全国各地のまだ見ぬ美味しい日本酒を楽しんでいただくべく、常時約100種類、日本酒を自由に楽しめるセルフ立ち飲み店「KURAND SAKE MARKET(クランドサケマーケット)」を運営している「KURAND」。
そこで働く、Christopher Hughes(クリストファー・ヒューズ)という男性はイギリス・ロンドン出身ながら、「日本酒が好き」という思いだけで国境を越え、日本酒の魅力を一人でも多くの人に伝えるために働き続けています。
今回、そんな彼のキャリアを紐解きながら、”やりたいこと”を形にするための行動力について迫っていきたいと思います。
【プロフィール】
イギリスの大学で日本語や日本文化を勉強し、大学卒業後イギリス・ロンドンで4年間、日本食、和食材の卸売業者に勤め、日本酒専門営業を担当していました。様々な経緯を経て2014年8月に山形・楯の川酒造に入社。東京を中心に営業した後、2015年10月KURAND入社。海外へのPR担当として日本酒の魅力を世界に発信しています。
偶然、参加した勉強会で出会った日本酒と蔵元。僕は彼らが持つ「ストーリー性」に魅せられた
― クリスさんはイギリス出身ということですが、イギリスではどのような仕事をされていたのでしょうか?
クリス:イギリスでは大学を卒業した後、日本食・和食材をメインに扱う業界大手の卸売業者に入社しました。最初の1年間は、レストランのシェフやバーマネージャーのニーズを汲んで営業していたんです。
例えば、ワサビを違う業者から仕入れているレストランに行き、「うちの業者のほうが美味しいので、うちから食品を卸しませんか?」そんな交渉を行なうといった感じで仕事を進めていました。
― 最初の仕事は食材の卸売。日本酒とは、どうやって出会ったんですか?
クリス:ちょうど1年目が終わったタイミングで、会社の人から突然、「日本酒を販売する人が必要になったから勉強会に参加してほしい」と言われたんです。
当時は日本酒のことは全然分からず、言われるがまま勉強会に参加したのですが、そこで語られた蔵元の話を聞いたら、日本酒にものすごくハマってしまって。
― 日本酒のどこにハマったんでしょうか?
クリス:日本酒・蔵元が持っている「ストーリー」ですね。勉強会に参加して、生まれて初めて蔵元の生の声を聴き、蔵元にはストーリーがあることを知りました。日本の好きな県、地域、場所に蔵元があり、その場所の歴史とも関係が深く、その土地ならではの「米」と「水」で造られる。そんなストーリー性のある日本酒、蔵元に、すごく魅力を感じたんです。
とくに、日本酒の勉強会に来ていた蔵元の社長は自分の蔵の「ストーリー」を語るのが、すごく上手かった。この勉強会に参加し、日本酒・蔵元のストーリーに魅力されてからは、日本酒専門の営業活動を行っていました。4年ほど、卸売業者で働いたのですが、最後の2~3年間は日本酒の営業のみを行ってましたね。
― 具体的にどのような営業をされていたのでしょうか?
クリス:和食のお店で働く日本酒のプロを相手に蔵元と一緒に営業したり、ロンドンで自分が考えたイベントを企画したり。一人でも多くの人に日本酒の魅力を知ってもらうべく活動をしていました。
一度、離れた日本酒業界。普通の仕事をしてみて再確認できた「日本酒業界で働きたい」という想い
― 卸売業者を経験した後、すぐに日本に来たのでしょうか?
クリス:いえ、実は卸売業者で4年間働いた後、少し日本酒業界から離れたんです。2011年に東日本大震災があり、日本酒の輸入ができなくなってしまって。
自分が思ったように日本酒を取り扱えない。そこにストレスを感じてしまい、本当に日本酒業界で働きたいのかどうか、自分の思いを改めて確かめたくなり、会社を退社することにしました。
― 一度、日本酒業界から離れたんですか?
クリス:はい。ちょうど卸売業者を退社するときに、日本酒と全く関係のない会社から誘いがあって。当時は、「大きい会社で経験を積みたかった」という思いもあったので入社を決めました。 そこでは約2年間、働きましたね。
― そこから再び、日本酒業界へ。クリスさんの中にはどんな思いがあったんですか?
クリス:日本酒とは関係のない会社で働いてみたのですが、ずっと心のどこかに日本酒への思いはあって。2年間働いたら、やっぱり日本酒が懐かしくなってしまい、日本酒業界へ戻ることにしました。
ロンドンで働き続ける選択肢もあったのですが、蔵元のストーリーをもっと深く知りたいと思い、「お金を貯めて蔵元をまわって勉強しよう」と一念発起し、日本へ行くことにしました。
― 思い切った決断!なぜ、そこまで日本酒に惚れ込めたのでしょうか?
