累計1000万個販売のメガヒットとなった『コップのフチ子』シリーズをはじめ、「なにこれ!?」と驚くようなガチャガチャ=カプセルトイを発信し続ける会社。それが株式会社奇譚クラブさんです。
規格外の「面白いモノづくり」を仕掛ける会社のトップは、きっと面白い仕事観・人生観を持っているに違いありません。そう考えたキャリアコンパス編集部は、奇譚クラブ主宰の古屋大貴さんにインタビューを敢行。
名物広報のしきさんと、今年4月に入社したばかりの新人広報・田中さんも交えて、たっぷりお話を伺いました。
PROFILE:株式会社奇譚クラブ 主宰 古屋 大貴
1975年生まれ。埼玉県出身。建材メーカーの営業職を経て、株式会社ユージンに転職。カプセルトイの企画・制作・営業を学んだ後、2006年に奇譚クラブを立ち上げ独立。『コップのフチ子』『ネイチャーテクニカラー』『土下座ストラップ』『くいとめるニャー』などヒット商品を数多く輩出し、初の著書『コップのフチ子のつくり方』(PARCO出版)も出版。2015年からは、全国各地で「奇譚クラブ10周年展」を開催し、こちらも大盛況となっている。
「面白いと思った商品は、売れなくてもいいから世に出したい!」
古屋氏(以下、古屋):いやあ、イイねえ。やっぱり超イイ。
しき氏:(以下、しき):ホント、イイ!団地のサイズ感とか、これかなりイイですよ。
古屋:ダメだ、もう「イイ」としか言えない!
―あ、あのぉ?
田中氏(以下、田中):古屋さん、しきさん、もうインタビュー始まってるっぽいですよ。
―はい、始まってます。お二人とも先ほどから「イイ」を連呼されてますが、これは?
古屋:あぁ、今度リリースする、フィギュアイラストレーター・デハラユキノリさんの最新作『団地と女』ですよ。デハラさんの立体商品は前回の「動物と女」から約4年ぶりなんです!!見てのとおり“団地”だけ並べてもイイし、“女”だけでもイイ。でも、受注が全く集まらなくて、一回発売を中止したんです…(苦笑)
―たしかに、面白い気もしつつ、業者さんの気持ちも分からなくはないですが…。
古屋:でも、僕らの趣味にバチーンとハマったから。もう売れなくてもいい、とにかくこの商品を世に出したい!と発信し続けて。この度ようやく、「奇譚クラブさんがそこまで言うんだったら」と言ってくれる卸問屋さんが見つかったんです。
―売れなくても出したいって、すごいですね。
しき:うちはマーケティングデータとかを一切取らず、社員が“面白い!”って思うかどうかが商品開発の決めてになるんです。だから、4月に発売したばかりの『WATCH』も、社内で大ウケ。ただ問屋さんの前評判は「これ誰が買うの?」って全然でした(笑)。でも、ふたを開けてみたらネットでかなりバズって、いろんな店舗から「完売御礼」の連絡が続々入ってきてます。
―とにかく、自分たちの「面白い」にこだわると。
古屋:あとはクオリティにもこだわりますね。売上が低いとか採算が合わないとか、そういうことで怒るってほぼないんですけど、試作品のクオリティが低いともうダメです。『WATCH』だって、バンド部分のキツさの調節を何度も繰り返しましたから。まあ、クオリティにこだわり過ぎて『ネイチャーテクニカラー』なんて、原価がかかりすぎて売れば売るほど赤字の時期もありましたけどね(笑)。
「正直、若い頃はフワっとした将来像しかありませんでした」
―そもそも古屋さんは、社会人デビューのときから「面白いモノをつくりたい」といったビジョンがあったんですか?
