ポータブルスキルとは? 仕事や転職にも役立つスキルの鍛え方

ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても持ち運びができるスキルです。変化の大きな時代の中、どの組織・企業でも活躍できる人材や活用できる技術として注目を集めています。本記事で、ポータルスキルの概要や鍛え方を理解しておきましょう。

ポータブルスキルとは?

厚生労働省の定義によると、ポータブルスキルとは「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」のことです。

業種・職種が変わっても必要とされる仕事力

社会環境や経済の状態がスピーディに変化する現代社会では、新しい業種や、これまでになかった職種が生み出されています。転職を考えていなくても、会社に新しい部署ができることがあるかもしれません。

これからの時代は、業種や職種が変わっても必要とされる仕事力として「ポータブルスキル」が必要とされそうです。

ポータブルスキルが重要視される理由

労働力人口が大幅に減少するなか、企業や組織では、さらなる生産性向上に向けてイノベーティブな仕事が求められています。画一的な人が集まるのではなく、多様な人材がチームとなって試行錯誤することが仕事の重要な要素になっていきます。これまで以上に多種多様な業界・職種・個性が求められ、人材の流動性が高まっていくでしょう。

そこでポイントとなるのが、どのような業種・職種に移ったとしても活用できる「ポータブルスキル」です。ここから、ポータブルスキルが重要視される理由について、詳しく確認していきましょう。

雇用の流動性が高まった

雇用の流動性が高まったことが、近年ポータブルスキルが重要視されている理由です。

厚生労働省が発表した「一般職業紹介状況(令和4年6月分)」によると、 令和4年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.27倍で、前月を0.03%上回る結果でした。仕事を求める側の指標(1.0倍)を大きく上回っているため、雇用の流動性は今後さらに高まることが予想されます。

日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年の約8,700万人をピークに減少し、約30年後の2050年には5,275万人(2021年から約30%減)まで減少すると予想されています。つまり、働ける人を企業が奪い合う時代になる、ということです。さらに、コロナ禍を経て働き方や仕事観が多様になりました。その結果、より自分らしく働ける環境、より自分の力を活用できる職場に人が転職することも増えています。

将来が予測ができないVUCA時代の到来

VUCA時代の到来も、ポータブルスキルが重要視される理由でしょう。

「VUCA」とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語です。現代社会やビジネスにおいて、未来・将来の予測を立てることが難しくなる状況・時代であるということを意味しています。

社会の変化に対応するためにも、さまざまな視点から仕事の全体像や社会の動きを把握しておくことが求められます。こうした社会の変化を背景に、1社だけで通用するスキルではなく、多種多様な組織や環境に適応できるポータブルスキルが重視されるようになりつつあるのです。

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ポータブルスキルの構成要素一覧と具体例

厚生労働省では、「ポータブルスキル」を「仕事のし方」と「人との関わり方」の2つに分類しています。それぞれの具体例をみていきましょう。

参考:厚生労働省|ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)より

「仕事のし方」

「仕事のし方」とは、すべての仕事を進める際の基礎となる「仕事の進め方」や「仕事の組み立て方」に関するスキルです。主に5つのスキルで構成されます。

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①「現状の把握」

「現状の把握」とは、取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析に関するスキルのことです。いきなり提案書を作成したり、クライアントと話をしたりせず、事前に現状の把握を行い、事実を見定めるスキルを指します。

スキル例:現状把握力、リサーチ力、ヒアリング力など

②「課題の設定」

「課題の設定」とは、事業、商品、組織、仕事の進め方など取り組むべき課題の設定に関するスキルを指します。課題設定が誤っていると、その後の計画立案や提案などもクライアントの意図と異なったものとなるため、非常に重要なスキルです。

スキル例:課題発見力、仮説設定力、課題分析力など

③「計画の立案」

「計画の立案」とは、担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方に関するスキルです。事前準備に何が必要で、その準備にどの程度の日時を要するか、といった見通しを立てたり、効果的な計画の組み合わせを設定したりすることが求められます。

スキル例:時間見積力、タイムマネジメントスキル、プランニングスキルなど

④「課題の遂行」

「課題の遂行」とは、スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえで、障害となる事案の事前調整や、納期などに対して業務を進めるためのマインドセットなどのスキルのことです。

スキル例:プロジェクトマネジメントスキル、問題発見力など

⑤「状況への対応」

「状況への対応」とは、予期せぬ状況への対応や責任の取り方に関するスキルです。緊急事態が発生した際、何が問題で、誰に何を依頼してリカバリーするかなど、高い視点を持ちながら具体的な課題解決策を遂行する力が求められます。

スキル例:臨機応変、中長期視点、交渉力、文章力など

「人との関わり方」

ほとんどの仕事は、誰かと関わりながら進めていきます。人との関わり方についてのスキルも、ポータブルスキルのひとつです。具体的には次の4つのスキルに分けられます。

①「社内対応」

「社内対応」とは、経営層・上司・関係部署と納得感の高いコミュニケーションを取ることや、応援してもらったり提案を支持してもらったりするためのスキルです。

スキル例:報連相、傾聴力、ヒアリングスキル、アサーションスキルなど

②「社外対応」

「社外対応」とは、クライアントや社外パートナー等に対して納得感の高いコミュニケーションをとるスキルのことです。社外の相手とコミュニケーションをとる際に求められる利害調整や合意形成も、ポータブルスキルに含まれます。

スキル例:相手の課題などを想像する力、相手の課題解決に向けた提案力など

③「上司対応」

「上司対応」とは、上司への報告や課題に対する改善に関する意見の伝え方に関するスキルです。特にトラブル発生時には上司と部下、双方に対するスキルが求められます。

スキル例:質問力、コミュニケーションスキル、提案力、傾聴力、アサーションスキルなど

④「部下マネジメント」

「部下マネジメント」とは、部下・メンバーのモチベーションマネジメントや育成、持ち味を活かした業務の割り当てなどを指します。チームで仕事をするうえで、大切なスキルです。

スキル例:傾聴力、コーチングスキル、メンタースキルなど

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ポータブルスキルを身につけるメリットは?

