クレームは「処理」するものではなく「ビジネスチャンス」
谷さんによると、「クレームが怖い」と言う人には共通点があるとのこと。それは「クレーム処理」という言葉を使うことです。彼らはクレームを「嫌なもの」「怖いもの」「ストレスの原因」とネガティブに捉えています。しかし本来、クレームはお客様からの貴重な声であり、適切に”対応”すればビジネスチャンスにつながります。
実際、クレームを言うお客様の多くは「新規」のお客様ではなく、「リピーター」のお客様たちです。これからも利用したいのに、不満や変えてほしいことがあるからクレームを言うのです。つまり、クレームは営業方法を改善するための良きアドバイスであり、お客様との信頼関係を深める貴重な機会なのです。
しかし、新入社員研修でクレーム対応研修を導入している企業はほとんどありません。必要な知識がないまま最前線でクレームに直面するので、恐怖を覚えてしまうのです。つまり、クレームでストレスを感じるのは、正しい対応方法を知らないからです。
適切なクレーム対応を実践すれば、相手の価値観を受け入れることができ、お客様のみならず社内でのコミュニケーションも円滑になります。これから紹介するクレーム対応の方法をぜひ実践してみてください。
クレーム対応で重要な3ステップ
谷さんによると、クレーム対応で重要なポイントは次の3つです。
- 「謝罪」→クレーム対応は先手必勝。「限定付謝罪」で対立を対話に変える。
- 「取材」→メモを取りながら、「お客様の立場」で話をしっかり聞く。
- 「感謝」→取材後には、「教えていただき、ありがとうございます」。
それでは、クレーム対応の方法を一つずつ詳しく見ていきましょう。
クレーム対応で最も重要な最初の「謝罪」
クレーム対応は、最初にお詫びの言葉を言えるかどうかにかかっています。大抵の場合、お客様の「がっかり」「困っている」という感情が「怒り」に変わり、そのままクレームになります。まずはお客様の気持ちに寄り添い、「残念な気持ち」にのみ謝罪することが大切です。
それを「限定付謝罪」といいますが、たとえこちらに非がなかったとしても、相手にまずは冷静になってもらうため先手必勝で謝罪することが重要です。この最初の対応を誤ってしまい、「自分たちは悪くない」という態度を取ってしまうと、関係の修復は難しくなってしまいます。
この「限定付謝罪」の言葉としては、以下のように伝えると良いでしょう。
- 「うちの社員(従業員)の対応にご満足いただけない点があったようで申し訳ございません」
- 「お客様に大変ご不便をおかけして申し訳ありません」
お客様を待たせてしまった場合は、次のように謝罪を伝えます。
- 「●●分もお待たせしてしまい申し訳ございません」
クレーム対応を学ぶことは、ある意味「語学学習」に似ている部分があります。
決まり文句の「申し訳ございません」だけではなく、以下のようなボキャブラリーがあるとより適切な対応ができるようになります。
- 「心苦しい限りです」
- 「お恥ずかしい限りです」
- 「反省するばかりです」
- 「そこまで考えが及びませんでした」
- 「お詫びの言葉もございません」
など
「限定付謝罪」であれば、自分たちの責任を認めることにはなりません。まずはしっかりと相手の気持ちに寄り添うようにしましょう。
クレームを聞くときはメモを片手に「取材」
お客様から寄せられるクレームの大半は自分のミスではありません。営業担当であれば取引先から直接言われるケースがありますが、それ以外の部署では他の社員の行動や言動について指摘されることがほとんどです。
つまり、自分の知らないところで大半のクレームが発生しているため、その理由や背景が分からないのです。そのため、「謝罪」の次に必要なのは「どのようなことがあったのでしょうか?」とクレームの内容を詳しく聞くことです。
そのときに重要なのは、必ず「メモ」を取ること。そうすると、どんなに怒っていたお客様でも、「事実を正確に説明しなければ」と頭が切り替わります。つまり、「メモ」は事実関係を正しく記録するだけではなく、その場の主導権を握るための「パフォーマンスツール」としても機能するのです。
電話対応の時も「メモを取りますので詳しくお聞かせください」と一言、伝えることでお客様が冷静になります。メモを取っていないと「ちゃんと話を聞いている」と相手が感じられないので、何度も同じことを言われることも。それが発展すると、「あなたの教育が悪い」など上司へクレームが向かう場合があるので、相手の話を「取材」として聞くようにしましょう。
話を聞くときに大切なのは、相手の立場に立って理解しようとすること。「自分がクレームを伝える時、どんな風に聞いてもらいたいのか」という視点で考えると良いでしょう。
谷さんによると、「謝罪」と「取材」をしっかりすれば、大抵のクレームは3分以内に終わるとのこと。20〜30分もクレームが続くのは、最初に「謝罪」しなかったことに腹を立てている可能性があります。
結びの言葉は「お詫び」ではなく「感謝」
お客様のクレームを十分に聞き、事実を確認したら、最後に感謝の気持ちを伝えることが重要です。「早く解決したい」「お詫びして逃げたい」と思っている人は、お詫びの言葉で締めくくることが多いですが、相手に許してもらうことを目的にしてはいけません。クレームの内容をしっかりと知ろうとする気持ちが大切です。
「至らない点を教えていただきありがとうございました」とお客様に伝えることで、その後の関係性が良い方向に向かいます。
今回紹介した3ステップを活用して相手に理解を示せば、ほとんどのクレームに対応できますが、注意が必要なのは「ストレス発散型」のクレーマーです。このような人たちは、愉快犯のようにクレームを言うこと自体が目的なので、相手の気持ちに寄り添っても解決することができません。
谷さんによると、しっかりと「謝罪」と「取材」をした上で、10分以上クレームが続く場合は、対応を打ち切る判断が必要になってくるそうです。あまりに悪質な場合は、警察とも連携して対応するようにしましょう。
文=平原健士(iPPON COMPANY GROUP)
編集=野田綾子+TAPE
【監修者プロフィール】
谷厚志
一般社団法人 日本クレーム対応協会 代表理事
サラリーマン時代に企業のコールセンター、お客様相談室のクレーム対応責任者を歴任。2,000件以上のクレーム対応で、独自の「クレーム客をお得意様に変える対話術」を確立する。独立後はクレームで困っている組織を支援するため、怒りを笑いに変えるクレーム・コンサルタントとして活動を開始。圧倒的な経験知と人を笑顔にするトークがクチコミで拡がり、講演・研修に年間200本以上登壇する。最近では、テレビ番組のコメンテーター、トークショーのナビゲーターとしても活動。著書に『どんな相手でもストレスゼロ! 超一流のクレーム対応』(日本実業出版社)『失敗しない! クレーム対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)他多数。
公式サイト
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