元祖イクボスに聞く、上司からワークライフバランスの理解を得るために必要なたった1つのこと

皆さんは自分のワークライフバランスに満足していますか?「遊んでいる暇があったら働け!」と、部下のプライベートに理解のない上司のもと、仕事と家庭や、その他の社会的な活動を両立できずに悩んでいる若手ビジネスパーソンも多いように思います。

元祖イクボスに聞く、上司からワークライフバランスの理解を得るために必要なたった1つのこと

皆さんは自分のワークライフバランスに満足していますか?「遊んでいる暇があったら働け!」と、部下のプライベートに理解のない上司のもと、仕事と家庭や、その他の社会的な活動を両立できずに悩んでいる若手ビジネスパーソンも多いように思います。

しかしいま、新たに注目されているのが、部下のワークライフバランスに理解のある上司、通称「イクボス」の存在です。

なぜいまイクボスが注目されているのか、部下が上司をイクボスに変えていくことはできるのか……。今回は部下の視点からイクボスを考えるべくNPO法人ファザーリング・ジャパンの理事で、大手ファンド企業の代表取締役社長でもある“元祖イクボス”川島高之さんにお話を伺いました。

イクボスとはどんな上司?


20代、30代のビジネスパーソンにとって欠かせない存在になるであろう「イクボス」。具体的にはどのような人物を指すのでしょうか。NPO法人ファザーリング・ジャパンの川島高之さんは、このように定義しています。

1. 組織の目標や計画、ミッションを達成している。
2. 部下の私生活とキャリアアップを応援する。
3. 自分自身もワークライフバランスを満喫している。


ひとことで言えばイクボスとは、「部下のワークライフバランスを応援しながら組織の業績や結果を出し、自らも仕事と生活をエンジョイしている上司」のこと。

イクボスはイクメンから派生した言葉ではありますが、イクボス自身が子育てをしているかどうかは重要ではありません。「男女を問わず、部下がワークライフバランスを充実させることができるように配慮しながら、自分自身も業績をしっかりと上げる上司がイクボスです。応援する部下の私生活=ライフには、子育てや家事だけでなく介護や社会活動への参加も含まれます。イクボス自身がワークライフバランスを満喫させていればなおいいですね」(以下:川島さん)

 

イクボスが求められる背景(1)“社会の成熟化”


上に立つ者としてとても理想的なイクボス。しかし、なぜいまイクボスが求められているのでしょうか。

「24時間戦えますか」というキャッチコピーが一世を風靡したように、かつての日本は長く残業をしたり、休日出勤したりと、バリバリ働くことが美徳とされていました。プライベートの時間を犠牲にした働き方が、戦後の復興期や高度経済成長期を支えたことは間違いありません。しかし川島さんは、「日本はいま、そうした“成長”の時期を経て、“成熟”の時期に入っています。“成熟”とは、多様な価値観と多様な人材が化学反応を起こしながら何かを生み出すことです」と指摘します。

川島さんによれば、成熟社会のビジネスパーソンは3つの円に関わりながら生きていくことを勧めています。3つの円とは「ワーク(仕事)・ライフ(家庭や趣味など個人の時間)・ソーシャル(PTAや地域活動など仕事以外での人々との関わり)」のこと。会社外の人たちと触れ合い、会社での肩書きの通じない場所で人間関係を育むことで、視野が広がって人間性が高まる。そうすることで、仕事にも還元することができるため、これら3つの円はお互いに補い合う関係にあるのだと言います。

イクボスが求められる背景(2)“3つの円に理解のない上司の多さ”


しかし川島さんと同じ50代の男性をはじめ、多くの上司が「長時間働くことこそ美徳」「男は仕事、女は家庭」と考えていると川島さんは言います。「『この忙しいときになんで子育てなんてするんだ』、『地域活動をする時間があるなら働け』と思ってしまう上司が圧倒的多数だと思いますよ。いまどきそんなこと言えないので口にはしない。でも心の底ではそう思っているはずです」


いくら部下が「仕事だけでなく、家庭や社会とのつながりも大事にしたい!」と思っても、職場に理解のある上司がいなければ難しいのが現状です。
そこで注目されているのが、イクボス。仕事と家庭、社会的な取り組みを両立しやすい環境の整備に努める上司が増えることで、職場環境が改善していくことが期待されているのです。たとえば、川島さんが理事を務めるNPO法人ファザーリング・ジャパンでは、昨年春からイクボス育成の取り組みを開始。「イクボス養成講座」を各地で開催しています。

権利主張より、まず職責を果たすことが必要


部下の視点からイクボスについて考えたときに気になるのが、どうしたらワークライフバランスに理解のない上司をイクボスにすることができるのかということ。いわば“イクボスの育て方”を教えてほしい……。そんな問いに、川島さんは次のように答えます。

「上司を変えるのではなく自分を変えることが一番の近道です。僕はいつも、『権利主張より職責を果たせ』と自分の部下に言っています。部下として、まずは目の前の仕事で成果を出す。そうすれば『プライベートの時間をください』と上司に言うことができます」

上司をイクボスにする前に、仕事でしっかりと成果を出す。そのために、川島さんは“9回裏2死満塁の気持ち”が重要だと言います。


「希望の時間に帰りたいなら、常に9回裏2死満塁の気持ち、つまりギリギリの緊張感を持って仕事に臨むべきです。私生活の時間を確保したいならそれぐらい集中してやらないと。そうやって集中して働けば、6時にはもうヘロヘロですよ。残業できる体力なんて残ってません(笑)」

こう言い切ることができるのも、川島さん自身が仕事で成果を上げているから。川島さんはイクメンとして子どもの送り迎えや弁当作りを行い、PTA会長や少年野球のコーチを務めるなど地域活動に積極的に参加してきたそうです。仕事に費やせる時間が限られている分、緊張感を持って仕事に臨むことで、業界平均値を上回る利益を出し続けてきたといいます。

そうした成果を上げたうえで上司に希望を伝えると、前例のないことでも受け入れられることがあるのだとか。上司をイクボスに変えるためには、自分が成果を上げることが、遠回りのようで案外近道なのです。

「24時間働きたい」も悪いことではない


最後に、川島さんは1つ注意点を教えてくれました。「ワーク・ライフ・ソーシャルやイクボスは、あくまで選択肢のひとつ。考えの違う人に強要するのは禁物です。24時間働きたいという人も専業主婦も、別に悪いことじゃない。いろんな価値観があるんだと知っておくことが大事です」

さて、皆さんの職場にイクボスはいるでしょうか? もしいなかったとしても、それをただ嘆いていたのでは何も変わりません。まずは目の前の仕事でしっかりと成果を出した上で、上司に希望を伝えてみましょう。「君がそう言うならば……」と、上司が意見を変えるかも。まずは自分が変わり、上司が変わることで、職場が変わっていく。そんな流れのきっかけをつくるのが、あなたなのかもしれません。


識者プロフィール
川島高之(かわしま・たかゆき)/1987年に慶應大を卒業後、三井物産に入社。現在は上場会社社長。地元小・中学校PTA(元)会長、イクメンNPO「ファザーリング・ジャパン」理事、子ども教育NPO「コヂカラ・ニッポン」代表でもある。子育てや家事(ライフ)、商社勤務や会社社長(ワーク)、PTA会長やNPO代表(ソーシャル)という3つの視点を融合させた講演を展開中。NHK「クローズアップ現代」で特集され、AERA「日本を突破する100人」に選出。

※この記事は2015/03/27にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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