嫌だ嫌だ、と思いながら仕事をするのはつらいものです。でも、もしも好きなゲームや漫画に没頭しているときのように仕事に取り組めたら、きっと最高の成果を上げられるはず!
そんな好きなことに没頭する状態を、仕事やスポーツに取り入れるための「フロー理論」という考え方があります。
今回は、さまざまな企業やアスリートへのメンタルトレーニングやセミナー、講演活動を行うなど、フロー理論に詳しいスポーツドクターの辻秀一さんに、私たちビジネスパーソンが仕事へのやる気を最大限に高め、最高のパフォーマンスを引き出すフロー理論についてお話を聞きました!
「フロー」ってなに?
フローとは、心理学者チクセントミハイ博士が提唱した、ひとつのことに没頭して他の何も気にならなくなる精神状態のこと。皆さんも、憂鬱な仕事では時間がちっとも進まないのに、ゲームをしているときや漫画を読んでいるときはあっという間に時間が過ぎてしまう、といった経験があるはず。ゲームや漫画は、その経験自体が楽しいので、取り組んでいることに多くの時間や労力を費やしても苦にならず、自らの能力を最大限に発揮することができます。スポーツの分野でよく耳にする「ゾーン」と似た概念ですね。
辻さんはもっと簡単に、「機嫌がよく、集中とリラックスが共存しているような心の状態」、言い換えれば“ごきげんな心の状態”のことを指してフローと言っているそうです。
そしてこのフローの状態になることこそが、仕事で最高の成果を上げるために必須なのだとか。それでは、フローになるためにはどのような条件があるのでしょうか?
フローになるための3つの条件
(1)自分の価値基準を持つ
たとえば「常に生き生きしていたい」「自由でいたい」「いつでも一生懸命に取り組む」「誰にでも親切にする」といった価値基準を持っていることが必要だと辻さんは言います。
「なぜ価値基準がないと仕事がうまくいかないのか。なぜなら、価値基準を見失っていると地に足が着かず、“幸せとは何か”という人生で最重要な問いへの答えすら見いだせなくなるからです」
つまり、自分の価値基準を自覚し、それに沿って仕事をするとき、人は最高のパフォーマンスを発揮できるというわけです。では、価値基準を持つためにはどうしたらいいのでしょうか?
「価値基準は自分の外側にはありません。この価値基準を常に持つためには、自分の内側を見つめる習慣を身に付けるべきです。価値基準と知識は違います。どれだけ知識を外からインプットしても、それを自分の中で“価値化”していなければ意味がありません」
つまり、「なぜいま私はワクワクしているんだろう」「なぜこの仕事にはやる気が起きないのだろう」と、常に自分の価値基準を見つめることが大切なのだそうです。
(2)「ライフスキル脳」を使いこなす
辻さんは脳の機能を、環境や他人、過去の経験といった外部要因に対して意味付けをする「認知脳」と、自分で自分の心の状態をフローにする「ライフスキル脳」に分けています。
「認知脳とは、たとえば“雨が降っているという外部要因に対して、だから傘を差そう”と意味付けるものです。それに対して、ライフスキル脳は、『不安だ』『楽しい』など、今の自分にどのような感情が存在しているのかに気づき、それをマネジメントするものです」
人は自分一人で生きているわけではなく、外界と関わって生きているので、認知脳は必要です。しかし、それだけではフローな状態になることはできないと辻さんは言います。
「認知脳とライフスキル脳はバランスよく使わなければいけません。なぜなら認知脳はしばしば暴走するからです。過度なストレスがかかる現代社会では、認知脳が過度に反応し、うつ病や自殺などにつながってしまいます。そこでライフスキル脳で自分の感情に気付くことが必要になります。そうすることで心を整えることができ、ゆくゆくはフローという状態になれるのです」
たとえば上司に理不尽な理由で怒られたとき、不機嫌になってしまうのは当然のこと。しかしそのときに、「自分はいま不機嫌だ」という心の状態に気付くだけで認知の脳の暴走を抑えられます。その時々でライフスキルを働かせて自分の内面に意識を向けることで、フローな状態へ近づくことができるのです。
(3)正解はないことを知る
誰でもフローになれる方法はないのだと辻さんは言います。
「『フローな状態になるための方法を教えて下さい』とよく聞かれます。実はその答えに明確なものはありません。もちろん訓練によってフローな状態になりやすくすることは可能です。でも、人間というのは“これをすれば絶対にフローになる”という方程式は成り立ちません」
答えを自分の外に求めてしまう考え方こそ、私たちをフローから遠ざけてしまうもののようです。大切なことは、自分の中にある答えを探すことだと辻さんは言います。
「外側の世界にフローの正解はありません。他人に答えを求めたり、インターネットで検索しても何も出てきません。正解にとらわれることなく自分の中にある答えを探し、自分自身はどう思うのかを考えること。その思考自体が大切なのです。価値基準を持つことも、認知脳やライフスキル脳を上手に使うことも、そうしてフローな状態になることも、自分を見つめていくことから始まるのです」
私たちはつい、やる気の源を自己啓発本や先人たちの姿に求めてしまいますよね。しかし本当に見つめるべきなのは、自分の内側なのです。さぁ、皆さんも「仕事が嫌だなぁ」と思ったとき、これからは何かからやる気をもらうのではなく、あなた自身の中にあるやる気スイッチを探してみてください!
識者プロフィール
辻秀一(つじ・しゅういち)/スポーツドクター。
株式会社エミネクロス代表。1961年生まれ、慶應義塾大学病院内科、同スポーツ医学研究センターを経て独立。応用スポーツ心理学とフロー理論を基にしたメンタル・トレーニングによるパフォーマンス向上が専門。著書に『メンタル・トレーニングの第一人者が明かす 一生ブレない自分のつくり方』(大和出版)、『禅脳思考』(フォレスト出版)、『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)などがある。オフィシャルサイトはこちら。
※この記事は2014/11/25にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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