自ら進んで「ブラック企業に入りたい」という人はいません。「就職・転職するならホワイト企業に」と考えている人は多いでしょう。
しかし、「面接では『弊社は人を大切にしています』と言っていたのに、入社してみたらまったく違ったということは珍しくありません」と、人を幸せにする経営を行う企業を紹介した著作『日本でいちばん大切にしたい会社』で知られる坂本光司さんは話します。そこで今回は、坂本さんに本当のホワイト企業の見分け方について聞きました。
ホワイト企業は、社員が幸せな会社
ホワイト企業、ブラック企業といいますが、その基本的な定義について坂本さんは次のように話します。
「働くことで幸せになれているか。これがその会社がホワイトなのか、ブラックなのかを分けます」
しかし、そうは言っても社員一人一人に、幸せかどうかを聞き出すというわけにはいきません。そこで坂本さんは、その会社が良い会社(ホワイト企業)か悪い会社(ブラック企業)かを測るため、100以上の指標をつくったそうです。
「社長や人事課長は『うちはホワイト企業だ』といくらでも言いますよ。でも、それはみんな言っていることですので、うのみにしてはいけません。
大切なのは、“人を大切にするには、どういうことをしていないといけないか”や“本当に人を大切にしているんだったら、どういう現象が発生していないとおかしいか”というところを見れば、その会社が本当にホワイト企業なのかを知ることができます。この2つを測るために、私は100の指標をつくりました」
本来ならば100の指標をすべて紹介したいところですが、それではあまりにも長くなってしまうので、ここでは主な5つのものに絞って説明してもらいました。体の良い言葉に惑わされないためにも、坂本さんが示す具体的な指標で会社を見極めていきましょう。
※100の指標が気になる方は坂本さんの著書『「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標』(朝日新書)をご覧ください。
ホワイト企業の見極め方(1)「過去にリストラをしていないか」
最初に見るべきは、過去にリストラをしたことがあるかどうかだと、坂本さんは言います。
「例えば30年間続いている会社であれば、その間に2、3回は大きな不況や円高・円安を経験しているでしょう。そんなときこそ、会社がどんな行動を起こしたかは重要です。
良い会社は、どんなことがあっても、社員とその家族の生活や命を守るということを王道にしているから、社長が自分の給料をゼロにしたって社員を守ります。
そういう企業がまさにホワイト企業であるため、まずはリストラをやったかやっていないかを見るべきだと思います。ただし、今とはまったく状況が異なる40?50年前の話を持ち出すことは、企業にとって酷だといえますが」(坂本さん:以下同じ)
とはいえ、人員削減をしたことがあるかは、簡単には分かり得ません。面接で、「わが社はリストラをしたことがあります」とは言わないからです。そこで必要なのが、企業を探す側の努力だと坂本さんは話します。
「人員削減をしたことがあるかを知るには、企業を探す側がアンテナを高く張って、自分で調べないといけません。直接その会社に聞くのもよし、その会社と取引のある会社に聞くのもよいですが、直接聞いても、本当のことはなかなか言わないでしょう。
今はインターネットや新聞、雑誌、風評などのさまざまな情報が流れています。良い企業に就職・転職をしたいというのならば、自分で情報を集める努力をしなければなりません」
ホワイト企業の見極め方(2)「過去5年間の正社員の転職的離職率が3%以下」
たとえリストラをしていなくても、辞めていく人が多い会社は良い会社とはいえないと坂本さんは言います。
「会社を辞めていく人が多いというのは、人を大切にしていないことの証拠。社員が辞める最大の理由は『この会社にいても幸せになれない』と感じたからでしょう。給料の高い低いや出世の可否などは関係ありません。人間は幸せになりたいから一生懸命働いているわけなので、幸せになれないと思ったら、その会社を辞めるのだと思います。
そういうことを考えると、離職率というのは、その企業で働くと幸せになれるホワイト企業であるかどうかの、大切な指標ではないでしょうか。ただし、離職理由には出産や介護などのやむを得ない場合もあることも頭に入れておきましょう」
1月1日にいた社員が、その年の12月31日までに何人辞めたかというのが離職率で、全国平均はおよそ12?13%。それに対して、良い会社というのは極端に離職率が低いのだと言います。
「良い会社ではほとんど社員が辞めません。なぜかというと、仕事は厳しいかもしれませんが、幸せだからです。会社にぬくもりがあるからです。
一つ目のリストラは面接で聞きづらいかもしれませんが、過去5年間の正社員の離職率は比較的聞きやすいことだと思います。ぜひ『貴社における離職率はどれくらいですか』と直接聞いてみてください。それが3%以下であったら、ホワイト企業だといえます」
ホワイト企業の見極め方(3)「サービス残業は一切していない。残業時間も月に10時間以下」