古屋:いや、全然ですよ。学生時代は公務員志望だったし、転職も経験しています。初めての就職なんて、「土・日休み」とか「給料が高い」で選んだ屋根の建材メーカーです。正直、フワフワしていました。ただ、就職したら毎朝5時・6時起きで、外回りで営業車を毎日200~300キロ運転し続ける日々が待っていたんですよね。あまりに大変で、冗談じゃなくホントに心臓痛くなっちゃって(笑)。このままじゃダメになるぞと。
―そこで転職を考えたわけですね。
古屋:「このまま死ぬくらいなら、せっかくだから好きなコトをやりたい」と転職情報誌をチェックして。納得のいく給料はちゃんと貰えていたので、おもちゃコレクターとして目覚めた時期でもあったんですね。
そのタイミングで、たまたま前職の株式会社ユージン(現・株式会社タカラトミーアーツ)が営業を募集していて、運が良かったんですよ。転職してからは、本当に仕事が楽しかった。営業も企画も両方やらせてもらえましたし、おおらかな空気の中で楽しく働けたおかげで、こんな僕でも10年続けることができた。だから、楽しいって本当に大切なんですよ。
―では、独立のきっかけは?
古屋:2つあって、1つはユージン自体が成長して、上場に向かって会社が大きくなったこと。その結果、接する人は一気に増えるわ、書類提出とか稟議が増えるわで、疾走感とかスピード感を感じられなくなったんです。もう1つは業界で“総長”と呼ばれている、あすなろ舎の石川一郎さんとの出会いですね。ある日一緒に飲んでいて酔った流れで「独立を考えていて…」という話をしたら、総長が「明日会社辞めろ。会社つくってやるから」と言い出して、本当に立ち上げちゃったんです。
―とんでもない急展開ですね。
古屋:でも、こんなチャンスは滅多にないでしょう。それに、年齢を重ねる中で、色んな事に対して「今の年齢でしかできない事があるな」という、人生の“限り”みたいなものを感じるようになっていたんです。だから、いま挑戦しようと。それが10年前ですね。順風満帆っていうより、紆余曲折ありまくって今がある感じです。
「人生には限りがある。だから、悩んでいる暇なんてないんです」
―独立も、他にない商品の企画も、楽しそうな反面、「すごく大変そう」って思うんですが……。
古屋:ラッキーなことに、その感覚が麻痺しちゃってるんですよね。鈍感力っていうのか、面白そうだと思ったらリスクテイクは考えない。
―なかなか真似できないポイントですね。
古屋:でも、さっきも言いましたが、生きていられる時間には限りがあるじゃないですか。単純に寿命って話だけじゃなく、企画力とか行動力の面でも、生きた行動ができる年齢には、きっと限界がある。それを頭に入れて、一回自分なりにざっくりとでも計画を立ててみると、「うわ、早くやろう」ってなるんですよね。
しき:以前、古屋が専門学校の特別講師として登壇した時、生徒全員に「人生MAP」を書かせたことがあるんです。“仕事”とか“恋愛”とかいろいろなテーマを設けて、年齢ごとの目標を書き込んでいくんです。
田中:例えば、27歳で結婚したいとか書くと、人によっては「もう数年しかない」って気づけるんですよね。そういう話は、古屋からもよくされます。20代のうちしかできないことがあるぞって。
―今できることを、とにかく行動すべしと。
しき:僕も奇譚クラブに入社当初、よく言われてました。遅くまで残業していると、古屋からオフィスに電話がかかってくるんですよ。「まだ仕事してるの?ダサいね。早く飲みに行こうぜ」って(苦笑)。でも、実際外に出て遊んだ時間って、すごく仕事に活きてきますよ。遊びたいと思っていると、仕事のスピードも早くなるし。
古屋:仕事も、恋愛も、あと社会貢献とかもね。悩んでじっとしているくらいなら、とりあえず走り出しちゃえばいいんですよ。実際、僕ら東日本大震災の時は何かできないかなって、「復興支援商品」というのをつくって、寄付金を集めたりしました。その規模をもっと大きくしようと、今『カプセルファウンデーション』という新しい制度も準備中なんです。奇譚クラブ全商品の売上から数%を義援金として貯めて、国内の復興支援やネパールでの学校設立など「世界平和」をモットーに、世界に役立つことに使おうと。
―では、もし転職や仕事について悩んでいる人がいるとしたら、どんなアドバイスをしますか?
古屋:やっぱり、ジョギングくらいのスピードでもいいから、走って行動しようってことですね。僕なんかよく、「何にも浮かばないから、温泉行って考えよう」とか言って、旅行してます。結局、ぼーっと休んじゃうんですけどね(笑)。でも、日常から離れて旅行することで得られることがあるかもしれない。事件は待っていても起きないんですよ。事件は自分で起こさなくちゃ。
(取材・構成 太田 将吾)
※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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