「1on1」とは何か?
従来の上司・部下面談というのは、主に人事評価を行う中で、目標設定やその達成度、評価結果などについて、上司が部下に対して説明や確認することを目的としているものでした。これに対して「1on1」は、部下の「キャリア」を主題にして、上司からの一方的な指示、説明、さらに説教となるようなコミュニケーションではなく、より双方向性が強い「対話」をするための場です。
お互いの信頼関係づくりとコミュニケーションの質を高めることをベースにして、部下の人材育成や成長を目的とするところが、これまで行われてきた面談とは異なるポイントです。
なぜ今「1on1」が注目されるのか
「1on1」が進んでいる大きな理由は、企業による「自律型社員」の育成のためだとされています。変化の激しい環境に対応していくことが、ビジネスを展開していく上で重要なファクターとなっていますが、個々の社員が自律して判断、行動することができなければ、企業はこの変化のスピードについていくことができません。「1on1」は、あくまで部下を主体として、上司は部下の意思を尊重しながらサポートすることで、自律を促すことを目的としています。
もう一つ「1on1」が注目される理由として、職場環境の変化があります。近年、年齢を問わずにワークライフバランスへの意識は高まっており、仕事とプライベートを明確に線引きしたいと考える人が増えています。コミュニケーションの取り方も、セクハラやパワハラなどといった問題が起こらないように、相手の気持ちや感じ方に神経を使わなければなりません。接し方を誤ると、部下の内面に立ち入るようなコミュニケーションはより難しくなるため、上司と部下の関係性はどんどん疎遠になってきています。
このような環境において、「1on1」を通じて上司と部下のコミュニケーション不足を解消していこうという動きが始まっているのです。
1on1のメリット・デメリット
「1on1」を行うにあたって、メリットとデメリットがそれぞれあります。
メリットとして、コミュニケーションの面では「気軽な話し合いの場によって上司・部下間の関係性が良くなる」ということがあります。また人材育成の面では、「身近な目標と進捗確認を繰り返すことで、その人のレベルにあった育成が進められる」という点も大きなメリットです。
逆にデメリットとしては、「思った以上に時間が取られる」ことと、話し合う機会が習慣的に設けられるため、「目的があいまいになりがちである」ことがあります。特に気軽な雰囲気で雑談するような内容ばかりだと、やらなくても良いのではないかという話になりがちです。
お互いがメリットを感じながらでなければ、「1on1」を続けることは難しくなってしまいます。上司部下の双方にとって意義がある時間になるように心掛けましょう。
上司との「1on1」。実施する際の注意点
「1on1」を実施するにあたり、部下の視点で最も大事なことは、上司に「話をよく聴いてもらうこと」です。一般的な上司部下面談では、ともすれば上司が大半の時間話しているケースが見受けられますが、「1on1」では部下である自分が主人公という位置づけです。
話すことが思いつかない、思ったことが話せないなど、せっかくの時間を有効に使えないことがあります。上司には聴き役に徹してもらえるよう、事前に話したいことを整理しておきましょう。何か思いついたときに簡単なメモに残しておくのも良いと思います。
まず自分のことを知ってもらうような内容を、少しずつ話していくと良いでしょう。意見や感想をはっきり伝えれば、上司もいろいろな配慮やアドバイスがしやすくなります。お互いが協力して改善しながら進めていくことが「1on1」ではとても大切です。
うまく活用できれば信頼関係がぐっと深まる「1on1」
先に述べた通り、部下と上司との距離の取り方がとても難しい時代になっています。その一方、コミュニケーションが重要だということは、昔も今もまったく変わっておらず、これまで以上に難しい課題になっています。そのような環境だからこそ、上司と部下がお互いの信頼関係をいかに高めるかが重要になっているともいえます。
「1on1」の際には、常にはっきりとした目的を持ってミーティングに臨むことも大切です。目的があいまいでは「1on1」がただの雑談の時間になってしまい、その意義が薄れてしまいます。「1on1」を実施する最も大きな目的は、自身の「キャリア開発」と「成長」です。このことは常に念頭に置いて、上司との「1on1」を活用してみてはいかがでしょうか。
文=小笠原隆夫
編集=矢澤拓
【プロフィール】
小笠原隆夫
人事コンサルタント。IT企業で開発SE職を務めた後、同社で新卒中途の採用活動、人事制度構築と運用、ほか人事マネージャー職などに従事。二度のM&Aでは責任者として制度や組織統合を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表に。以降、人事コンサルタントとして、組織特性を見据えた人事戦略や人事制度策定、採用支援、CHRO(最高人事責任者)支援など、人事・組織の課題解決に向けたコンサルティングをさまざまな企業に実施。2012年3月より「BIP株式会社」にパートナーとして参画し、2013年3月より同社取締役、2017年2月より同社代表取締役社長。
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