「短くやる」が、マルチタスクの鉄則。自分をラクにするタイムマネジメント術

抱えている仕事が終わらない、タスクをこなすだけで精一杯…。こんな現状を嘆いているビジネスパーソンの方は多いのでは?今回は、『「すぐやる」よりはかどる!仕事を「短くやる」習慣』(クロスメディア・パブリッシング)の著者で、数多くの経営者へタイムマネジメントの指南をしてきた、山本大平さんにお話を伺い、時間を意識した仕事のやり方、考え方を教えていただきます。

「短くやる」が、マルチタスクの鉄則。自分をラクにするタイムマネジメント術

限られた時間を有効に使い、自己実現を果たそう!

限られた時間を有効に使い、自己実現を果たそう!

山本さんによると、自身のキャパシティを超えた仕事を抱えて、限界ギリギリで働くビジネスパーソンは増加傾向にあるといいます。その要因は、一体何なのでしょう?

「2018年6月に『働き方改革法案』が成立して、2019年4月より「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が施行されて以降、多くの企業が残業に対する意識を変えました。社員を働かせ過ぎない方向にシフトチェンジしたわけです。

とは言え、現実的に仕事の量は減っていません。残業時間が減った分を補う人材を採用できるような、余裕のある企業は多くありませんからね。これによって、残業をせずにこれまで通りのボリューム感の仕事を終えなくてはならず、キャパオーバーを起こす人が多いのです」(山本さん・以下同)

「自分の市場価値」に焦りを抱える若手が増加

目の前にある仕事をこなすだけで精一杯の状態のビジネスパーソンから、山本さんの元に届いた「リアルな声」を聞いてみました。

「『生産性を上げるにはどうしたらいいか』という相談が寄せられることが多いですね。今の時代は転職する人も増えてきていますが、自分の市場価値が上がらなければ報酬の高い会社には移れません。皆さんそれがわかっているからこそ、成長ができる仕事に時間を割きたいと思っている。でも、それ以外の業務に追われてしまう…という状況に陥っているようです。30代の方からは、『自己実現とのバランスが取れなくなっている』といった焦りの声も聞かれます」

「タイム イズ 命」! 有限な時間を有効に使うべし

やはりビジネスパーソンにとって、タイムマネジメントをしっかりして、効率よく仕事をさばいていくことは、とても重要なことだと言えそうです。あらためて、山本さんに意見を伺いました。

「時間を意識して行動するのが大切なのは、ビジネスパーソンに限ったことではありません。なぜなら、人間はいつ死ぬかわからない、限りある時間を生きているんですから。私は大学院修士2回生の時、バイク事故に遭って一度生死を彷徨った経験があります。だからなおさら、時間が貴重なものだという感覚が大きいのです。よく『タイム イズ マネー』と言われますが、『タイム イズ 命』だと私は思っています」

その仕事にやる意味はあるのか?をまず考える

その仕事にやる意味はあるのか?をまず考える

では、タイムマネジメントをしっかり意識していくために、カギとなるポイントは何なのでしょうか。

「まずは『その仕事にやる意味はあるのか?』を考えることから始めましょう。仕事はPDCA (Plan、Do、Check、Action)のサイクルで回せとよく言いますが、私はその前にもう1つのC(Check)を付けた「C-PDCA」でやろう、と提唱しています。仕事にすぐ取り掛かるのではなく、その前にCheckをはさむ、つまり現状把握を行うことがポイントです。

現状把握とは、この仕事がもたらす成果に意味があるのかまでを考えること、その仕事について他の人がこれまでやってきたやり方を知ること、もっと他に賢いやり方はないのか考えることです。別の仕事と掛け合わせて付加価値を生めないか、P(Plan)と一緒に検討する、ということですね。

そうすることで、生産性や効率が上がります。加えて、『あの人に仕事を頼んだら、こんないいことがある』と社内評価を上げることにもつながりますし、自身の市場価値を高めるきっかけにもなるでしょう」

仕事は「すぐやる」ではなく、「短くやる」が鉄則!

仕事は「すぐやる」ではなく、「短くやる」が鉄則!

