スマートフォン(スマホ)やパソコン、タブレットなど、ビジネスパーソンが毎日手に触れている電子機器。これらの機器は眼の不調を引き起こす原因ともなっていますが、あなたはしっかり対策ができていますか?
なんと眼の不調をきっかけに、睡眠不足や精神的な不安、さらには老眼を呼び起こしてしまう可能性もあるのだとか……。
生活する上で大切な眼だからこそ、きちんと丁寧なケアを行いたいところ。そこで『目が良くなる!! 10の眼トレ』など眼の健康に関するさまざまな著書を執筆し、“発信する眼科医”という異名を持つ平松類先生に、20代がかかりやすい眼の症状やビジネスパーソンが仕事の合間にすぐできる「眼トレ」について教えていただきます。
スマホやパソコンの使い過ぎで起こる4つの眼の症状
「最近なんとなく身体がダルいな…」こんなふうに感じることはありませんか? 実はその症状、眼の不調からくるものかもしれません。
まずは次のチェックリストで、眼にどれくらい負担がかかっているか確認してみましょう。
□よく本を読む
□エアコンをよく使用する
□コンタクトレンズを使っている
□夜に本を読むなど光の下で作業をする
□車を運転するときにエアコンをつける
□一日の半分以上は建物の中で過ごしている
□緑黄色野菜や魚をあまり食べていない
□アイメイクをする
□いつからか身体が不調である
9個のうち、1つでも当てはまる人は、眼の不調を抱えている可能性があるそう。当てはまってしまった20代のビジネスパーソンに起こりうる眼の症状を、平松先生に解説していただきましょう。
「20代のビジネスパーソンは、『スマホ老眼』『ドライアイ』『近視』『睡眠不足』といった症状になることが予想されます。その症状が起こる主な原因は、スマホやパソコンの使い過ぎによるもの。なお、スマホやパソコンを1日8時間以上使っている方は眼を酷使しているといえるでしょう」
症状(1):スマホ老眼
「スマホ老眼とは、日常的にスマホを使うことで老眼と同じ症状になってしまうこと。世間一般では、老眼は手元が見えづらくなる症状だと思われていますが、スマホ老眼は手元を見ることで眼が疲れる障害を指します。
『20代でも老眼になるの?』と思われるかもしれませんが、実はなるのです。スマホ老眼になってしまうと、頭痛や肩こりなどの原因になったり、集中できなくなったり、時には気分がイライラしてしまうことも。しかし20代の方は自覚症状がないことが多いので、原因不明の不調を訴える方がいます」
症状(2):ドライアイ
「読んで字のごとく目が乾いている状態をいいます。これもやはりスマホやパソコンが原因。通常、人間は1分間に20回ほどまばたきをしますが、スマホやパソコンを使っているときは7回と半分以下になり、目は乾燥して疲れてきます。さらに、ドライアイによって頭痛や肩こりが引き起こされることもあるのです」
症状(3):近視
「遠くを見たときにモノや字にピントが合わず、ボンヤリとしか見えなくなるのが近視です。スマホやパソコンは手元を見る作業が多く、それにより眼の筋肉が固くなり、ピントを合わせる筋肉が衰えてしまう。その結果、近視が進んでしまいます」
症状(4):睡眠不足
「スマホやパソコンが発するブルーライトは太陽と同じ光なので、人間が夜にその光にあたると、脳が『今は日中の時間帯だ』と勘違いをしてしまい、人を眠らせないように作用してしまいます。20代は寝る前にスマホを見る方が多く、それが原因で夜に熟睡できなくなり、睡眠不足になるのです」
眼の不調は精神的にも悪影響を与える!
