- 「自分は否定していない」と思う人ほど要注意
- 意図しない否定が人間関係や業務進行を妨げてしまう
- 否定しないマインドのつくり方
- 明日から実践できる「否定しない」言い回し
- 否定しない習慣が働きやすさにつながる
- まとめ
「自分は否定していない」と思う人ほど要注意
否定というと、相手に「NO」をつきつけたり、「でも」「だって」といったネガティブな表現を使ったりすることをイメージするかもしれません。しかし、言葉上は否定していなかったとしても、言い方や態度によっては否定になることがある、と林さんは指摘します。
「日ごろから、誰かを否定しようと思って生きている人はそういないでしょう。それにもかかわらず否定が生まれてしまう背景には、自分にそうした意図がなくても、何らかの発言や態度が相手には否定と受け取られてしまうメカニズムがあるからだと私は考えています。
人は言葉の外側まで考えてしまう生き物です。『あの書類ってできている?』といった何気ない一言であっても、受け取り手は『どうせまだできていないんでしょう』といった否定的なニュアンスを読み取ってしまうことがある。一日の中で私たちは、こうした無意識の否定を何度も繰り返している可能性があるのです」(林さん・以下同)
やってしまいがちな「無意識の否定」の具体例
無意識にやってしまいがちな否定には、次のようなものが挙げられるといいます。
-相手の話を聞かない・奪って違う話をする
「例えば、『昨日、箱根に行ってきたんだ』と話しかけられたときに、『いいね。俺はこの間、その先にある熱海に行ったんだけどね』などと、自分の話を始めてしまう。心当たりがある人もいるのではないでしょうか。直接的に否定しているわけではないのですが、相手は自分の話を打ち消されたように感じるかもしれません」
-悩みの相談などに真剣に向き合わない
「こちらも要注意です。後輩から『人間関係がうまくいかない』と相談された際、『あいつはいいやつだよ』『考えすぎなんじゃないの』と取り合わない、などがよくある例ですね。スマートフォンをいじりながら話を聞くなど、物理的に相手に向き合わないケースもあるでしょう。相手の存在を無視したり、軽んじたりする態度は否定と受け取られてしまいます」
-よかれと思ってアドバイスする
「中でも否定と自覚しにくいのが、よかれと思ってしてしまうアドバイス。私たちは会話の中でつい、有用なこと・意味のあることを言わなければと考えがちです。しかし実は、相手はただ話を聞いて欲しいだけかもしれないのです。そうしたときに、『こうしたほうがいいと思うよ』とアドバイスしてしまうと、善意であったとしても相手は気を悪くしてしまうかもしれません」
以上に挙げたような発言は、必ずしもすべてが否定として受け取られるわけではないそうです。
「お互いの関係性や相手の精神状態などによっても変わってくるでしょう。大事なのは、発言する前に相手がそれをどう受け取るかを想像すること。そして発言した後も、否定と受け取られてしまったらそれに気づき、リカバリーできるかどうかです」
意図しない否定が人間関係や業務進行を妨げてしまう
これまで数多くの企業でコーチング研修を行ってきた林さんは、意図しない否定によって職場での人間関係を損ねたり、仕事の進め方がうまくいかなくなってしまったりした事例を見てきたといいます。その中から印象的なエピソードを2つ紹介しましょう。
事例①:ある企業での昇進をめぐる上司・部下のやりとり
「会社で昇進が決まる時期のこと。部長のもとに、昇進の選外になってしまった部下からメールが届いたそうです。『こんなに頑張っているのになぜ昇進できないんだ』と。それに対して部長は『こういう理由で昇進させられなかったんだよ』という内容を返信しました。
部下からしてみると、昇進できないこと自体を否定と感じてしまったのでしょう。一方の部長も、議論した上での決定をその部下から頭ごなしに否定されているように感じたそうです。これは、双方が互いの発言を否定と受け取り合ってしまっている状態ですね。
こうした事態を放置すると、お互いの関係性に少しずつヒビが入っていき、積み重なると修復不可能になる恐れもあります。このケースでは、対面でしっかり話し合う機会を設け、解決を図りました」
事例②:ある大手企業の部署間でのやりとり
「否定は個人間のみならず、集団間でも起こります。この企業の場合は、部署同士での対立を生んでしまいました。
ある商品が大ヒットしたときのこと。営業部門は『すぐに増産して商品を店頭に並べよう』と主張、一方の調達部門は『材料の仕入れは数年単位でやっているから、すぐには無理』と主張しました。両者は、それぞれの立場から責任を持って発言をしているわけですが、『じゃあどうするか?』という建設的な方向に話が向かないために、集団で否定し合っているような状況に陥りました。これでは、関係性がギクシャクするばかりか、業務も滞ってしまいます」
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否定しないマインドのつくり方
こうした無意識の否定を防ぐには、まずはそれを自覚し、相手を否定しない習慣を身につけることが大切です。その前提となる「否定しないマインド」をつくる3つの考え方を解説いただきました。
「事実や正論はそのまま言ってもいい」という考えをやめる
「近ごろSNSを見ていると、正論で相手を打ち負かすような投稿が多いと感じます。自分の正しさを証明できた達成感から気分は良いのかもしれませんが、相手の立場ではどうでしょうか?