すぐに手を付けるのではなく、Checkの段階を挟んで効率を上げることが大切だと話す山本さん。生産性を上げ、できる限り短い時間で多くのタスクをこなすためには、「短くやる」意識が特に必要だと言います。

「『すぐやる』も、タスクを早く終えるためには必要なことですが、そこには『モチベーション』の問題が大きく絡んできます。一方、『短くやる』は効率を意識した『テクニック』を身につけることなので、そのコツさえ理解できれば、生産性アップにつなげやすくなるはずです」

「短くやる」ための5つの原則を心がける

効率を上げる、つまりは「短くやる」ためのコツについて、詳しくご説明いただきました。

「短くやるには、次の5つの法則を意識するといいでしょう。

  1. 優先順位を明確にする
  2. 余計なことをしない
  3. 相手の感情を動かす
  4. 人に任せられるものを抱え込まない
  5. 先延ばしをしない

この中で特に大切なのは、1~3。4と5は1~3から派生したものだと考えてください」

優先順位は、緊急度が高いものが上

挙げていただいた5つの法則のうち、柱となる1~3について、解説いただきました。

「1つ目の『優先順位を明確にする』は、優先順位の決め方がポイントです。これは、『緊急度』と『重要度』を軸に考えてみてください。緊急度が高いものの方が、優先順位が上です。でも、緊急度が高い仕事は、どうしても突発的に発生しますよね。だから、重要度が高いものを、余裕を持ったスケジュールで段取りしておく必要があるのです」

「なんとなくやっていること」は辞めてしまう

「2つ目の『余計なことをしない』は、いらない仕事をしてないか? と自問自答してみることです。会議の議事録のように、とりあえずやっているけれど誰の役にも立っていない仕事はありませんか? なんとなく集まっているけれど、大した議題のない定例会議はありませんか?

メールとチャット、電話、対面といった連絡手段の使い分けも重要です。打ち合わせの時間はメールでやり取りするよりも、電話で確認してしまった方がすぐに決まって効率がいい、といった場合もあるはずですから」

相手の欲求を満たしてからお願いする

「3つ目の『相手の感情を動かす』は、他者に協力を仰ぐときの話です。まず、自分の思った通りに人を動かそうとするのは、無理なことだと心得てください。どうしたら動いてもらえるかを考えて、その環境を整えてからお願いするのが重要なのです。

人間の欲求を5つの階層に分けた『マズローの欲求5段階説』というものがあります。これによると、『生理的欲求』『安全の欲求』『社会的欲求(所属と愛の欲求)』『承認の欲求』『自己実現の欲求』がこの順に満たされていくことで、人間のモチベーションは上がっていくようです。

例えば、過度な労働量や労働時間を強いているのに、さらに何かを要求したとしたら、それを快く聞き入れてもらえるはずがありません。何事も、『その人の欲求は満たされている状態か』を現状把握してから、依頼するようにしましょう。私の場合、人に仕事を頼みたいときはまず『自分が動く』ことを意識していますね。

『私(山本)がやった仕事』という前例を作ることで、『自分にもできるかもしれない』という希望を持ってもらうのです」

「いい人キャラ」を装わず、できないことは断る人になろう

「いい人キャラ」を装わず、できないことは断る人になろう

ここまで、「短くやる」を切り口に、タイムマネジメントの方法について見てきました。それを踏まえても、「うまくできるか自信がない…」と思ってしまう人には、どんな共通点があるのでしょうか。

「優柔不断な人やお人好しが多い気がします。時間が限られ、10のタスクうち3つしかさばけない、といった状況になったとしたら、優先的にこなすべき3つのタスクを選ぶことができない、という人です。それで結局、タスクを10個全てやろうとしてパンクしてしまう。そんな傾向が強いですね。

私は『いい人になろうとするから、しんどい思いをするのだ』と、コンサルティングの現場で話すことが多いです。逆に、『嫌な人になれ』とは言っていません。普通の状態でできることだけを最大限頑張ればいいのです。無理をしていない、素の自分でキャラ設定をして、できないことはきちんと断る。いい人キャラを装ってできないことも引き受けていたら、周りを騙しているも同然、と思考を切り替えてしまうのも1つの手です」

