「見た目はイマイチだけど、中身はすてき、そんな地方のモノをかわいくしたい!」
そんな気持ちで慶應義塾大学在学中に、「ハピキラFACTORY」を立ち上げた正能茉優(しょうのう・まゆ)さん。同社は地方にある魅力的な商材を女性・若者の目線からプロデュースし、「広める」「売る」ことまでを手掛けています。
ハピキラFACTORYの代表取締役として、全国の自治体や省庁との仕事をこなす彼女は、実はもう一つの顔を持っています。それはエレクトロニクス分野をけん引してきた日本のトップ企業、ソニー株式会社の正社員であること。
正能さんのように2つの職を兼業する働き方、あるいは仕事とは別に非営利活動に従事することは「パラレルキャリア」と呼ばれ、昨今、注目を集めています。パラレルキャリアを実践する“パラキャリ女子”の先頭を走る25歳の正能さんに、実際のワークライフバランスからパラレルキャリアのメリットや課題、実践についてお話を伺いました。
オンリーワン戦略で選んだパラレルキャリアのメリット
―最近、大企業が副業を解禁するなど「パラレルキャリア」が注目を浴びています。正能さんは新卒時からパラレルキャリアを実践されているのですよね?
正能茉優さん(以下、正能):大学3年生のときに「ハピキラFACTORY」を立ち上げて、卒業後は新卒で大手広告代理店に入社しました。その後、2016年10月にソニー株式会社へ転職し、社長直轄の新規事業を手掛ける部署に勤務しています。今は次のソニーの顔となるような新商品を企画し、作り出すのが私の仕事です。
―なぜ、広告会社からソニーへ転職されたのですか?
正能:広告代理店のお仕事は「マルチクライアント制」といって、世の中のすべての企業・組織がクライアントになる業態。そのため、ハピキラの仕事との競業の線引きがしづらく、ハピキラの仕事を存分にできないのが課題でした。一方、ソニーは事業会社のため、代理店と比べて競業の線引きがとても明確。入社前に、所属予定のチームメンバーとも話したのですが、型や形式にこだわらず、多様性を尊重してくれる雰囲気をメンバーから感じたのも大きな理由です。
―そもそも、なぜパラレルキャリアを実践しているのでしょう?
正能:「自分の1時間当たりの価値を最大化するため」です。私のようなミレニアル世代は、仕事、家族、恋人、趣味などをバランス良くがんばって人生120点にしたい考えを持っている人が多いんです。だから、仕事以外のことにも十分な時間を割きたかったりするんですよ。
私自身はハンバーガーにアボカドのトッピングを入れたりとか、ホテルでの朝ごはん女子会とかしたいタイプなんです。つまり、大金持ちになりたいわけではないけど、ある程度お金はほしい。
そこで自分の1時間あたりの価値を最大限に高めることが必要だと思い、そのために取った方法が「オンリーワン戦略」でした。
「ベンチャー社長なのに、大企業のOL」って、そのときは希少性も高いかなと思ったんですよね。
―パラレルキャリアを実践して得られたメリットはありましたか?
正能:たくさんあります。一番のメリットはハピキラで得た人とのつながりをソニーのお仕事でも生かせること。「ハピキラの正能」は、大きな企業の社長さんや議員さんなど、「ソニーの正能」だけでは絶対に出会えないような方とつながれるチャンスが圧倒的に多くて。
ソニーでも、ハピキラで培ってきた経験が生きているなと思うことはあります。私がソニーで携わっているのは、まだ日の目を見ていないけれど自社が開発したすてきな技術を、どう魅力的に活用してビジネスにしていくかという仕事。これって、地方のモノを魅力的にして売っていくハピキラの仕事と考え方が似ているところがあるんですよね。
あとはハピキラでは営業に広報、デザインなど、あらゆる分野のことを一通り経験しているので、仕事の工数や価格帯の相場観が分かり、仕事の全体設計もしやすくなりました。
課題は「時間管理」、欠かせない「人生配分表」
―逆にパラレルキャリアを実践する上での課題はありますか?
