「私の天職は何?」20代に贈る、キャリアの悩みとの向き合い方

「仕事はしているけど、自分の天職かと聞かれるとわからない。自分の天職とはなんだろう……」そんなキャリアに対する悩みを、20代のビジネスパーソンの多くが抱えています。そうした悩みと、どのように向き合っていけば良いでしょうか。

「私の天職は何?」20代に贈る、キャリアの悩みとの向き合い方

「仕事はしているけど、自分の天職かと聞かれるとわからない。自分の天職とはなんだろう……」そんなキャリアに対する悩みを、20代のビジネスパーソンの多くが抱えています。そうした悩みと、どのように向き合っていけば良いでしょうか。

今回キャリアコンパスでは、20代のキャリアと関わってきた専門家の座談会を開催しました。お招きしたのは、NHKで『人生デザインU-29』という番組を制作しているディレクターの漆山真生さんと谷かなこさん。そして、迎えたのがDODAキャリアコンサルタントである大浦征也さん。3人に20代が抱えるキャリアの悩みの実態や、長いキャリアのなかにおける20代の働き方の位置づけ。そして20代のうちにどのようなことをすればいいのか、お話を伺いました。

【参加者プロフィール】


漆山 真生さん(写真右): NHK制作局ディレクター/1978年生まれ/2001年NHK入局。『週刊こどもニュース』や『パフォー!』といった番組の制作を経て、現在は青少年・教育番組部にて『人生デザイン U-29』などの番組のプロデュースを担当している。

谷 かなこさん(写真左): NHK制作局ディレクター/1984年生まれ/2007年NHK入局。『青春リアル』や『週刊ニュース深読み』といった番組の制作を経て、現在は青少年・教育番組部にて『人生デザイン U-29』などの番組の制作を担当している。

大浦 征也さん(写真中央):DODAキャリアコンサルタント/1979年生まれ/2002年 株式会社インテリジェンスに入社し、DODAの前身である転職支援サービス時代から一貫して転職希望者のキャリア相談や転職サポートをしてきた。これまでに関わった転職希望者は10,000人を超える。現在はDODAキャリアコンサルタントの総責任者を務める。

生き方・働き方をデザインできる時代になった


―『人生デザインU-29』は、“自らの人生をデザインしようと奮闘中の29歳以下代表”を毎回取り上げ、その働く姿や悩みを描いていますね。この番組はどのような背景から生まれたのでしょうか?

漆山さん:働き方にしろ、生き方にしろ、「色々あっていいじゃないか」ということを伝えたいと考えていました。

以前は正社員で企業に入り、たいていの人は1つの企業で定年まで働いていました。そのため、「会社選択=ライフデザイン」みたいなところがすごく大きかったと思います。しかし、そうした働き方をめぐる状況が変化し、今は職業選択やライフデザインの選択肢が多様化していると思います。さらに、職業自体を自分で創り出す時代にもなってきていると思うんです。

そのなかで、「どういう仕事をどういう場所でするか」と「自分の生き方、暮らし方」がどんどん切り離せないものになってきているように感じます。そんな多様化する時代のなかで「こんな生き方がある」ということを提示したいという思いから番組を制作しています。

20代は「何を仕事にしていいのかわからない」と悩んでいる


―なるほど。いま漆山さんがおっしゃった「自分で人生やキャリアをデザインできる」というような話は、すごく自由で、20代にとってポジティブなことであるように思えます。しかし一方で、番組を作るなかで、20代が抱える悩みを感じることはありますか?