労働時間に直接つながる残業時間、それもサービス残業があるかないかはホワイト企業かどうかを見分けるのにとても有効的だと坂本さんは言います。
「サービス残業をさせている企業は、その時点でホワイト企業ではありません。残業時間自体も長ければ、社員を大切にしていないといえます。社員の健康や家族との語らいの時間を奪っている会社だからです。サービス残業はゼロ、それから残業時間は限りなく少ないのがホワイト企業です」
しかし、サービス残業をしていますかと聞いても、本当のことを答えてくれる会社などないでしょう。サービス残業自体、法律違反だからです。そこで坂本さんによれば、うまく聞き出す方法があるのだとか。
「まず『貴社は朝礼をやっていますか。何時からですか?』と聞く。『弊社は7時45分から8時までやっている』と答えたとします。つぎに『始業時間は何時からですか?』と聞きます。相手は『8時だ』と答えます。そこで『朝礼は強制ですか』と尋ねる。『もちろんです。一日の計は朝にありですから』と相手側。『じゃあその15分間は残業ということになりますか』と聞いていくのです。
そこでサービス残業が判明すれば、平気で社員にサービス残業を課している会社だといえます。そんなふうにして、サービス残業の有無を聞き出すことができます」
ホワイト企業の見極め方(4)「社員に対して経理や財務を公開しているか」
ホワイト企業には、基本的な考えに「社員は家族と同様」というものがなければならないとする坂本さん。したがって、経理や財務は、社員に対して公開されるべきなのだと言います。
「上場会社は別ですが、社員に対して経理や財務の公開をしているかどうかも大切です。公開したくないという会社は、何かしら裏がある可能性も否定できません。
経理を公開したら社員から『ボーナスよこせ』と言われてしまうから、見せたくないという心理もあるのかもしれません」
管理職だけ見ることができるというのではなく、社員がだれでも見られる。それも年に一回ではなくて、月に一回とかが望ましいのだとか。
「この前私が訪問した会社は、財務の公開だけではなく、利益の50%を社員に還元すると言っていました。そこの社員は『このままでいくと今年の冬のボーナスは5カ月分だ』という話をしているそうです。自分でボーナスの額を計算できるんですね。そんな会社ですから、社員のモチベーションは高く、景気の状況に左右されず業績が良いホワイト企業だといえます」
ホワイト企業の見極め方(5)「ハートフルな福利厚生があるか」
法定福利は当たり前ですが、法定外の部分で福利厚生が散りばめられているかも重要なポイントだと坂本さんは話します。
「ハワイやグアムに別荘や保養地があるかどうかとか、そういう意味ではありません。もっと“ハートフルな部分”で、福利厚生が充実している会社はたくさんあります。
たとえばある中小企業は、社員の子どもが大学に入学するときに10万円を渡しています。また、社員が誕生日には花束を渡す会社もあります。奥さんの誕生日は会社に出てきてはダメだという会社もあります」
ハートフルという意味では、定年後の社員に対して、雇用のチャンスがあるかどうかも重要だと話します。
「定年になったらサヨウナラでは、都合のよいときだけ雇って、体力が落ちたらもう使わないということ。身を粉にして働いてきた社員に対して、そんな仕打ちはできないのが良い企業だといえます」
まとめ
最後に、これから転職したい人たちに向けてのメッセージをもらいました。
「転職者は、選ばれる立場でありながら、選ぶ立場にもあるわけですから、遠慮することなくいろいろ聞いていいのです。聞かずに入社してしまうから、失敗するのです。
たとえ、先に書いたような質問をしたことで落とされたっていいんです。そんな企業に勤めたって、また転職をするはめになりますからね」
いかがでしたでしょうか。ここまでホワイト企業を見極める方法として、「リストラ」「離職率」「残業時間」「経理の公開」「福利厚生」の5つのキーワードで説明しました。
当たり前のことだという方もいるかもしれません。でも当たり前だからこそ大切なこともあるのではないでしょうか。ぜひ皆さんも、ここで紹介した5つを参考にして、ホワイト企業との出合いを模索してみてください。
識者プロフィール
坂本光司(さかもと・こうじ)
1947年、静岡県生まれ。静岡文化芸術大学教授等を経て、法政大学大学院政策創造研究科教授。専門は中小企業経営論、地域経済論、福祉産業論。同大学院中小企業研究所所長ならびに静岡サテライトキャンパス長を兼務。7,000社以上の企業調査をもとに執筆した『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)は、累計65万部を超えている。近著に、『「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標』(朝日新書)がある。
※この記事は2015/08/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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