24時間をどう分けて、何に使うかを考える

タイムマネジメントがうまくできるようになると、仕事がスムーズに進む他に、どんなメリットが生まれるのでしょうか。

「24時間を3で割ると、8:8:8に分けられますよね。これは大体、最初の8時間は睡眠、真ん中の8時間は仕事の時間、残りの8時間は自分の時間、と分けることができると思います。しかし、仕事を短くできない人は、例えば8:12:4といった具合に、自分の時間が極端に減ってしまうのです。

自分の時間である8時間をしっかり確保できるように時間を使い、その8時間においても、ときどきは仕事に活かせる過ごし方を意識してみると、市場価値の向上につながっていくと思います」

引き出しを増やして、自分をアップデート

例えば、自分の時間である8時間をどのように使えば、自分のアップデートにつながるのでしょうか?

「私はよくロールプレイングゲームを引き合いに出し、『覚える魔法の数を増やそう』という言い方をしています。ゲーム上で、たくさんの敵に立ち向かっていくためには、さまざまな魔法を覚える必要がありますよね。例えば、敵を攻撃する魔法しか使えない状態だと、それが効かない場合はゲームオーバーになってしまいます。傷を癒す魔法や、味方をサポートする魔法など、いろんな魔法を唱えられた方が勝率は上がります。

現実世界で言えば、自分の引き出しを増やすということですね。そのためには、今いる業界の人たちばかりと付き合っていると、業界内の知見は増えるかもしれませんが、結局『それだけ』でしかありません。別の環境に身を置いてこそ、別の種類の知識や技術を手にすることができるのです。

ですから、仮に余暇を過ごす場合も、できるだけ異業種の人と交流できる環境に身を投じてみるのがいいと思います。別に『異業種交流会』に行くべき、というわけではなく、例えば何らかの社会人サークルに所属してみるのでもいいです。社外の、異なる業種の方と対話することが大切です。

ある業界では当たり前のことでも、それを自分の業界に転用してみたら、こんな課題が解決できたといったことが起こり得るんです。結局、自分をアップデートできるのは自分だけです。なるべく仕事は短く終えて、自分の時間を増やしたいですよね」

どんな仕事にも意味を見出せば、時間は有効に使える

どんな仕事にも意味を見出せば、時間は有効に使える

優先順位をつけたい、余計なことはしたくないと思いつつも、忘年会の幹事など、優先度が高くないことに時間を割かなければいけないことも少なくないでしょう。このような場合、どうすればいいのでしょうか。

「『とりま(“とりあえずまあ”の略)、やってみよう』と考えるのが理想です。そして、それに意味を見出す努力をしましょう。忘年会の幹事だって、日程を調整したり、参加者の顔ぶれを踏まえて気の利いた店を選んだり、満席にならないうちに予約をしたりしないといけないので、タスク分解したら、仕事に置き換えられるのでは? と考えたらいいのです。『タイム イズ 命』だからこそ、一見雑用に思えるタスクさえも価値あるものにしないと、もったいないですよ」

その仕事が後に、別の価値を生む可能性がある

たとえ、短く仕事をするための障壁が立ちはだかったとしても、それをプラスに転換することは可能だということですね。

「今は役に立たないけれど、その先何かとつながって価値を生むことは往々にしてあるのです。私もそうでした。前職で勉強したデータサイエンスが、今の戦略コンサルタントの仕事において、他社との差別化という点で生きているのですから」

まとめ

日々の時間の使い方に意識を向け、タイムマネジメントをしっかりすることで、自分の人生が大きく変わります。自分の人生の責任は、自分が持つしかありません。だからこそ、有限な時間をどう使うかは重要なのです。行動力も大事ですが、行動する前に考えることで、時間を最適化して使えます。それを心に留めて、実行してみてはいかがでしょうか。

話を聞いた人:山本大平さん

山本大平さん_戦略コンサルタント/データサイエンティスト

戦略コンサルタント/データサイエンティスト。2004年に新卒でトヨタ自動車株式会社に入社、長らく新型車の開発業務に携わる。その後、株式会社TBSテレビに転職、同社内で注力する番組のリブランディングを多数手掛ける。さらにアクセンチュア株式会社にて、経営コンサルタントの経験を積み、2018年に経営コンサルティング会社F6 Design, Incを創業。現在は組織マネジメントや人材育成などのコンサルティングにも注力している。

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