ポータブルスキルを身につけておけば、さまざまなメリットを得られます。ここから、ポータブルスキルを身につけるメリットを2つ紹介します。

自分の仕事に自信を持てる

ポータブルスキルを身につければ、さまざまな分野で活躍できる可能性が高まるため、仕事に自信を持って取り組める点がメリットです。自信を持てれば、仕事が楽しくなり、新しいことにも積極的にチャレンジできるようになるでしょう。

転職やキャリアチェンジに役立つ

ポータブルスキルを身につけると、今の職場だけでなく、転職やキャリアチェンジで役立つ点もメリットです。仕事のし方や人との関わり方のスキルは、職種・業種が違ったとしても活かせる点がおおいにあります。そのため、ポータブルスキルを身につけた人材を積極的に採用しようとする動きもあります。

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ポータブルスキルを鍛えるには?

ここまでみてきたポータブルスキルですが、どのように鍛えていくのが効果的なのでしょうか。ここでは、「仕事のし方」と「人との関わり方」に必要なスキルのうち、共通している点を集約してお伝えします。

①課題解決のためのプランニング力を高める

課題の解決には、そのステップを細かく分解し、そのひとつひとつを高めていく必要があります。なかでも重要なのは「問題が起きていることの、本当の課題はなにか」を見極めることです。このスキルを高めるためには、「なぜこの問題が起きているのだろうか」という問いを、もうこれ以上答えは出てこないというレベルまで繰り返し、問題を細かく分解していく練習が有効です。

その際、「人の感情」にまつわる問題を見落としがちですので、注意して分解してみましょう。

②業務遂行能力を高める

業務遂行能力でこれから求められるのは「できるだけ短い時間で対応すること」です。生産性を上げていくことが必須の現代社会で、のんびりと時間をかけて業務を進めるのはNG。

そのため、「この仕事を終わらせるには、自分のスキルだと60分かかる」など、自分のスキルにあった時間の見積もりを業務ごとに立てることが重要です。当然のことながら、60分で終わったかどうかの振り返りも忘れずに。

③コミュニケーション力を高める

そしてすべてのベースになるといっても過言ではないコミュニケーションスキル。まず、自分のコミュニケーションスタイルをよく理解するところから始めましょう。話しながら整理したいのか、ひとりでじっくり考えたいのか。早口なのかゆっくり話すのか。抽象的な言葉が多いか、具体的事実に基づいて話すのか。様々な切り口がありますが、まず自分の個性を知ったうえで、相手のコミュニケーションスタイルとの違いを理解し、そのギャップを埋めたり、調整したりしていきましょう。

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【ちなみに】ポータブルスキルの関連用語

ポータブルスキルに関連したスキルについて、確認していきましょう。

スタンス

スタンスとは、「企業と価値観を共有できるか」のように、ある物事に対する立場、姿勢を示すものです。ポータブルスキルよりも汎用性が高いものとされています。

テクニカルスキル

テクニカルスキルとは、専門技術や専門知識のことです。テクニカルスキルがあれば、特定の分野において即戦力での活躍を期待できます。

ポータブルスキルとテクニカルスキルの両方を持ち合わせていれば、さらに活躍の場が広がるでしょう。

ヒューマンスキル

ヒューマンスキルとは、対人関係のスキルのことです。コミュニケーション能力やプレゼン能力などが具体例として挙げられます。

ポータブルスキルを身につける上で、コミュニケーション能力が欠かせないため、ヒューマンスキルはポータブルスキルのひとつに分類されることが一般的です。

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まとめ:どこでも活躍できるポータブルスキルを高めよう!

コロナ禍を経て、さらに変化の大きなVUCA時代の波が押し寄せてきます。定年退職まで1社で勤め上げるというキャリアだけでなく、いくつかの会社に属しながら仕事するスタイルや、何度か転職しながらキャリアを深めていく方法も増えていくことでしょう。

どのような社会であっても、どのような組織であっても、ベーシックなスキルがあなたの活躍を支えてくれるはずです。ポータブルスキルという観点で、あらためてご自分のスキルを点検してみてくださいね。

【プロフィール】
大塚万紀子
楽天を経て06年(株)ワーク・ライフバランスを小室淑恵とともに創業。高いコミュニケーション力やコーチングスキルを生かし、売上利益に貢献するさまざまな働き方改革を効率的に遂行するコンサルティングの先駆者。心理学や組織論等をもとに多様性をイノベーションにつなげることが得意。経営者から”深層心理まで理解し寄り添いながらも背中を押してくれる良き伴走者”と厚い信頼を得る。農林水産省「食品産業戦略会議」委員(働き方改革分野担当)なども担当。二児の母。
https://work-life-b.co.jp/staffprofile/makiko_otsuka

※本記事は有識者への取材に加え、編集部で再編集・記事更新を行っております。

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