スマホやパソコンの使い過ぎは、私たちの眼に悪影響。眼を酷使することは、仕事の面でも精神の面でもマイナスだと平松先生は語ります。
「例えばスマホ老眼になると、パソコン作業をするだけで疲れてしまい、それによりミスが起こることもあります。また眼精疲労による睡眠不足が原因で労働効率が落ちてしまうことも。
人間は目に入る光の量が減ると、気分が暗くなってしまいます。人は眼に不調を感じると、眼を閉じようとします。すると眼に入る光の量も減り、気分は落ち込みます。また、眼が疲れているので眼を閉じたいのに、作業や仕事をしなくてはいけないため閉じられないことはストレスになり、気分がイライラすることも。このように、眼の不調は精神的にも悪影響を与えるのです」
日常の中に取り入れたい眼ケア
眼の不調を解決するため、ビジネスパーソンが日常生活の中で心がけるべきことを平松先生に教えていただきましょう。
その(1):夜はブルーライトを大幅にカット
「夜の時間帯にスマホやパソコンを使う際は、光の量を減らす設定をしましょう。iPhoneや一部のAndroidにはブルーライトの光を減らす機能が内蔵されています。その機能がない機種をお持ちの方は無料アプリもありますので、それを利用してブルーライトの明るさを調整をしてください」
その(2):スマホを最低30センチ以上離して使う
「スマホとの距離が近いと眼の不調の原因になりますので、距離を離すようにしてください。眼とスマホ間の理想の距離は40センチ。最低でも30センチは離すようにしたいですね」
その(3):室内を乾燥させない
「空気が乾燥しているとドライアイの原因になります。加湿器があるとベストですが、ない方は霧吹きを使ったり、水を入れたコップをデスクの端に置くなどして湿度を下げないように心がけましょう」
その(4):眼に直接風が当たらないようにする
「オフィスの空調が直接当たってしまう場所で仕事をされている方は、眼に直接風が当たるためドライアイになる危険性が高まります。そのような場合、100円ショップで売っているような安価な伊達メガネでもいいので、眼を保護してあげるといいですよ」
その(5):まぶたを温める
「涙は水と脂がまざってできています。まぶたが冷たいと眼の周りの脂が溶けず、涙が水だけになって眼が乾いてしまうんです。まぶたを温めることで眼の周りの血流が改善されてまぶたから脂が分泌されるため、眼が保護されやすくなります。
また、まぶたを温めるとピントを調整する毛様体筋(もうようたいきん)という筋肉をほぐすことにもつながります。市販で売っているアイマスクや、電子レンジで温めた水タオルを目に当ててまぶたを温めてあげてくださいね」
その(6):パソコンのモニターは眼の高さより下に設置
「人間の眼は下を向いているときに比べると、上を向いているときの方が2倍も眼が開いています。ドライアイを避けるためにも、長時間見つめ続けるパソコンのモニターは上ではなく、眼の高さより下に設置するよう心がけてください」
その(7):まばたきすることを意識する
「スマホやパソコンを使っているときは、まばたきの回数は普段の半分以下に減少します。常日頃から意識的にまばたきをするようにしましょう」
その(8):ルテインを含んだ食べ物の摂取
「外からの光を吸収して眼のダメージを和らげる、ルテインの入った食べ物を取り入れるよう心がけてください。ルテインは緑黄色野菜、特にホウレンソウに多く含まれています」
その(9):遠くや近くを見て筋肉を強化
「デスクワークをしていると、長時間同じところばかり見続けてしまいがち。等距離ばかりを見ていると目の筋肉が固まって、ピントを合わせる能力が落ちてしまいます。仕事の合間に遠くや近くを見て、眼を動かすことを意識してみてくださいね」
ずっと使いっぱなしの目薬って実は菌だらけ!? “眼に毒”な行為とは?
続いて、“眼に毒”だという行為を教えていただきました。該当したら要注意かも!?