谷さん:たしかに、以前は「ひとまず大企業に入る」というような、キャリアの正解があったと思います。しかしリーマンショックがあり、大企業が傾いてくなかで、大企業にいるからといって安心ではなくなりました。その頃から、企業を飛び出して活躍するなど、もっと多様な生き方や働き方をする人が増えてきているように感じます。

でも『U-29』で取材させていただく人や起業する人は、たしかに枠にはまらない生き方や働き方をしていますが、必ずしも今の20代全般にあてはまるかはわかりません。たとえば2014年12月1日に放送した「仕事探しスペシャル」のときに、100人くらいの20代に話を聞いたところ、「何をしていいかわからない」「働き方を迷っている」という声がたくさんありました。選択肢が増えたからこそ、正解がなくなって、迷っている方も増えているように思いますね。

飾らない言葉で、入社してすぐの頃の率直な思いや自身のキャリアに対してのこれまで抱えていた悩みを語ってくれたNHK制作局ディレクター 谷 かなこさん

20代はキャリアの探索期でいい


―「何をしていいかわからない」のような悩みを持った人は、『U-29』でオンエアした方のなかにもいましたか?

漆山さん:というか、私もそうでしたけどね(笑)

全員:(笑)

漆山さん:「この仕事が自分の天職だ」なんて、なかなか思えないですよね。

大浦さん:そうですね。キャリアコンサルタントの立場から言わせてもらえば、20代はキャリアの探索期でいいのではないかと思っています。つまり「やりたいことがわからない」という悩みを持つのはとても健全な状態だと思いますね。

むしろ20代で「この会社で一生働く」と思っている人が多いとすると、ちょっと心配だなと感じます。20代のうちは、10年かけて、“東西南北”どちらに進むかぐらいの方向を、模索していく時期と捉えるのがいいと思います。

コンサルタントとしての経験から、今の20代のキャリアの選び方の傾向を語DODAキャリアコンサルタント 大浦 征也

目の前の仕事に一生懸命取り組むことが“探索”になる


―いまおっしゃったように、20代がキャリアの探索期だとすると、今の仕事の他にやりたい仕事が見つかれば、転職してどんどんチャレンジすべきということですか?

大浦さん:その質問に答える前に関連するお話をしてもいいでしょうか? キャリア構築の考え方として「金脈理論」というものがあります。金脈を掘り当てようとしたときに、色々なところをちょっとずつ浅く掘るだけでは、金脈は見つからない。深く掘らないと、金脈には当たらないということです。ただ、一度金脈に当たると、それを辿りながら埋蔵されていた金をドンドンと掘り当てられるという話です。

つまり仕事でも、その仕事を浅くしか掘り下げないで転々と仕事を変えてしまうと、自分に合った仕事にたどりつくのは難しいと言えますね。たまたま浅く掘って金脈に当たることもなくはないのですが。

漆山さん:大浦さんの話にもあった通り、自分が何をやったらいいのかという問いへの答えは、目の前の仕事に全力でぶつかってみない限りわからない。だからとりあえず今の仕事に、迷っているのであれば、一生懸命取り組むことだと思うんですよね。

―なるほど。とはいえ、「どうしても今の仕事は嫌だ」という場合もありますよね。そうしたときも、やはり金脈を掘り当てるまで続けたほうがいいのでしょうか。

大浦さん:金脈理論のようなことはありますが、どうしても今の仕事が好きになれず、毎日が苦痛で……というのだったら、そこに執着する必要はないと思います。つまり「一個の仕事を探求すべき」という側面がある一方で、今の会社の将来性や待遇、仕事内容や役割、働く仲間との人間関係などで、1つも良いと思える側面が見当たらないのであれば、その企業に執着しないで、仕事を変えることを考えたほうがいいかもしれませんね。

「天職はない」はいい割り切り


漆山さん:でも、なかには若くして自分のやりたい仕事を見つける人もいるわけです。やはりそういう人を見ると、やりたい仕事を見つけていない人は焦ってしまうのかなと思いますね。そういうときにも焦らないで、「自分の目指すキャリアはそうそう見つからない」と思ったほうがいいのではないでしょうか。

―なるほど。極端な話「天職なんてないんだ」と最初から割り切ってしまってもいいと。

大浦さん:いいと思いますね。付き合っている恋人が世界で一番自分に合っているのかを考えるのと同じくらい、天職を探すのって難しいわけですよ。

つまり世界には70億人を超える人がいるわけで、「今の恋人が世界で一番自分に合っているのかどうか」を考える生活に、なんの意味があるのか。そんなことを考えているんだったら、自分の恋人と幸せになる方法を考えているほうが、ずっと現実的ですよね。仕事についても同じことが言えるのではないかと思います。

仕事選びの軸にはWill・Can・Mustがある


―たしかに、「天職」というと他のどれよりも自分に合っている仕事とイメージがありますが、そうした仕事を探すのは簡単ではありませんね。それでは自分が可能な範囲のなかで、自分に合った仕事を選ぶというときに、何を基準にして仕事を選んでいけば良いのでしょうか?

