今では誰もが当たり前のように持っているスマートフォン。SNSでのコミュニケーションが密になってきた昨今、より豊かに相手とのコミュニケーションをとる手段はなんでしょうか?
今回は、早くからスマホ時代の新たな情報伝達の鍵をGIFの世界に見いだし、日本最大級のGIFアニメコミュニティ「GIFMAGAZINE」を運営している株式会社creative box代表取締役社長の大野謙介さんに、GIFアニメの魅力やGIFMAGAZINEが生まれたきっかけについてお話を伺いました。
スマホの登場が「GIF」の人気を再燃させた!
GIF(ジフ、またはギフ)とは、端的に言うと“自動的にループ再生される短い映像”のこと。「ファイルサイズが小さい」「音が出ない」「クリックレスでループ再生される」という特徴があります。
1987年にアメリカで誕生したGIF。今よりインターネットの通信環境が整っていなかった1990年代に、日本でも一度流行しますが、インターネットが身近になり通信環境も安定してきた2000年代に広まった「Flash」や動画コンテンツに押され、GIF人気は徐々にかげりを見せてしまいます。
しかし2011年ごろ、スマートフォンの普及によりGIFに再び注目が集まるように。最近ではSNSでもGIFを目にする機会が多くなりましたが、なぜ再び脚光をあびるようになったのでしょうか。
江戸時代、藩ごとにチームを編成し1年間を通して行われた”けまリーグ”。この浮世絵は幕府代表チームによるリフティングの様子とのこと。
「GIFはファイルサイズが小さいので、通信環境やOS、ブラウザ、デバイスに依存することなく、どんな環境でも平等に見ることができます。ウェブを閲覧するデバイスが、PCからモバイル(スマホ)に移行したことで、小さい画面や通信環境が安定しないスマホでも快適に再生できるGIFが再び注目されるようになりました」(大野さん、以下同)
実は海外ではGIFでのコミュニケーションは当たり前。アメリカでは2012年の流行語大賞にも選ばれています。
「アメリカなど海外ではGIFをLINEのスタンプに近いようなコミュニケーションで使うことが多く、日本はGIFをコンテンツとして見て楽しむ傾向が強いですね」
人を楽しませることが好き。パフォーマーだった自分が原点
現在は日本最大級のGIFアニメコミュニティ「GIFMAGAZINE」を運営している大野さんですが、学生時代はパフォーマーを目指していたそうです。
「小学生のころから、『面白いことで生計を立てられればいいな』と思っていたんです。みんなが『面白い』『バカだな』と楽しんでくれるようなことがなんとなく楽しかった。
エンターテインメントで飯を食っていきたいと思ったのは、中学生のときに合唱部の大会で日本一を取ったことがきっかけ。その後、ストリートパフォーマンスなどを経て、大学卒業後は自分自身が身体表現や映像など、何か創作したことで食べていけたらと思っていましたが、プロで飯を食っていくという現実の厳しさをあらためて知り、挫折しました」
そんなクリエイターへの渇望時代に、自身のHP作成をするためにプログラミングを学んだことが、大野さんを思わぬ方向に導きます。大学4年生のときには、「検索勇者」というWEBサービスを個人で立ち上げ、インターネットでの表現の魅力に気付いたといいます。
「この『検索勇者』が、僕が今まで作ってきたものの中で『一番自分らしい』と思えるコンテンツなんです。技術として、クリエイティブとしてすごいかというと、決してそうではないのですが。ゼロから『創作した』と心から思えて満足感があり、自分はインターネットの世界での表現のほうが向いているかもと思ったのです。
特定の一人に深く刺さるのではなく、世界中の多くの人に『こいつバカだな』と思ってもらえることが理想とするところ。だから一気に情報を拡散できるインターネットのほうが向いているのかもって。僕、承認欲求が強すぎるんですよ(笑)」
大学卒業後は、リクルートに入社。2年目に株式会社creative boxを友人と立ち上げ、入社から丸2年経ったころに退社しました。
「GIF」との出会いは偶然に
「4年前、会社をつくる前に『面白いことが広まる瞬間を科学しよう!』と思って突き詰めたところ、行き着いた場所が“コミュニケーション”だったのです。例えば、『これ見て』『これおいしかったよ』など、面白いことは普段の会話の中で広まっていました」
そこでコミュニケーション手段の変化に興味を持った大野さん。原始時代の鳴き声から始まり、文字や手紙、そして電話やメールなど、技術の進歩によって変化してきたことに着眼します。
「情報量は声→文字→静止画と進歩してきたので、次は動画だと思ったのですが、動画を送り合うのは、コミュニケーションにはなり得ないことに気が付いてしまった。今はスナップチャットがありますけど、10~15秒の動画は「伝えられる情報量」は多くても、「伝達速度」は遅くなってしまいます。
