朝早く起きて、長い時間働き続ける。みなさん、今の社会人生活、自分が思い描いていたものと胸を張って言えますか?中には「Yes」と答える人もいるでしょうが、ほとんどの人が「No」という言葉が脳裏をよぎると思います。
学生の頃は、誰もが”憧れ”や”理想”を追い求めていたはずなのに、一体いつからでしょうか、安定した生活を求め、キャリアの妥協点を見出そうとするのは・・・1日の1/3を占める仕事。自分にとっての”好き”を仕事にした方が幸せなはずです。
その”好き”を追い求めるために、勤めていた会社を辞め、アルバイトまでした人がいるのです。その人が今回お話を伺った、大ヒット漫画『宇宙兄弟』の編集担当を務める、株式会社コルクの仲山優姫氏。新卒で入社した大手人材会社を1年で辞め、自分の”やりたいこと”を実現する道を選択した、彼女を突き動かしたものは何だったのでしょうか?
就職活動での挫折。最初の会社では、とにかく経験を積むことだけを考えました
【プロフィール】
立命館大学政策科学部卒業後、大手人材会社に入社。その後、動画制作のディレクター業務をしながら飲食店員など複数のアルバイトを経験。「人のココロが跳ねる瞬間」を作るためにコルクにインターン応募し入社。コミュニティプロデューサーとして、漫画家の小山宙哉氏、小説家の平野啓一郎氏などを担当。
─現在、株式会社コルクで働いていらっしゃいますが、最初のキャリアは大手人材会社。どういった理由で最初の会社を選んだのでしょうか?
仲山:実家が自営業で、両親が苦労している姿を目の前で見てきたこともあり、小さい頃から「会社員になる」ことが夢だったんです。企業のことなんて何もわからないから、親戚から聞いた大手メーカー企業に入り、給料と休みが決まっている安定した生活を送ろうと。高校くらいまではどうやったら会社員になれるんだろう?っていうことが、悩みでした(笑) 家族にサラリーマンがいなかった分、憧れていたところがあって、私にとっては未知の存在だったんです。
だから、大学も就職率の高い学部を選びました。できるだけ計算高く、目標を達成できる選択をしようと。自分が「やりたい!」と思ったことができていない人生を想像すると不安で、不安でたまらなくなるんです。
大学に入り、ただ漠然とメーカー企業で働く!と言ってきたけど、そこに何か思いがあったわけではないことに気づき、「本当に自分のやりたいことってなんだろう」って模索していて、就職活動を迎えました。その就活中に思わぬ出会いがあったんです。ある芸能プロダクションの説明会に行ったとき、仕事の内容に魅せられてしまって、マネージャーについての説明だったんですが、こんな仕事が世の中にあったのか!と驚きました。そこから、どうやったらこの企業で働けるかを考えるようになりました。
─げ、芸能プロダクションですか!?(笑)昔、描かれていた会社員像と比べると過酷そうなイメージがありますが……
仲山:私自身もマネージャーに魅かれたのは予想外でした(笑)でも「アーティストの才能を最大化する。そのためにあらゆる手段を講じる仕事です。」ということを聞いた時、自分のやりたいこと・心の奥底にある欲求がその言葉に詰まってたんです。
小学生の頃から、『こどものおもちゃ』という漫画が好きで、物語に影響を受けて育ったこともあり、才能を作品にして感動を作っている人を心から尊敬していました。
その芸能プロダクションにおけるマネージャーの仕事は、人が持つ才能に対してあらゆる手段を講じる仕事。まさに自分のやりたかった仕事だと(笑)実際に応募したんですけど、最終面接で落ちてしまって・・・。
「え、どうしよう。やりたいことがやっとわかったのに・・・」と落ち込みました。でも、エンタメ業界で働く夢は捨てきれなくて。であれば、とにかく色んな経験が積める会社に行こうと思い、大手の人材会社に入りました。それこそ、また今の環境からできるだけ計算高く、目標を達成できる選択をしようと。
一流の人と働くためには自分も一流に。エンタメ業界で働くために「優秀である証」が欲しかった
─最初の会社では、自分自身のスキルを高めるために働いていったと。
仲山:・・・そうですね(笑)人材会社に入ってからは、とにかく何か賞を獲得することだけを考えて、動くようにしました。それには幾つか理由があって、社会人1年目の人材が社会から「優秀」と思われるためには、タイトルが必要だと思ったんです。
─なぜ、タイトルが必要だと思ったのでしょうか?
仲山:どれだけ自分で、「私は一生懸命頑張るし、工夫して仕事もできます」と言ったところで誰も信じてくれない。だからこそ、”優秀さの証”になるタイトルを獲得し、そこでやったことを簡潔に説明することが、自分を知ってもらう上で、一番効果的だと思いました。
もう一つは、内定時代に出会った上司の言葉ですね。当時、「将来は一流のアーティストと働きたい」と言ったら、その方から「一流の人と仕事をするには、君が一流にならなければいけないんだよ」と軽い説教をされて……思わず、ハッとしましたね。まずは自分が一流にならなければいけないのか、逆に一流であれば、自動的に一流の人と働いていけるんだと。その視点が抜け落ちていて、その言葉を聞いてから、まずは突出した成果をあげる人であろう。突出すると、周りの見る目も徐々に変わってきて、自然と自分のいる環境も変わってくるんじゃないかと思うようになりましたね。
─すごく戦略的というか、計算されて行動されてますね。
仲山:まぁ、結果的には行きたいと思った芸能プロダクションに2回目の挑戦をするも、選考に落ちてしまったんですけど・・・(笑)面接も順調に進んでいたので、「今度こそ内定を貰えるかな…」と思ってたんですけど、やっぱりダメでしたね。こうなったら、エンタメ業界に行ってみないと何も始めらないなと。焦ってたんです。業界自体が変化の時期だと感じていて、その変化を渦中で体験した方がいいと思っていました。新卒で入った人材会社を退職することは決めていたので、次の仕事ではどんな形でもエンタメ業界に飛び込むこと、またどういった経歴であれば、「面白い」と思えるかも大事にしていました。そこで改めて自分を見つめ直そうと、自分が影響を受けてきた出来事を思い返してみたんです。
仲山:そこで思い出した本が『もしドラ』でした。悩んでてもしょうがないから、著者の岩崎夏海さんに相談しにいこうと。お会いし相談をする中で、約半年間岩崎さんのもとで働かせていただいたんです。
自分のやりたいことだったら、雇用形態など気にしない。自分の中に充実したものさえあれば良い
─岩崎夏海さんのもとでは、具体的にどんな仕事をされていたんですか?
