新卒として入社後、数々のプロジェクトを任され、20代でDeNAの執行役員に就任した赤川隼一氏。
執行役員という「肩書き」を持つ氏は、その傍ら「肩書きや権威そのものは無意味。実力主義であるべきだ」と言います。私たちビジネスパーソンは何のために働くべきなのか、赤川氏にお話を伺いました。
「やりたいこと」が明確ではなかったから「一番伸びそうだと思う場所にアサインしてください」と人事に伝えた
-赤川さんは新卒入社し、20代で執行役員に就任されています。これまでの過程と執行役員になったきっかけを教えてください。
「きっかけというのは特になくて、正直なところ、局面局面でやれることをやりきってきた結果でしかないんです。入社時は『やりたいこと』が明確ではなかったので、『自分が一番伸びそうだと思う場所にアサインしてください』と当時の人事と話をして、営業職となりました。
その後も与えられた環境で成果を出すことにこだわって目の前の仕事に没頭してきました。成果が出始めると、やったことのない新たなチャレンジが次々と与えられて。DeNA自体が『できるかできないかギリギリの仕事を任せる無茶振り』が大好きで、今も昔もそんな社風なんです」(赤川氏 以下同)
-長期的な展望ありきというよりも、設定された課題をただただ全力でクリアしていったと。
「そうですね。結果として、1年目にマネージャーを経験したことで『組織で成果を出す』ことの重要性を知り、4年目にYahoo! Mobageを立ち上げたときに「ゼロから新規事業をつくる」面白さを覚えました。自分が考えて引っ張ってきたサービスがYahoo!のTOPに出た瞬間のカタルシスがとにかく強烈で、普通の仕事だと満足できない体になってしまった感覚がありました。その後韓国オフィスの立ち上げ以降は、グローバルで日本発の会社が勝つ意義を強く感じることができました。課題や環境によって、目線が自然とどんどん引き上げられたんですね。そんな中で、ネクストステップとして会社と話し合ってやることにしたのが執行役員としてのDeNAの海外事業の管轄・横断的な推進でした。今は『DeNAを日本発・世界一のモバイルインターネットカンパニーにする』というところにコミットして楽しく仕事をしています」
幕末の志士が黒船を見てしまったような感覚があった。見てしまった人間には動く責任があるだろうと
-赤川さんのような方は、起業したり、フリーランスでも楽しんで仕事をされそうですが、企業に属する理由はありますか。
「個人に本当の意味での職業選択の自由が与えられている時代だと思います。起業をするもよし、プライベートの時間をとことん優先するもよし、フリーランスもよし、会社に所属する以外のライフスタイルも含め、個人の手に委ねられていると感じます。その中で私がDeNAに所属し続けている理由は2つです。
1つは、『よりインパクトの大きな事業をつくる』ことに集中するなら、他の選択肢よりも優秀な人材や社会からの認知をフルに生かせるDeNAの環境がベストだからです。例えば『マンガボックス』のような事業は、出版社の皆さんを含む多くのステークホルダーの方々に信頼をいただいて初めて成立するものですし、いきなりグローバルを見据えた多国語展開ができるのも今までDeNAが積み重ねてきた事業の歴史があるからこそです。
資金調達でも社内政治でもなく、最高の仲間と一緒に事業を大きくすることにとことん集中できる環境は自分にとって代え難い魅力があります。
もう1つは、日本発のグローバルインターネット企業の必要を強く感じて、DeNAを自分の手でそこに持っていきたいという個人の意志です。グローバルで仕事をしていく中で、GoogleやSamsungといった企業の強さ・すさまじさをまざまざと感じさせられました。幕末の志士が黒船を見てしまったような感覚がありました。黒船見たら、いてもたってもいられなくて動くだろうと。見てしまった人間には動く責任があるだろうと。それ以来、日本発のグローバル企業の代表として、DeNAをGoogleに比肩するステージまで押し上げたい、そんな自分自身の思いにコミットしてDeNAの中で旗を振ってます」
本当に良いものをつくれば、それが17歳だろうと上場企業の役員だろうと評価される時代
-執行役員という肩書きを持つ赤川さんは、肩書きを「無意味」と切り捨てています。実力主義を貫くのはなぜですか。
「ソフトバンクの孫さんが尊敬されているのって会長の肩書きや資産のためではなくて、実力があるからですよね。DeNAでも、社長の守安が一番優秀なので守安が社長をやっています。インターネット以降の時代で勝負するためには、変化が大前提。以前とは比べ物にならないスピードで、現状に疑問を抱いて変革を促し続けることが勝つための必須条件です。肩書きやポジション、既得権益にとらわれて変化が起こせないような会社は即駆逐される、そんな時代だと思っています。