先に紹介した昇進をめぐるやりとりや部署間の対立も、話し手からすると『事実を伝えているだけ』という意識かもしれません。しかし、事実や正論は言い方を誤ると否定的に働き、相手を追い詰めてしまいます。
『事実を伝えているだけ』『間違っているものは指摘していい』といった思考は、職場のエンゲージメントや関係づくりといった観点からは、ポジティブに作用しにくいと考えましょう」
「自分は正しい」という思い込みは捨てる
「ワシントン大学の名誉教授で心理学者のジョン・ゴットマン博士は、『大人の関係性における問題や課題の69%には、明確な答えは存在しない』という意味のことを述べています。数学のようなたったひとつの正解が存在しない限り、『自分は正しい』という思い込みはトラブルのもとです。
ここで参考になるのが、お笑いコンビのぺこぱさん。『どこ見て運転してんだよ!と言える時点で無事でよかった』など、相手を否定しないツッコミで人気を集めました。これを応用し、『お前の意見は間違っている! と思っている自分が間違っているかもしれない』と考えてみてはどうでしょう。自分を疑い、別の可能性を探してみることが大切です」
過剰な期待はしない
「相手に期待すること自体はポジティブなことですが、その期待が裏切られたとき、人は相手を否定しがちです。期待が大きいほど、荒っぽい言葉で責め立ててしまうかもしれません。
しかし、期待はこちらが勝手に抱いているもの。相手は相手なりに精一杯、頑張っているのです。まずはそのことに考えを巡らせ、感情的になる前にひと呼吸置くこと。そして、相手の仕事のやり方や課題に感じていることをヒアリングするなど、建設的なアプローチを心がけましょう」
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明日から実践できる「否定しない」言い回し
ここからは、先に挙げた3つの否定しないマインドを踏まえ、すぐに実践できる「否定しない」言い回しをご紹介します。
前置きをして相手に話を聞く準備をしてもらう
「どうしても事実や正論をしっかりと伝えなければならない場合は、本題を言う前に『少し厳しいことを言ってもいいかな?』などと予告するのもひとつの手です。これから何かしら厳しい発言が来るのだと相手に準備してもらうことで、単刀直入に話すよりも負担を軽減できるかもしれません」
語尾に「かもしれない」をつけてみる
「正しいと思っていることを伝える際にも言葉はきつくなりがちです。そんなときは、語尾に『かもしれない』をつけてみましょう。『調べたほうが早くない?』ではなく、『調べたほうが早いかもしれないよ』というように。こうすることで、断定的な物言いが和らぎます」
意見の違いを認めた上で話をする
「自分の考えや意見を伝えるときは、本題の前に『ほかの考え方もあると思うけど』『後で意見を聞きたいのだけど』などと前置きをつけ、あくまでひとつの意見なのだと伝えるのもおすすめです。正しさのぶつけ合いや意見の違いによる対立を防ぐことができます」
期待を伝えるときは具体的に
「過剰な期待は禁物ですが、とはいえ、部下や後輩にもう少し頑張ってほしいと伝えたい場面もありますよね。そんなときは、『今回はここまでできていたから、次はここを目指してみない?』など、具体的な目安を提示して伝えてみましょう。『○○さんならもうひと頑張りできると思うのだけど、どのくらいまでできそう?』などと、相手に目標を聞く言い方も良いと思います」
否定しない習慣が働きやすさにつながる
ここまで、否定しない話し方のコツをご紹介いただきました。実際のところ、会話から否定的な要素をなくしていくことで、どのような効果が得られるのでしょうか。林さんは、「心理的安全性」がポイントだと話します。
「心理的安全性とは、『チームにおいて、誰が何を言っても、どのような発言や指摘をしても、否定や拒絶をされたりする心配がない状態』のこと。否定的な言葉遣いをする相手には、『この話題はやめておこう』『早く話を切り上げよう』といった意識が働くため、会話は短くなりがちです。一方、相手が自分を否定しないことが分かっていれば、萎縮することなく、思ったことを安心して話せますよね。
ある企業でリーダーがメンバーと面談した際、『何が課題だと思う?』という質問には口を閉ざすか、教科書的な回答ばかりだったのに対し、『自社商品の中で何が一番好き?』という質問には、商品への愛を語る止めどない答えが返ってきたそうです。こうして会話量が増えれば、お互いの関係性が深まり、働きやすさにつながることはもちろん、新しいアイデアも生まれやすくなり、個人の能力も開花しやすいのではないでしょうか」
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まとめ
言葉遣いにはひとそれぞれクセがあります。人の話を遮って話してしまう人、「それ間違っているよ」とすぐに言ってしまう人……。
まずは、オンラインミーティングを録画するなどして、自分の話し方のクセを客観的にチェックしてみるのもおすすめです。今回ご紹介した内容を参考に、意図せず否定と取られる話し方をしていないか、自分の言葉遣いに意識を向けてみてはいかがでしょうか。
話を聞いた人:林健太郎さん
1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、2010年にプロコーチとして独立。これまで大手企業などで延べ2万人以上のリーダーにリーダーシップを指導。国際コーチング連盟日本支部の創設者であり、『コーチング忍者の2分コーチング入門講座』など、斬新な切り口でコーチングを啓発中。著書に『否定しない習慣』(フォレスト出版)、『できる上司は会話が9割』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(三笠書房)など。オンラインサロン「否定しない会話の学校<<ミラネタ>>」を主宰。
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