その(1):開封して1カ月が経った目薬の使用
「開封して1カ月以上経った目薬は、菌が繁殖しているので使用しないでください。安い目薬でもいいので、頻繁に買い替えましょう」
その(2):コンタクトケースを交換しない
「目薬と同様、コンタクトケースも1カ月が経過したら菌が繁殖しています。新しいものと交換しましょう」
その(3):眼のふちにメイクが残ってしまう
「化粧を落としきれず、眼のふちにメイクが残っている場合があります。メイクをきれいに落としきれていないと、眼のふちから出る脂が出にくくなるため、涙の質が低下します。またメイクが残っていると、眼のふちにダニが発生する可能性があり不衛生。洗顔をしたあとに眼のふちを綿棒でふき取るなど、しっかり落としてください」
その(4):まつ毛エクステ
「まつ毛エクステ(まつエク)をされている方が最近は多いようですが、眼の健康のためにはおすすめしません。まつエクはまつ毛の抜ける周期を早くさせるため、まつ毛が全体的に短くなります。どうしてもまつ毛を増量したいという場合は、つけまつ毛かまつ毛を伸ばす美容液を使用しましょう」
その(5):オメガ6脂肪酸の摂取
「サラダ油やコーン油に含まれるオメガ6脂肪酸は、摂取しすぎると眼の血流が悪くなり、眼の健康バランスが崩れやすくなります。ポテトチップスなどに多く含まれていますので、食べ過ぎには注意してください」
隙間時間にできる! 健康に導いてくれる眼トレ
最後に仕事の合間や隙間時間にできる、眼がよくなるトレーニング(眼トレ)を平松先生が伝授します! 疲れている眼やスマホ老眼の予防に、今すぐ試してみてくださいね。
パームアイ
【効果:まぶたを温めることで涙の質を改善】
ステップ1:両手をこすって手を温めます。
ステップ2:温かくなった手で30秒から1分ほど覆います(5回繰り返し)。手のひらは眼を圧迫しないよう、眼に直接つけないようにします。
眼のストレッチ
【効果:眼の筋肉をほぐす】
ステップ1:人差し指を立てます。
ステップ2:腕を曲げる・伸ばすを繰り返します。そのときに指先を見ることで手前と遠くを交互に見ましょう(10回繰り返す)。
癒やしの呼吸
【効果:イライラを減らす】
ステップ1:眼と口を閉じて鼻から3秒かけて、息を吸います。
ステップ2:口をすぼめ、6秒間ろうそくを消すように息を吐きましょう(10回繰り返す)。
まぶたのマッサージ
【効果:ドライアイの改善】
ステップ1:上まぶたと下まぶたを上下にそっとなでます(各10回)。
ステップ2:上まぶたと下まぶたを目頭から目じりにそっとなでましょう(各10回)。
ステップ3:上まぶたと下まぶたをそれぞれ軽くつまみます。
眼は脳と直接つながる“むき出しの臓器”
眼は“むき出しの臓器”だと平松先生は語ります。
「心臓や腸は皮膚に守られていますが、眼はモノを見るためにむき出しとなっています。眼は脳と直接つながっているため眼の疲労は脳の疲労でもあるのです」
仕事中に「思ったように頭が働かないな…」と感じるときはありませんか。もしかしてそれは連日のスマホの見過ぎが原因だったりするのかもしれません。眼の健康を維持すれば、体調を整えることにもつながり、結果として仕事の効率アップがのぞめる、ということも。
隙間時間をうまく利用して、5分でできちゃう眼トレの効果を実感してみてくださいね。
(取材・文:野田綾子)
識者プロフィール
平松類(ひらまつ・るい)
医学博士・眼科専門医。彩の国東大宮メディカルセンター・眼科科長。医学界の池上彰とも呼ばれ、分かりやすい説明や医療解説に定評がある。テレビや雑誌、ドラマ監修など数々のメディアでも活躍し、マルチな活動を知られている。著書に『本当は怖いドライアイ』(時事通信)、『目が良くなる!! 10の眼トレ』(ぴあ)など。
※この記事は2017/08/07にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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