大浦さん:よく人材業界で、仕事探しの軸を「Will(意志)型」でするのか、「Can(能力)型」でするのか「Must(義務)型」でするのか、という話があります。「やりたい仕事をする」というのはWillの話。でも、Canの軸で仕事を見つけていく、つまり「そんなにやりたい訳ではないけど得意だ」とか「好きではないけどこの仕事が一番稼げる」といった探し方も当然あります。

なので、自分で「Will・Can・Must」のどれを軸に仕事を選ぶのか、20代のうちに整理できるといいですね。できればMust「やらなければならない」という軸だけで選ぶのはオススメできませんが。

―なるほど。たとえば『U-29』に出た方で言うと、Will・Can・Mustはバラバラですか?

漆山さん:基本的にはWill型が多いのですが、Can型とMust型もいなくはないですね。

たとえば2015年1月26日の放送で、熊本県・天草の航空会社で地上職をやっている方を取り上げたのですが、彼はCan型だと思います。彼はもともと天草を出て警察官になるのが夢だったんです。しかし試験を何度か受けたのですが、なぜか採用されなくて、失意のうちに帰って、偶然、お母さんが見つけた求人広告をきっかけに今の会社に入ったんです。

熊本・天草の航空会社で地上職として働く金子 悠樹さん(24)

私たちは今の彼をみると、天職なのじゃないかというくらい、イキイキと働いているし、お客様への接し方も丁寧なんです。警察官としての就職に失敗したときには、やはりどうしても「自分が必要とされる場所はあるんだろうか」と思ってしまったと思うんですよ。でも彼はたまたま入った職場に女性が多く、「力仕事おねがい」とか、「パソコンの操作がわからない」とか、そういう小さいところから頼りにされるようになったんだそうです。

そういう小さい「やりがい」や、「誰かに頼られている感覚」が、積み重ねられてきた結果、今の彼がある、という印象を受けました。やはり最初から望んでいる仕事じゃなくても、輝ける場所はあるんだな、と見ていて感じましたね。

「天職は何か」より、目の前の仕事に真剣に向き合ってキャリアを切り開いていったNHK制作局ディレクター 漆山さん

偶然の積み重ねがキャリアをつくる


―なるほど。今のお話を聞いていて、「キャリアを自分でデザインすることが大切」といっても、自分の頭のなかで考えているだけではだめなのかもしれないと思いました。

大浦さん:そうですね。他人の意見に耳を傾けてみたり、偶然の出会いに身を委ねてみるという経験を積み重ねることも、キャリアをデザインするときに、大事です。天草の航空会社の彼がそうであったように、自分の力がどういうふうに発揮できるのかは、自分だけで答えを出すのはすごく難しいんです。

たとえば自分の希望通りの部署に配属されたときと、行きたくなかった部署に配属されたとき、どちらのほうが成長できたか、あるいはやりがいを持てたかを鑑みたときに、実は大差がなかったり、逆に後者のケースのほうが活躍できた、ということはよくあるわけです。

そういった意味でいうと、自分の価値観だけでなく、「あなた向いているね」と言われたのがきっかけでやってみた仕事がまさに自分に合った仕事だった、ということは往々にしてあると思います。

キャリアデザインの前に、人生デザインを


―逆に言えば、明確に10年後や20年後のキャリアプランを決めてしまうことにはリスクもあると。

大浦さん:はい。2011年8月にデューク大学教授であるキャシー・デビッドソンさんがニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで語った予測によると、2011年にアメリカの小学校に入学した児童の65%は、大学を卒業するときに2011年には存在しない職業に就職をするそうです。つまり未来は予測できないのです。今10年後20年後のキャリアプランを描いても 、絶対そういうふうにならないですよ。

