なりたい自分になるために選ぶ拠点
拠点ってなんだろう。自分が二拠点生活をするようになって、あらためてこの問いに向き合うことができました。
私は拠点を増やしたことではたらき方が変わり、周囲にいる人々への感謝の気持ちが芽生え、自分自身の生き方がより良くなりました。単に「住む場所が増えた」だけではありません。すべてが変わったんです。
私たちの人生に起こるあらゆる出来事や出会う人は、すべて拠点に紐づいています。そして、その拠点で過ごす日々は成長そのもの。自分自身を育てていく栄養の一つひとつは、拠点から与えられるものです。
だから、私がそうであったように、拠点を変えることは人生のターニングポイントになるのでしょう。自分を尊重するならば、拠点選びは無視できないテーマのひとつです。
コロナ禍で、拠点の選択肢は一層柔軟になったと思います。仕事のオンライン化が進み、オフィス勤務を前提とするはたらき方が当たり前ではなくなってきているからです。はたらく場所と生きる場所が違ってもいい時代が、もうすぐそこまでやってきています。
ひとつ、具体的な例を挙げます。東京で暮らす私の友人は、コロナショックを機に副業を始めました。副業先の企業は東京から遠く離れた場所にオフィスを構えており、基本はオンラインで仕事を進めています。
興味深いのは、遠方で生まれた新しい仕事をきっかけに、友人の中で拠点の捉え方が変わったことです。これまで東京での生活にこだわっていた友人が、ゆくゆくはその副業先のある地域をもうひとつの拠点にしてもいいかもしれない、と言い始めました。
友人の心を動かしたのは、副業先の人々との出会いであり、そこにある仕事の魅力です。一方で、東京での暮らしも手放しがたい。この葛藤の先に、友人は拠点を増やす選択を検討し始めたのでしょう。
東京から地方へはたらきに行く。これもまた、二拠点生活のひとつのケースです。東京で身につけたスキルを地方に還元しつつ、東京にも拠点を残し続けることは、決して不可能ではありません。もちろん難しい場面もあるでしょうが、きっとそれを乗り越えられるだけのエネルギーが、すでに友人の心には芽生えているのだと思います。
社会が作った“当たり前”の生き方は、少しだけ忘れてみましょう。自分がより幸せになれる出会いや暮らし方を求めたとき、あなたはどこにいたいのでしょうか?
その問いに向き合いながら、拠点を移したり、増やしたり……。拠点を軸にした思考錯誤を繰り返していけば、人生はより豊かになっていくと思います。
無拠点、多拠点……それぞれの生活のメリットとデメリット
私の場合は、生まれ育った北海道と、社会人生活を送った東京の二拠点生活を選びました。拠点をひとつに絞らない生活は、他にもいくつかのスタイルがあります。
拠点を持たずに移動しながら生きる「無拠点生活」は、2015年ごろから話題になっていました。近年は格安で宿泊できるゲストハウスが増えたことや、自由な生き方をコンテンツ化する需要が高まったことで、再注目されていたようです。
コロナ禍で「ステイホーム」が合言葉になってからは、無拠点生活のハードルはやや上がったのかもしれません。一方、キャンピングカーを拠点とし、移動しつつはたらく「在車勤務」が話題になったのは最近のことです。
感染リスクに配慮した拠点移動手段や宿泊方法を考えれば、無拠点生活は不可能ではありません。拠点の維持費やライフスタイルの観点から、無拠点生活が最も心地いいと感じるときは、思い切って拠点を捨ててみるのもひとつの手段です。
また、「多拠点生活」という選択肢もあります。二拠点生活は多拠点生活の中のひとつですが、多拠点生活と呼ばれる場合、三つ以上の拠点を持つ人がほとんどです。
拠点の置き方はさまざまですが、東京と生まれ育った地元、加えてリゾートとして楽しめる場所といった、目的の異なる場所を拠点とするケースが多いようです。
多拠点生活を検討するときは、それぞれの拠点をどのように維持するか計画する必要があります。自分で管理しきれない可能性が高いので、家族やシェアハウス仲間などの協力者が必要不可欠です。あなたが多数の拠点を往来していることにメリットのある人と、相互に協力し合うスタイルが望ましいです。
関わる人の多様性が広がることで刺激的な生活を送れる一方、各拠点に根付く人々とのコミュニケーションが希薄になってしまう傾向もあります。自分らしい生き方の答えが多拠点生活にあったのならば、それを支えてくれる周囲の人々とどのように接していくか、しっかり考えて臨みましょう。
あなたの拠点は、どこですか?
さて、私はこれまで、拠点を北海道と東京に定めて生きた体験談を書いてきました。私は今、とても幸せです。コロナ禍で拠点間の移動を制限される日々が続いていますが、それでも幸せに生きています。
もちろん、いいことばかりではありません。失った仕事も少なくありませんし、北海道に暮らしているメリットを十分に活かせていないと感じることも多々あります。家族や周囲の人々にも、甘えっぱなしです。
それでも、幸せだからいいの。そう思える満足感を得られたのは、他の誰でもない、「自分の意思」でこの生き方を選んだからです。二拠点生活という選択は、私が私の幸せのために全力を尽くすきっかけをくれました。
こうして私の体験を読んでくださった人の中には、そうは言っても職場や家族のことがあるから、そう簡単には拠点の移動なんてできない、という人もたくさんいるでしょう。無理に拠点を増やす必要はこれっぽっちもありません。一つの拠点に幸せがあるなら、それが一番です。
一方で、「どうしても今の生活やはたらき方に満足ができない」「このままじゃだめだ」と思うときは、拠点まで問いを巻き戻して、考えてみてほしいです。あなたがあなたらしさを失ってまでそこで暮らし続けなければならない理由は、きっとないはずです。
拠点にまつわる体験は、一人として同じものはないと思います。「住めば都」という言葉がありますが、そこを都と感じられる感受性は、あなたの心に宿るものです。自分らしい生き方やはたらき方を諦めず、大きな移動や転換期に立ち向かってみてください。きっとその先には、今まで出会ったことのない困難と、それを上回る幸せが待っているはずですから。
文・写真=宿木雪樹
編集=五十嵐大+TAPE
【関連記事】
わたしは何しに東京へ? 28歳過労女子が「二拠点生活」を始めるまで【二拠点生活のリアル#1】
二拠点生活の「成功」は、事前の入念な準備にかかっている【二拠点生活のリアル #2】
働く拠点を二つ持ったことで、「私の幸せ」は2倍に膨らんだ【二拠点生活のリアル#3】
東京には東京のドレスコードがある? 地方で直面した、東京ではたらく意味【二拠点生活のリアル#4】
不安も伴う二拠点生活を成功に導くために必要なこととは?【二拠点生活のリアル #5】
あなたの本当の年収がわかる!?
わずか3分であなたの適正年収を診断します