会社のエレベーター前で、普段あまり関わりのない上司にバッタリ。駅に向かう途中、隣の部署の人と鉢合わせ。初めて訪問するクライアント先で続く沈黙……。そんなとき、苦もなく雑談で盛り上がっている(ように見える)人を見ると「なぜ自分は、雑談ひとつできないのか」と落ち込んでしまうこともあるでしょう。
でも、たかが雑談と侮るなかれ! 書籍『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)の著者、枚岡治子さんは雑談をこう分析します。
「仕事のプレゼンテーションであれば、事前に準備をして臨むことができますが、雑談は下準備ができません。それなのに、その場のTPOや相手との関係性、立場の違いなどを瞬時に判断し、細やかに配慮しながら話題を選び、切り返さないといけない。実はとても難しいものなのです」
枚岡さん自身、雑談が苦手で大いに悩んだ経験を持ちます(記事はこちら)。しかし、周囲の雑談に耳を澄まし、友人たちにも協力してもらって集めてきた「会話のきっかけレシピ」を使って、以前よりも雑談力が上がった今、雑談のメリットをこう語ります。
「職場の人は『顔見知り程度の人』であることが多いでしょうね。共通の話題が見つかるまで時間がかかるし、そもそも共通点がないかもしれないので、そんなときに一体何を話せば…と途方に暮れていました。でも、集めたレシピを使って職場で雑談すると、本当にちょっとした言葉のやり取りで緊張がほぐれ、相手との関係性が『少しなじみのある人』に変化すると感じました。さらに、業務上必要なことを相手に言いやすく・聞きやすくなるので、仕事上のストレスやトラブルが減ります。雑談がきっかけで『そういえば~』と話が広がり、以前はなかなか聞けなかった不安や不満も話してもらえるようになって、相手との距離が縮まりました」
会社前の信号待ちでの雑談、仕事の飲み会での雑談…あなたならどうする?
では、枚岡さんはどのような「レシピ」を使って、雑談しているのでしょうか? 職場でありがちな2つのシーンに絞って、著書の中にあるレシピを公開してもらいました!
【会社に戻る途中、少し距離のある上司や同僚に遭遇!】
昼ごはんを食べて戻る途中、会社前で信号待ちをしていたら、上司や同僚にバッタリ……。信号は意外に長く、すでに朝の挨拶や「お疲れ様です」の声掛けも終わっているので、一体何を話せば間が持つか分からない! そんなときの「会話のきっかけレシピ」はこちらです。
<挨拶>
●(会釈のみ)
●こんにちは(と軽い会釈)
●一緒に行きましょうか
<感想>
●今日寒かったですよね~
●(挨拶のあと)最近○○ですよね~(職場の環境など)
<趣味・好み>
●〇〇さん、今日も(その人がよく食べるもの)ですか?
<相手がやってきたこと>
●こんにちは、食べに出ていらしたんですか?
<自分がやってきたこと>
●××で○○を食べてきました
<情報>
●あそこの店、○○ですよ
<その他>
●(気付かないふりをする。歩くペースをずらすなどして相手から離れる)
『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)より
【仕事上、参加が必要な飲み会にて】
メンバーに初対面の人はいないが、個人的な付き合いがあるわけではない状況での飲み会。全員のだいたいの情報(住んでいる場所、やっている仕事内容)は把握しているが、深い話をしたことはない。楽しい場のはずが、雑談が苦手だと苦痛な場に……。そんなときの「会話のきっかけレシピ」はこちらです。
<挨拶>
●おつかれさまでした
<興味>
●○○さんは、けっこうよく飲みに行ったりするんですか?
●おうちでも飲まれるんですか?
<いま居る場所>
●ここ、いいお店ですね
●どうやってこのお店を見つけたんですか?
●このお店は初めてですか?
<感想>
●いやあ、寒い(暑い)ですね~
●けっこう飲まれるんでしょ?
●お酒強いって聞いてますよ
<情報>
●昨日の○○(最近見たテレビなど)見た?
<近況>
●最近、仕事どう? 慣れた?
●最近はお忙しいですか?
●仕事はどうですか?
<食べ物>
●これ、美味しいですよ
●○○さん、××お好きなんですか?
●これ、どうやって作るんですかね?
(出てきた料理や飲み物で話を作り出す)
『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)より
いかがでしょうか? あなたなら、これらのシーンでどんな言葉を投げかけますか?
これらの「会話のきっかけレシピ」を見て分かるのは、何も特別な会話ではない、ということ。いきなり難易度の高いトークに挑戦するのではなく、枚岡さんは「ごくごくありきたりなものを」と友人に頼んで、レシピを集めていったそうです。
「『今日何食べました?』とか『疲れましたね~』とか、ひねりはなくても広範囲に使える会話のきっかけを集めることで『これなら私でもできるかもしれない』と心強く思いました。気が利いているとか、面白いとかいった評価づけとは関係なく集めれば、自分に合ったものを見つけやすく、リアルの場でも試しやすいものです。気軽な会話なので失敗が少ないため、成功体験を積み重ねやすいのがメリットです」
雑談で空回りしがちな人が覚えておきたい、心を楽にする3つのポイント
雑談が苦手な人ほど、最初から「気の利いたセリフ」「面白いトーク」を目指しすぎて、何を話しかければよいのかが分からなくなるもの。また、沈黙が怖くて「何か言わなきゃ」と焦るあまり、雑談が空回りすることも多いでしょう。そんな人に向けて、心を楽にするポイントが3つあるそうです。
(1)見たままを言葉にするだけでいい
天気がよかったら「今日はあったかいですね」、人混みにいたら「すごい人ですね」など、見たままを言う
(2)返事はオウム返しでもいい
相手の言葉に対して「そうですね、あったかいですね」「本当にすごい人出ですよね」とオウム返しする
(3)沈黙はあって当然
「もっと話を続けなければ!」と焦りがちですが、実は雑談のほとんどは一往復で終わり、あとは沈黙というパターン。沈黙はあって当然だし、相手もそんなものだと思っているもの
確かに、この3つのポイントを前提にすると、雑談に対するハードルがぐっと低くなりそうです。最後に、コミュニケーションで悩みを抱える人に、枚岡さんからアドバイスをいただきました!
「コミュニケーションの問題を一気に改善する特効薬はないと思います。でも、私たちはしゃべりのプロではありません。100点のコミュニケーションを目指したり、人と比較して落ち込んだりする必要はないのです。料理研究家の方が以前『家庭料理はいつもご馳走でなくていい』ということをおっしゃっていました。雑談もそれと同じ。目標はハイレベルな会話ではなく、相手とのキャッチボールが成立することだと考え、できることからトライしていく。そのうちに、少しずつ目の前に合わせたやり取りができるようになって、雑談が楽しいと感じる瞬間が増えていくはずですよ」
取材・文=富永明子(サーズデイ)
イラスト=枚岡治子
編集=村田智博(TAPE)
【プロフィール】
枚岡治子
1975年大阪府生まれ。大阪市立大学大学院前期博士課程修了後、IT企業に勤め、現在はパソコンインストラクターおよびライターとして活動。「普通」と福祉・医療のスキマにできる悩みに関心がある。著書に『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)がある。
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