そう考えると、自分の将来について考える方法は、明確なキャリアプランから逆算して、今自分が何をすべきかを考えるということ方法だけではなく、2年3年とか、今予測できる範囲のなかで、計画を立てるというやり方もあっていいのではないかと思います。

―今お聞きしたのは、キャリアをデザインする際の目安となる時間軸の話でした。一方で空間軸の話をすると、今20代でUターンIターンをする人が増えていますね。

漆山さん:『U-29』だと、広島の限界集落でカフェをひらいて、田舎と都会を結びつけるというような活動をしている方がいました。

中国山地の限界集落に移住し、カフェを経営する佐藤 亮太さん(29)


人生デザインを考えたときに、仕事が最優先である必要はないと私は考えていて。そのカフェオーナーのように、「この場所に住みたい」というのが一番の動機で、「じゃあこの場所でできる仕事って何かな」というふうに仕事を探すということもあると思います。

―それこそ人生デザインですよね。

漆山さん:そうですね。今の20代は、「キャリアを高めなくてはいけない」「スキルを身につけなくてはいけない」そしてさっきの「Will・Can・Must」でいうと「Will型でないといけない」という考えを持っている人が多いように思います。でも、そうじゃなくてもいいんだよというのは言いたいですね。

仕事と自分との距離は自由だと知ることが、キャリアデザインの第一歩
大浦さん:私も同じ意見です。今は仕事との距離感をうまくとりながら、キャリアプランやスキルアップといった枠組みにはまらずにいる人は、すごく多くなっているとは思っています。キャリアデザインの第一歩は、「仕事と自分との距離感は自由でいい」と知ることなので、良い傾向だと思います。

―なるほど。キャリアデザインのために20代のうちにしておいたほうがいいことを挙げるとすると、1つは今おっしゃったように、その人自身が仕事に対してやりがいを求めるのか、それともあくまでも生活費を稼ぐためでいいのかといった、「自分のなかでの仕事の位置づけ」を理解することなのでしょうか?

大浦さん:はい。仕事と自分との距離感を自分のなかで正直に整理してみることは、20代でやっておいたほうがいいでしょうね。

それとともに、もし「仕事を頑張っていきたい」と思ったときに、自分に合う仕事の探し方や捉え方がWill型ばかりになっていると、なかなか出会えない。なので、Can型やMust型とかいった捉え方でもいいということを、仕事と自分の距離感の次には理解したほうがいいと思います。

自身が20代だった頃の率直な思いや今の20代の世代感を共有しあい、話が弾んだ

迷っているなら、目の前の仕事を全力でやってみる


―谷さんは、20代のうちにしておくべきことについてどのように思いますか?

谷さん:私も教えてほしいです(笑)。でも、目の前の仕事をいかに真剣にやるかが大切ですよね。

漆山さん: 迷っているんだったら、とにかく目の前の与えられた仕事を一生懸命やってみることが大事だと思います。やはり与えられた仕事すら満足にできない人に、大きい仕事を任せようとは上司も思わないので。

もちろん理想を描くのは大事です。かといって、大きい夢が描けない、自分なりの何かが見つけられないことに不安を感じる必要は、20代のうちはないと思いますね。だから、目の前の仕事を頑張ってください。私も頑張ります(笑)

―自分のやりたい仕事であったり、生き方を探すときに、海外に旅をしたり、新しい仕事を始めるという選択もあります。しかし意外と目の前にある仕事に一生懸命取り組むことが、人生デザインにつながるのだということが今日のお話からわかりました。

いかがでしたでしょうか?

大浦さんが冒頭で話していたように、20代はキャリアの探索期であるからこそ、思い詰めたり、悩んでしまうことも、成長過程の1つと言えそうです。仕事に一生懸命取り組むなかで失敗したり挫折する経験も、きっと将来の糧になるもの。「金脈」を掘り当てられるように、まずは目の前のことに懸命に取り組んでみることから実践していきたいですね。

※この記事は2015/03/03にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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