クリス:大学で日本のことを勉強していたり、交換留学で日本に来ていたりしていたこともあって、日本にも好きな場所ができていたんです。
また初めて参加した勉強会で、日本にある自分の好きな場所の歴史に深く関係しているのが蔵元だということがわかって。そして、そこにはストーリーがある。
ストーリーを知らなければ日本酒はただの飲み物になってしまう。なので、きちんとストーリーを知ることで日本酒の味をより楽しめるようになるんじゃないかと。その思いがあったので、日本へ行くことにしました。
― 留学経験がないということですが、日本語はどうやって覚えたのでしょうか?
クリス:5年間の大学生活で日本語を勉強しました。あと、実は大学4年生のときに、関西外語大学に1年間交換留学をしていたんですよ(笑)。
大学卒業後に入った会社でも、日本人の方との付き合いが多かったので、意外と日本語を使う機会は多かったんです。そこで少しずつ日本語が勉強できていたので、日本へ行くにあたって、そこまで不安はありませんでした。
― 実際に日本に来て、どれくらいの蔵をまわられたんですか?
クリス:1年間で全国の蔵元をまわり、74もの蔵を自分の目で見ました。
― 74……すごい数ですね。
クリス:ただ、蔵元をまわっているだけでは生活ができないので、日本酒業界のアルバイトも幾つかやっていました。当時、酒店で働いていたら山形県の蔵元と知り合う機会があって。偶然ですが、その場でスカウトされ、蔵元に入ることになりました。
― 蔵元ではどのような仕事をされていたのでしょうか?
クリス:蔵元では、日本酒造りも多少やっていましたが、約1年間は国内の営業として働いていました。そのとき、一緒に全国の蔵元を回っていた日本人の友人から、「会わせたい人(リカーイノベーションの社長)がいるから一緒にどう?」と誘われて。付いていってみたら、KURANDと出会ったという感じです。
そこで、リカーイノベーションの代表にお会いし、話を聞いてみたら、会社のビジョンが自分のやりたいことと同じで。すぐに入社を決めました。そのときは蔵元で国内営業として働いていたのですが、「もっと日本酒を勉強したい」「外国人に対して日本酒を広めたい」と感じていたので、KURANDはその思いが叶う環境だと感じ、KURANDで働くことにしました。
外国人にもっと日本酒の魅力を伝えていきたい。イギリス出身の自分にしか出来ない仕事がある
― 現在、KURANDではどのような仕事をされているのでしょうか?
クリス:外国人向けのPR活動を主に行っていますね。あとは、KURANDマガジンで配信されている記事の英語への翻訳や、外国人が面白がりそうなコンテンツの投稿、SNSの配信など、新しい外国人のファンを創ることを目的にした仕事をやっています。
それに加えて、日本酒を通じて国際交流ができるイベントの開催も。カジュアルな「日本人の友達を作りたい、日本酒を飲んでみたい」といった人向けのイベントと、ワークショップ形式の「日本酒を本気で勉強したい」といった人向けの両方のニーズに合わせられるイベントを定期的に開催しています。
― けっこう色々やられてるんですね。KURANDに入って、何が一番楽しかったですか?
クリス:楽しかったことですか……本当に色々ありますね。大好きな日本酒に毎日触れ合えること、日本語が好きなので日本語を使って仕事ができる、面白いストーリーの蔵元と出会える、蔵元のストーリーを語るのが大好きなので、蔵元や日本酒の深いところを話せる、イベントなどで日本酒にあまり関わりがないような人にも会えるので世界観を広げることができるなど、挙げていったらキリがないです。
KURANDでやっている仕事、全てが楽しいですね!
― 本当に日本酒が好きという思いが伝わってきました!では最後に。今の仕事を通して、日本酒の魅力をどんな人に伝えていきたいですか?
クリス:まずは、全く日本酒のことを知らない外国人にもっと伝えていきたいと思っています。美味しくない日本酒しか飲んだことがなく、日本酒にあまりいいイメージを持たない人って、意外と多くいて。
そんな人に、KURANDのお酒を紹介し、飲んでもらって日本酒を好きになってもらいたいです。そのためにも、もっと外国に広めていただける日本人が必要だと感じているので、イベントやSNSを通じて日本酒やKURANDのファンを増やしていきたいと思っています。
また、外国人がたくさん来るオリンピックという機会を逃さないことです。現在、観光に訪れる外国人の数は年々増えてきているのですが、正直、全然準備ができていません。蔵元がこれだけたくさんの外国人に宣伝できるのはオリンピックが開催されるまで。なので、KURANDがまだ他にない、完全に外国人対応ができる日本酒マーケットの代表者として活動していけるようにしたいですね!
― KURANDさんを通して、日本酒の魅力に気づける人が一人でも増えればいいなと思いました。本日はお忙しい中、楽しいお話しをありがとうございました!
(取材・執筆:新國翔大)
※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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