正能:2つの顔を持っているので、時間の管理は悩むところ。今は「人生配分表」に従って日々管理しています。ソニーに転職してから裁量が広がって自由にやれることが増えた分、責任を持たなければならないことも増えて、月々の管理がちょっと難しくなってきましたが…。
―人生配分表とは?
正能:項目ごとにどれくらいの時間を使うかバランスを決めた表です。「ハピキラ25%、ソニー30%、家族8%、友達10%、彼氏7%、自分20%」としています。最近はソニーのお仕事が楽しく、日々このバランスを守るのが難しくなってきたので、今月はソニーに、来月はハピキラに重心を置くといった具合に、少し中長期的にバランスを取るようになりました。
―企業に勤めていると予定外の業務を振られて、バランスが狂うことはないですか?
正能:振られた業務が「私の価値を発揮できない仕事」だったら、率直にその旨を伝えて、代案を出すようにしています。時にその分野において自分よりも優れている人に、仕事を相談したりお願いすることもあります。
もちろん、何も結果を出していないのに仕事を断るのはただのワガママになってしまうので、私は「先に得意な分野で結果を出すこと」を心がけています。「正能にはここを任せておけば、チームがうまく回るんだ」ってことを、上司には成果で知ってもらう。そのうえで、不得意な業務は社内外含めて私よりも得意な方にお願いするという感じです。
―20代で業務のハンドリングがそこまでできるのは、さすがです。正能さんは普段、タスク管理はどうされているのですか?
正能:すごくアナログですよ。付箋にタスクを書きパソコンの周りに貼り付けて、終わったら剥がす。どれが重要でどれがいつまで行うべきタスクか、また、タスクがどれだけ残っているのか目に見えて分かるので意外と管理しやすくて。いつもパソコンがライオンの顔みたいになっています(笑)。
―時々そういったモニターを見かけます(笑)。タスクが可視化されるのでアナログながらも管理しやすいですよね。効率的に業務を回すために、心がけていることはありますか?
正能:ハピキラの仕事は基本的にフォーマット化するようにしています。例えば、都道府県ごとにご当地お菓子を選んで、お歳暮・お中元を作る仕事では、効率化するために2つのことを実践しました。
1つ目は扱うお菓子を一から探すのではなく、都道府県の産品課や流通課からアイテムリストをいただいて、そこから選ぶようにしたこと。2つ目は、それぞれのお菓子によって箱を変えるのではなく、箱の規格を統一したこと。これによって、かなり業務がスムーズに回るようになりました。
ソニーの仕事でいうと、ハピキラの人脈をフル活用して最短で結果が出るようにしています。未開拓の企業と組みたいときは、お問い合わせ窓口からではなく、Facebookでその企業の社長さんを探して、共通の知人に紹介してもらったり。
私の座右の銘は「ローコストでハイパーハッピー」。苦手なことに時間をかけるより、得意なことを伸ばして最速で結果を出せるよう、自分なりの工夫をしています。
思いで周囲を巻き込む。相談すべきは「5年後の日本を語れる大人」?
―正能さんはチャンスをつかむ力も強いと感じます。ほしい仕事を手にするために、どんな努力をされているのでしょうか?
正能:うーん…話したいと思った人には、ちゅうちょなく声をかけることですかね。たとえば、地方創生担当の元内閣府副大臣の平将明さんも、自ら声をかけたお一人。とあるイベントに参加したとき、平さんが来賓あいさつをされていたのですが、その日がたまたま平さんのお誕生日だったんです。出待ちして「お誕生日おめでとうございます!」と大声で話しかけました。
そうしたら「なんで知っているの?」と驚かれて、「ググりました」って(笑)。その場で名刺交換をして、間を空けずに会いに行き、ハピキラのお話を聞いてもらったんです。そこから、当時の国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当の石破茂さん、自民党 農林部会長の小泉進次郎さん、元金融担当大臣の伊藤達也さんを紹介していただき、さらには市町村をご紹介いただき、一緒にプロジェクトを組むところまで発展しました。
―すごい行動力…! そして、とても勇気がありますね。
正能:本当にすごい大人って、真剣な思いを持つ人間に対してきちんと応えてくれるんです。これまでの経験から「やりたい」と思ったことは積極的に“すごい大人”に発信したほうが、早く実現するのではと強く感じています。
今のうちに思いを入り口に、たくさんの人を巻き込みまくりたいです。これは、20代の今だからこそ通用することかもしれないですね。
―そういった相談する相手を選ぶときの基準はありますか?