仲山:YouTube事業のディレクター職です。撮影準備から撮影、動画の編集もするといった形です。岩崎さんには本当にあらゆることを教えてもらいました。なぜ、今YouTubeが盛り上がっているか、業界の変化、出版の将来、身を置く環境の大切さ、作品づくりにおける大事なこと、普段、岩崎さんと話す会話が、気づくと勉強になっている毎日でした。あと、副業がOKで、勤務時間外はアルバイトをしてました。
─アルバイトですか?(笑)
仲山:はい。東京でひとり暮らし。お金がやっぱりなくて(笑)せっかく副業ができるなら、と販売員や飲食のバイトなど、掛け持ちしていました。勤務時間外でやっていたアルバイトでは、学ぶことが多くて。様々なバックグラウンドを持った方々と接していく中で、これまでは「働く=正社員でなければダメ」という考えが頭の中を占めていたのですが、それは違うなと。
社会での安定など気にせず、自分のやりたいことであれば雇用形態など気にせずに、働き始めればいい。自分の中に充実できるものがあれば、それで良いなと思ったんです。
計画していなかったからこそ、出来た選択。一度きりの人生、やりたいことをやろう!寿命が縮んでも。
─現在働いている、コルクとはどのように出会ったのでしょうか?
仲山:動画制作の仕事の後、エンタメ業界で働いていく道が見えなくなって、焦燥感に駆られていました。
2年の社会人生活で3度の転職は世間的に見ると一般的ではないので、採用されにくくなるのかな…とか、次の仕事が上手くいかなかったらどうしようとか。周りからの評価を考えただけで怖くなりますし・・・。ネガティブな思考を抱えていたのですが、様々なアルバイトを経験し、社会に揉まれていく中で「3年間勉強したら、◯◯に挑戦しよう」といったように、計算して動くことは意味がないと思うようになっていました。
コルクは、自分が影響を受けた、漫画や小説で『才能を最大化する』ことをやっている会社ということで、設立当初から知っていて。ただコルクを知った当時は、「社会人で3年や5年スキルを積んでから行こう・・・」と思い、応募しなかったのですが、それではいつまで経っても働くことはできないだろうと思ったので、思い切ってチャレンジしました。
もう、自分のココロの声に従おうと。コルクの仕事であれば、たとえ無給のインターンだったとしても、悔いなく働けるなと思いました。
─”ココロが跳ねる”ですか?
仲山:ちょっと言い換えると、寿命を削って働けるかどうかですね。例えば、「自分の寿命が縮まりますよ」と言われても働きたいと思えるか。私の場合、作家の才能を一人でも多くの人に伝えるために、あらゆる手段を考え、実践できることが楽しいので、その時間を過ごせるなら寿命が削られてもいい。
自分が漫画や小説、映画で人生に良い影響を与えてもらったからこそ、今だと自分が担当している『宇宙兄弟』を多くの人に広めていけば、誰かの人生に何かしらのプラスの影響を与えられるのではないか?その強い思いがあるからこそ、コルクでは仕事という枠を超えて、目の前にあるものにただ集中し、楽しめている瞬間があります。
自流に乗って生きる。やりたいことが出来ていない未来を想像すれば、自然と一歩踏み出せるはず
─仲山さんは現在、”やりたいこと”を仕事にできていると思うのですが、多くの人は自分の思いを形にできずにいます。何を意識すれば良いと思いますか?
仲山:多くの人は、”やりたいこと”に気付けていないだけだと思うんです。特に今の時代、情報量も多くなって、ある意味で何をするかは選択し放題になりましたし。
私の場合、学生時代に出会った、とあるライターの方がおっしゃっていた「出来るだけ自分の流れに乗って生きるようにしています」という言葉が強く印象に残っていて、キャリアを形成する上で大きな影響がありましたね。
人の意見がどうかではなく、自分が思っていることに対して正直になれるかどうか。自分のココロの声を聞いて、一番やりたいと思った選択肢を実現するために努力する。これに尽きると思うんです。
外部の目は気になると思うんですけど、私の場合”やりたいこと”ができていない自分の姿を想像すると、本当に辛くて、もはや死にたくなるんです(笑)だから、”やりたいこと”が出来ていない姿をとことん想像してみたら、自然と一歩踏み出せるのではないでしょうか?
─一般的には”やりたいこと”が出来ている姿を想像すると思うのですが、あえて”やりたいこと”が出来ていない姿を想像する。一歩踏み出すためには、その考え方が重要なのかもしれません。
今日はお忙しい中、ありがとうございました!
(聞き手:後藤亮輔 執筆:新國翔大)
※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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