「社会不安障害」とは? 人前で頭が真っ白になることも……
「社会不安障害」というこの疾患、かつては「対人恐怖症」と呼ばれていました。人前に立つ時に過度に緊張したり、失敗するのではないかと恐れる気持ちを強く感じたり、不安や恐怖を感じるような症状をいいます。人前に立つ時だけでなく、人前での発言や電話、会食、人前で字を書く際に恐怖を感じるというケースもあります。
身体症状としては、心拍数が早くなる、動悸がする、冷や汗をかいて汗ぐっしょりになってしまうというようなものがあります。またそのような症状が出てしまうのではないかと、人前に出るような状況を避ける回避行動をとるようになってしまうこともあります。症状が強い人の場合、プレゼンや講演などを任された場合、どんなにしっかり段取りしていても、頭が真っ白になって、自分がどこにいるのかわからなくなってしまうということもあります。
緊張は誰でもするもので、人前に立つ際にひどく緊張してしまうという人は多くいます。どこまでがただの緊張で、どこからが社会不安障害かという線引きは難しいものです。しかし、不安が強くなり、業務に支障が出てくるようになると、何かしらの対処が必要となるでしょう。
もし「社会不安障害」になったら……。決して性格の弱さが原因ではありません
ビジネスパーソンは、会議やプレゼン、会食など、人前で自分の意見を述べたり何かを発表したりするシチュエーションが多いもの。「社会不安障害」の患者はこのような場合に、プレゼンするのが怖くてしょうがない、会議の場でホワイトボードに字を書くのに恐怖を感じる、取引先からかかってきた電話に出ることができない、接待や会食から逃げ出したくなる、といった状況に陥ることがあります。
電話や会議、会食といった、ビジネスの場でどうしても必要なシチュエーションに恐怖を感じ、業務に支障をきたすようであれば、メンタルクリニックなどに相談してみたほうがいいでしょう。自分の性格の問題ではないかと悩んでしまう患者も多いですが、決してそうではありません。適切な治療をすれば克服できる病気ですが、気合いで治すことはできません。
ものごとを柔軟にとらえよう。薬物治療も有効な手立ての一つ
「社会不安障害」の治療法には「認知行動療法」や「薬物治療」があります。
「認知行動療法」とは、言ってみれば“ものごとのとらえ方を柔軟にするトレーニング”のようなもの。ものごとのとらえ方に目を向けて、それがどのように現実と違っているかを検証し、思考方法のバランスをとっていきます。
昔からよく言われる方法ですが、「オーディエンスをカボチャやジャガイモが並んでいると思う」というのは有効な方法の一つです。人前で話すことへの不安感が強い方は、オーディエンスの視線が「自分を責めている」というように感じてしまうことが多いのですが、大概の場合、それはその方がそう思い込んでいるだけ。いわば心の中の解釈の問題です。「カボチャさん、ジャガイモさん、自分の話をわざわざ聞いてくれるなんてありがとう」そんな風に思いながら話すようにすれば、意外と人前でもリラックスできるものです。このように、考え方やとらえ方を柔軟にしていくことで、不安への対処法を身につけることができるようになります。
「薬物治療」では、SSRIや抗不安薬などが有効です。SSRIは続けて服用することによって効果が出る薬ですが、抗不安薬は一度だけの服用でも効果を発揮します。どうしても失敗できないプレゼンの前など、ここぞという時の前には、医師に相談して抗不安薬を処方しておいてもらうのもよいでしょう。実際に薬を飲まなくても、ポケットに入れておくだけで、心強く感じて不安にならずに済んだという患者さんもいます。
部下や同僚が「社会不安障害」になったら……。過度のプレッシャーは禁物
では、仕事仲間がこのような「社会不安障害」の患者となった場合、周囲はどのように対応すればよいのでしょうか? この「社会不安障害」は「失敗してはいけない、100点満点を取らなければいけない」と考えてしまうタイプの人がかかりやすい病気でもあります。周囲の人は過度のプレッシャーを与えることなく、「これで失敗しても命を取られるわけじゃないし、クビになるわけでもないよ」というように、気楽に考えられるように考え方を変える協力をしてあげるとよいでしょう。言い方は難しいですが、「ここで何をしてしまっても、地球は終わらないよ」というような大げさな対比を用いて、失敗しても大したことではないと思えるような、認知の対比が起こるような声がけをしていきましょう。
適切な治療で克服できる「社会不安障害」。周囲やクリニックのサポートが有効に
「社会不安障害」は完璧でなくてはならないと考えるような、神経質で真面目な人がかかりやすい病気です。決してその人の性格の弱さなどが原因なのではありません。この病気に悩む人が周囲にいる場合は、プレッシャーを与え過ぎないよう、その人をサポートしてあげるようにしてください。認知療法によるものごとのとらえ方の転換や、薬物療法といった適切な治療を受けることで、克服が望める疾患でもあります。人前に出るのに苦痛を感じる、そんな人にはぜひ、気軽にメンタルクリニックの門を叩いてほしいと思います。
【監修】
尾林誉史●「VISION PARTNER メンタルクリニック四谷」院長/VISIONER。精神保健指定医。日本医師会認定産業医。
東京大学理学部化学科卒業後、大手人材会社に入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。現在、10社の企業にて産業医およびカウンセリング業務を務める他、メディアでも精力的に発信を行っている。
文=松村 知恵美
編集=五十嵐 大+TAPE
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