正能:世の中のムードをきちんと読めている人でしょうか。具体的に言うと、5年後の世の中がどうなって、何が流行るのかを理由もセットで語ってくれる方。私が地方創生の仕事を始めるときも、実はそんな大人たちが「地方創生は5年後、絶対にブームになる」と背中を押してくれたことが、前に進めたきっかけだったんです。
―なるほど。正能さんは今後もパラレルキャリアを続ける予定ですか?
正能:どうでしょうか…。パラレルキャリアにこだわっているというより、自分の価値を高めるキャリアを重ねていきたいなと思っています。だって、仕事だけの人生は、嫌だもん。
パラレルキャリアは実践者が増えているし、これからのオンリーワン戦略としては少し弱くなってきます。最近は将来的に、慶應大学の先生になりたいと思っているんです(笑)。最近、研修やセミナーで人に「教える」という機会がとても多いのですが、人に何か教えるのって楽しいぞって。
―パラレルキャリアを若い世代にも広めたいと思いますか?
正能:そうですね、みんながそれぞれ好きなようにキャリアを積んでいければいいんじゃないかな…。好きなものを好きなだけ食べられる「ビュッフェ」みたいに。
私はこれを「ビュッフェキャリア」と呼んでいます。ビュッフェでカレーもパスタも食べたかったら食べればいいし、カレーだけ食べたいときは、カレーだけ食べたらいいと思うんです。だから、「サラリーマンだけ」「経営者だけ」みたいな専業という選択ももちろんすてきだと思っています。
―どんなことを基準に自分の得意分野を見つければいいでしょうか。
正能:得意なことを見つける基準は2つあると思っています。1つは人からたくさん褒められること。もう1つは飲み会でドヤ顔で話せるエピソードがあること。この2つがそろったら、他者から見ても、自分から見ても、得意なことだといえるんじゃないでしょうか。
私自身、周囲の大人にいわれて「若い女の子たちがかわいいと思うものが分かる」という得意分野に初めて気づきました。
動くなら20代の今のうち!
正能さんのように、これまでの常識を突き抜けて自由にキャリアを選択することは、決して簡単なことではないかもしれません。しかし、好きなこと、挑戦したいことがあるならば、最初から無理だと決めつけず、実現の可能性を探ってみませんか。
今後、結婚する、親になる、部下を持つなど、その時々のライフステージに応じて、働き方を変えていかなくてはならないこともあるでしょう。身軽な20代の今だからこそ、チャレンジできることは大いにあるはず。
やりたいことは積極的に発信する、会いたい人に会いに行く。それを続ければ真剣で純粋な思いを受け止めてくれる相手に、きっと出会えるはずです。正能さんも最初からすべてがうまくいったわけではないと、失敗談も多く語ってくれました。来るべきタイミングでチャンスは訪れるもの。そう信じて一歩を踏み出し、ぜひ自分が一番輝ける道を見つけてくださいね!
(取材・文:小林 香織)
識者プロフィール
正能茉優(しょうのう・まゆ)
ハピキラFACTORY代表取締役。ソニーでは社長直轄組織のTS事業準備室にて新商品を開発。「地方×女の子」ビジネスの第一人者として、地方にある魅力的な商材をかわいらしくプロデュースし、東京や海外で発信する。2010年に慶應義塾大学総合政策学部に入学。2012年には「小布施若者会議」を創設。現・副代表の山本氏を誘い、2013年(株)ハピキラFACTORYを創業。大学卒業後、ハピキラFACTORYでの活動を続けながら、新卒で大手広告代理店に就職し、2016年10月にソニー(株)に転職。同年11月より経済産業省が設置した「兼業・副業を通じた創業・新規事業創出に関する研究会」の委員に選出される。
ハピキラFACTORY:http://www.hapikira.com/
※この記事は2017/05/12にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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