全部の意図を理解するために15秒もかかるってことですから」
GIFだからできるアート作品。立体はより立体に、不思議な視覚効果。
単なる動画ではコミュニケーションの進化にはつながらない。そう諦めかけたとき、大野さんはあることに衝撃を受けます。
「あらためて過去を振り返ると、一時期動画がはやった時代があったんです。それはガラケーの『動く絵文字』でした。コミュニケーションの間に、時間軸を持つものが入るという事実に衝撃を受けて。将来、コミュニケーションの中に入りうるとしたら、こういう動く絵文字みたいな体験だろうと思ったんです。
動く絵文字は、短編でループしてクリックレスで再生する動画。スマホが出現したときにその役割を担えたのがGIFだったんです」
スマホ時代でも、GIFの「短編」「ループ」「クリックレス」な映像がコミュニケーションを面白くすると考えた大野さんは、そこから「GIFMAGAZINE」への構想が一気に加速していきます。
「2011年くらいからスマートフォンが普及し、同じくして短い動画の需要は増えていきました。小さいスマホ画面の中では、長い動画は疲れるしいちいちタップするにもストレスがかかる。
“小さい画面でも見やすく、無限にループして、クリックレスな映像”があればいいな、と。その体験を当時たまたま可能にしたのがGIFというファイルで、そのGIFがたくさん集まって見られるようなサイトがあったら面白いんじゃないかって。
モバイルという環境の中で楽しいコンテンツがたくさん集まることが想像を加速させ、視界が開けてきたんです」
最初はフェイスブックやツイッターなどのSNSにGIFが投稿できるようにとスタートした「GIFMAGAZINE」。しかし、気付けば多くのGIF作家が集まり、みんなで作り上げていくサイトに成長していったそうです。
GIF作家という職業を世に送り出したい
あっという間に日本最大級のGIFアニメコミュニティとなった「GIFMAGAZINE」が今後目指したいところは…?
「まず、GIFMAGAZINEをベースにGIFの仕事や作家が職業として確立していけばいいな、という願いがあります。そして将来、コミュニケーションというツールの中に、作家さんやユーザ自身が作った作品を提供し合える仕組みになったら、インターネットやクリエイターの文化に対して一つの“価値”になるのではないでしょうか」
GIF単体については、「まず、コンテンツとしての役割が大きくなっていく」と予想する大野さん。さまざまな動画コンテンツがそれぞれ競合していくのではなく、それぞれが流通していく場所を獲得していく…と話します。
「15秒のTVCM動画はTVという面で流通していったし、料理などの1分動画はフェイスブックやツイッターのようなSNSという面の上で流通していきました。
GIFは、SNSやコミュケーションにもさまざまな面で流通していける特徴を持っているので、チャットやサイネージなど多くの面での流通が拡大し、今後は皆さんと触れる機会が大幅に増えていくのではないでしょうか」
非言語ツールがコミュニケーションを豊かにする
インターネットという場所で、新たな表現の場を見つけた大野さん。GIFはコンテンツだけでなく、私たちのコミュニケーション手段も変化させていくでしょう。
「コミュニケーションの中で、会話自体を楽しめるというところでは、GIFには圧倒的に貢献できる世界があると思います。GIFは非言語で、非言語は人とケンカしないので、コミュニケーションを豊かにすると思うんです。GIFを通して、コミュニケーションをより楽しく豊かなものにしたいですね」
友達とけんかをしたとき、一生懸命謝っている様子のGIFに、言い出せないコトバや伝えたい思いをのせて送ることならできる。そんな、気持ちを言葉に代わって伝えてくれる一つの手段としてのGIF。
コミュニケーションが豊かになれば、心や感情をはじめ表情までが豊かになり、人生がもっと穏やかで煌めくものに変わっていくのではないでしょうか。
識者プロフィール
大野謙介(おおの・けんすけ)/株式会社creative box代表取締役
1989年福島県郡山市生まれ。2013年、@razokuloverと共に「GIFMAGAZINE(ジフマガジン)」を立ち上げる。毎月5万作品が投稿される日本最大級のGIFアニメコミュニティとなった。原宿でのGIF企画展やワークショップの開催、GIFアニメ制作の本や解説記事を執筆。GIFMAGAZINE公式クリエイターと共にアパレルやゲームメーカーのGIFアニメプロモーションを企画・ディレクションをしている。
著書:Webデザイン基礎トレーニング(エムディエヌコーポレーション)
※この記事は2017/02/27にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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