また、グローバルレベルで見ると、世の中にインパクトを与えている起業家の年齢はどんどん下がっています。世代ごとの感性で新しい付加価値を提供しているからだと思います。今は本当に良いものをつくればつくった人が17歳だろうと上場企業の役員だろうと関係なく評価される時代。23時の*テレホタイムを待って、チャットに一喜一憂していた私の世代と、物心ついたときからYouTubeやSNSがあった世代は、ものごとの捉え方が当然異なりますよね。どちらが正しいということもないですが、新しいイノベーションを起こすために必要なものなら、古い新しいに関わりなくどんどん取り入れるべきでしょう。
DeNAには『誰が言ったかではなく何を言ったか』という考え方があります。どっちが上か下かというくだらない議論をやめて、どっちの方が良い製品・サービスなのか、そのことにフォーカスできる組織だけが生き残れるし、新しい付加価値を世の中に提供し続けられると信じています」
*テレホタイム … 23時~8時の時間に限り、NTTの指定回線が定額料金になるサービス。テレホーダイ。電話回線・ISDN回線でインターネットに接続していた時代、その時間になるとアクセスが集中した
競争のない組織は腐るので、メンバーからの突き上げにはいつもわくわくしている
-では赤川氏にとって、そもそも“執行役員”という肩書きは一体なんでしょうか。
「経営メンバーの一員だと内外に公表されている、一種のバッジみたいなものかなと。繰り返しですが、フォーカスすべきはプロダクトそのものやビジネスの成果だと考えています。一方で、肩書きがついていることで周囲からアウトプットへの期待値が当然上がるので自分にプレッシャーがかかる点は、燃えるというか、ポジティブに捉えています。なので、健全な実力主義を自分自身に課す良いきっかけにはなってますね。競争のない組織は腐るので、メンバーからの突き上げにはいつもわくわくしています。その中で、『すげえなと言わせてやろう』『周囲をあっと驚かせてやろう』って、卑近ですけどものすごくシンプルで人間っぽいモチベーションだし、今後も大事にしていきたいです。
あとは、外部の方とお会いしたときに、話を聞いてもらいやすい、というのはありますね。ただ、それもあくまで入り口のみであって、その後に人間的に信頼してもらえないといくら肩書きがあっても無意味だとは思っています。
いずれにせよ、立場や環境が人をつくることもあって、自分自身は今の立場になることでさらに視野が広がって成長することができました。自分たちの行動で2,000人の社員の人生やその先のお客さんの生活に影響が出るので、その責任にはちゃんと向き合っていこうと常々思っています」
その姿勢の連続が、イノベーションを誘発して人類を前に進めていくと信じている
-最後にお聞きします。「肩書き」「ポジション」「年収」といったように、会社の中には目標になりうるものがたくさんありますが、働く若者は何に向かうべきでしょうか。
「成果・目標などの“コト”に向かうべき!ですね。社長になりたいだけなら今の世の中登記すればすぐなれるので、肩書きそのものには本質的には意味はないとやっぱり思っています。
ただ、やるからには何かの分野において世界一を目指す、デカい影響をつくりにいく、という思想を持っている人は好きですし、そういう人と一緒に仕事はしたいです。グローバルに競争環境が開かれているので、真に良いものでないと追い抜かれるし、中途半端なものでは何事も勝てない、という環境もあります。少しでも関わっているものを最高の成果にするために、“コト”に向かっていってほしいなと思いますし、その姿勢の連続がイノベーションを誘発して人類を前に進めていくと信じてます」
識者プロフィール
赤川 隼一(あかがわ・じゅんいち)
1983年生まれ、広島県出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、2006年DeNAに新卒入社。広告営業部署にてアフィリエイト営業&マネージャー職、マーケティングコミュニケーション室にて広告出稿/PR業務経験を経て、2009年よりMobageコンテンツ開発グループリーダー職。同職中、ヤフー株式会社との提携を成立させ新サービスYahoo! Mobage立ち上げ、2011年6月まで同事業責任者。2011年5月、DeNAの韓国支社であるDeNA Seoul立ち上げ。同7月より社長室、2012年1月より同室長。2012年4月より執行役員として海外事業、プラットフォーム戦略を管轄後、現在はゲーム開発一部を管轄。
※この記事は2014/06/30にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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