらおもしろいなと考えたりします。カレーパン味がその代表でしょうか」。
インターネット上で「甘いの? カレーだから辛いの? そもそもカレー味じゃなくてカレー"パン"ってなに!?」と、度肝を抜かれた人が続出したカレーパン味。クルトンでカレーパン独特のカリッとした食感を再現し、中にスパイシーなカレーのペーストを入れ、まさに本物といえるほど再現性が高いと、話題を呼びました。
「実は以前から、カレー味は議題に上がっていました。カレーはよく食卓に並ぶ料理で珍しくはありませんが、『辛い』食べ物をチョコにできたら間違いなくおもしろいはず。だから作りたい、という思いはあったのですが……。工場のラインにカレーの匂いがうつってしまい、ほかの商品に影響が出ることが予想され実現していませんでした。それが昨年、パン屋さんをテーマに新商品について話し合っているときに、カレーパンという意見が出たんです。チョコの中にカレーのペーストを入れてパンで囲めば、匂いも広がることなく実現ができるかも!と可能性を感じ、スタートしました」。
「ちなみにこの会議では、甘いクリームパンなど、絶対においしくなりそうなアイデアも挙がっていました。でもチロルチョコならただおいしいだけはなく、やっぱりみんながあっと驚くようなものを。『ここは、カレーパンだろう!』と、開発担当者のひとりの強い推しがあって、その意見が採用されました」。
一度は、実現は難しいと思われていた企画。しかしさらに上をいくアイデアによって課題をクリアし、見事、おいしさと驚きを兼ね備えた新商品が誕生しました。「カレー味ではなく、カレーパン味」が生まれたのは、不可能を可能にした工夫があったからだったんですね。
「マーケティングはしない。感じろ!」という姿勢
多くの企業は新商品の開発前に、流行やヒットする根拠など、入念に下調べをしてからようやく試作品の製作にとりかかるもの。しかし同社の場合、その常識は当てはまりません。
「弊社はとにかくやってみようというチャレンジ精神が強いです。少人数なこともあって、意見を言えば反映してもらえるようなところはありますね。もちろん、いいアイデアであればです。わたしたちは、他社がするようなマーケティングをしたことがありません。会長の教えは『感じろ!』でしょうか(笑)。パッション型の社員も多くて、純粋に食べたいものを作り、売りたいものを売っています」。
とはいえ、マーケティングを実施しないため、時々はずっこける……なんてこともあるそうです。
「夏向けの商品を考えているときに、世の中に野菜味のチョレートがあまりないので、野菜味のチョコを作ってみようよ、という意見が出て。そこで『焼きナス』にチャレンジしてみました。
生のナスは味を再現するのがとても難しいんです。でも焼きナスなら、生のナスよりは風味や食感が再現できるかも……と焼きナス味のソースを作ったり、しっとりしたクリームを入れて、食べたときの食感を出そうとしたり。試行錯誤を重ねましたが、どう頑張ってもおいしくなりませんでした。大失敗です」。
試作品は1発目が勝負
焼きナスに挑む、その攻めた姿勢には恐れ入ります。ほかにも、うなぎの蒲焼きにもチャレンジしたことがあるんだとか!
「夏場になると、どうしてもチョコレートの売り上げは落ちてしまいます。そこで、夏に食べたくなるうなぎの蒲焼き味があったらおもしろいよね、という会長のアイデアを元に試作品が作られました。山椒をきかせたり、蒲焼のたれを入れたりして味を近づけてみたのですが、なぜかうなぎの生臭い感じも出てしまい……。会長に試作品を食べてもらったところ、すぐに『これはダメだ!』って。開発途中であっけなく終了しました(笑)」。
ちなみに、試作品にかける期間はおよそ1~3カ月ほどだそう。
「1回目に上がってきた試作品がどういうレベル感かで、だいたいその先が見えてきます。1回目でここまでの味しか出ないね、ということであれば、スパッとやめて次のアイデアに移ることも多いですね」。
遊び心を忘れずに働ける環境が整っている
終始、楽しそうにお話ししてくださった御手洗さん。その様子からは、自分たちがワクワクする商品をとにかく作ってみようと、自由にのびのびと働いている雰囲気が伝わってきます。どこか型破りでロックな精神を持つ会長から現社長へ交代したときに、社長が発したこんな言葉が胸に刺さったと言います。
「現在の社長からは『遊び心のある商品を出せるように、開発部が挑戦し続けられる環境をつくりたい』と言葉をかけてもらっています。もちろん売れる商品を作る必要はありますが、遊び心を忘れずに作っていきたいですね」。
「チロルチョコは、チョコレートがまだまだ高級品だった時代に、子どもたちがおこづかいで買える価格で販売するというコンセプトの下、10円で発売し愛され続けてきたおやつです。これからも大切にしたいのは、ひと粒のチョコでこんなことができるんだ、という新しさを楽しんでいただくこと。いろんなものをどんどん取り入れる遊び心がなければ、世の中をあっと言わせる商品はきっと生まれない。そして、1人だけでなく、みんなで楽しんでもらえるおやつを作れていたらうれしいですね」。
最後に、楽しく仕事をするため、楽しく新しい企画を考えるために、20代のビジネスパーソンに向けてのメッセージをいただきました。
「まずは与えられた仕事の中で、いかに自分らしさが出せるのか、少しでもおもしろくするにはどうすればいいのか、考えをめぐらせてみましょう。何事も楽しみながらやっていく中で、企画力も向上すると思います。情報をキャッチするアンテナの感度は常に良好にしておいてください!!」。
「それから、企画は通らなくて当たり前。めげないで、常に自分の信念を持って企画を考えることが大事だと思います。若手の強みはトレンドに敏感な点、新しい目線のアイデアです。その強みを活かして挑戦し続けてくださいね」。
発売から55年以上経った今も、変わらず愛され続けているチロルチョコ。その独特な味を生み出す裏側には、会長の時代から引き継がれている遊び心を忘れない姿勢がありました。それこそが子どもから大人まであらゆる人を惹きつけてやまない理由なのかもしれませんね。20代の皆さんも、日々遊び心も持ちながら、仕事を楽しんでみてください!
(取材:上浦未来/編集:東京通信社)
識者プロフィール
御手洗千里(みたらい・ちさと)
チロルチョコ株式会社企画室。現在、入社9年目。商品企画の立案と、催事・イベントに携わる業務、商標、輸出業務、広報と幅広く担当している。
チロルチョコ株式会社
1903年に福岡県田川市で創業した松尾製菓から、商品企画・販売部門を分離して、2004年に東京で設立された会社です。
http://www.tirol-choco.com/
※この記事は2018/02/27にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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