「保育園に落ちてしまった」――あなたもどこかでこの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
近年話題になっている、保育園にまつわる社会的な課題。それはもとをたどれば「保育士が不足している」という事実に行き着きます。いつか自分自身が直面するかもしれない、この問題。もはや、人ごとではありません。
その課題解決の糸口になるかもしれないのが、猫型の…いえ、ユニファ株式会社が開発した世界初の園児見守りロボット「MEEBO」です。そもそもロボットってどんな動きをするのでしょうか? 社会的な課題を前にして園児向けのコミュニケーション・ロボットを開発するに至った経緯について、ユニファ株式会社・代表の土岐泰之さんにお話を伺います。
話しかけて、自然な笑顔をパシャ。
「写真をとるよ~、はい、チーズ!」
コロンとした愛くるしい姿のロボットは、自ら子どもの方向を向いて、そう園児に語りかけカメラのシャッターをパチリ。そのかわいらしい仕草に、園児たちの表情も自然と豊かになります。
これは今、保育関係者の間で話題になっているコミュニケーション・ロボット。名前は「MEEBO」(ミーボ)といいます。現在は一般販売に向けて、保育園などの施設で試験的な導入が進められています。
MEEBOが撮影した園児の日常写真は、自動でクラウドにアップロードされます。顔認識機能が実装されているため、保護者は自宅のパソコンやスマートフォンなどで登録しておいたわが子の写真だけを閲覧し、そのまま購入することが可能です。
撮影した写真をプリントして、保育士が園内の壁に掲示。保護者は大量に並んだ写真の中から、自分の子どもが写っている写真を一枚一枚丹念に探し、注文を受けた保育園は、焼き増しして保護者に届ける――いろいろと便利になった現代においても、いまだこのような手間暇かかる写真の販売方法をとっている保育園が多いのだそうです。
写真を撮影した後に付帯するもろもろの雑務まで考えると、ただ写真を撮ることですら、保育士の仕事を切迫する要因になりかねません。
超売り手市場なのに保育士が足りない!?
連日メディアに取り上げられているように、保育士不足は日本における喫緊(きっきん)の課題です。
とりわけ人口の集中している東京都はかなり深刻で、2016年の有効求人倍率(求職者1人あたりの求人数)は、採用のピークを迎える1月に6倍超にまで跳ね上がったのだとか。さらに東京エリアの中でも、都心部では有効求人倍率が60倍を超えるところもあるのだそうです。
保育士は離職率も高く、資格を持っていながら保育士になろうとしない「潜在保育士」が約80万人いるなど、問題が堆積していくばかり……。
このまま保育士不足が続けば、待機児童問題の解決は困難で、女性の産後の社会復帰にも大きく関わってきます。
少子化といわれ超売り手市場にもかかわらず、保育士が足りていないのはなぜなのでしょうか――。
賃金の水準が低いなど、そこにはいくつかの要因があるといわれていますが、保育士の「事務仕事の多さ」も大きな要因の1つとなっています。日々の業務日報、保育日誌、保護者との連絡帳、指導計画などなど、保育士はさまざまな記帳業務などに追われています。もちろん園児と触れあう時間も必要ですし、お昼寝の時間なども園児の身に危険がないか目を配らなくてはいけません。
こうした保育士の激務を減らすことが、ひいては社会課題の解決につながっていくのではないか。そんな思いから、世界初の園児見守りロボット「MEEBO」は誕生しました。
起業のテーマは“家族メディア”をつくること
「もともとは、家族をテーマにしたメディアをつくりたかったのです」(土岐泰之さん、以下同)
そう話すのは、MEEBOを展開するユニファ株式会社の土岐泰之代表です。土岐さんはユニファを起業するまで商社やコンサルティング会社に勤めてきましたが、「学生のころから起業をしたい思いがあった」と言います。
「起業するにも、自分らしいテーマがなかなか見つからなかったんです。そんな状況のまま結婚して子どもが生まれたことが大きな契機になったというか…。妻と共働きでしたから、次第に共働きや子育て世帯の諸問題に自ら直面し、親子間のコミュニケーションも徐々に希薄になってしまいました。このままでいいはずはない――。
そんな日々の生活のなかで、『家族』というテーマに行き着いたのです」
ちなみに2013年5月に設立した「ユニファ(UniFa)」という社名も「Unify(一つにする)」と「Family(家族)」を組み合わせた造語からきています。
こうしてまず開発されたのが、MEEBOにも組み込まれているインターネット写真販売システム「るくみー」。同サービスはすでに全国1,300もの施設で導入されています。
単なるロボットじゃない!? 見守りAIに発展させる
「私が『家族メディア』として考えたのは、単に家族間で写真を共有するだけでなく、“普段は絶対に見られない日常写真”を見られるサービスでした。特に0~6歳児くらいの子どもをお母さんの手だけで育てていくようなことは、今の社会では成立しません。
両親、祖父母、保育園などを含めた子育てのプラットフォーム化を考えたとき、子どもの成長過程を関係者間で共有できるコンテンツにこそ、社会的に大きな価値があると思ったのです」
開発にあたり、土岐さんは保育園・保育所などへのフィールドワークを繰り返しました。フィールドワークの中で、保育の課題が「自分ゴト化されていった」と土岐さんは言います。同時に、保育の問題が徐々に浮き彫りになり、揺るぎない覚悟が固まっていきました。
その覚悟は「家族メディア」のアイデアを発展させました。現在のMEEBOには撮影機能とインターネット写真販売の機能のほか、次のような主要機能が実装されています。
●記録する 自動写真撮影(表情認識)等
●遊ぶ クイズ・ダンスなどのコミュニケーション
●命を守る 検温(付属品が必要)
なかでも土岐さんは「命を守る」機能の構想を凝らしました。MEEBOを単なるコミュニケーション・ロボットとしてとらえるのではなく、「総合的な見守り保育に寄与するAIのようなものに発展させたい」と強調します。
「QRコードを使った登降園管理や、園児の呼吸・排便の記録など、まだまだ発展の余地があると考えています。MEEBOで取得した園児の見守り情報をビッグデータ化すれば、保育士の仕事を十分にサポートできるお手伝いロボットに成長していくはずです」
このように、保育士の仕事をサポートしていく中で、近い将来、MEEBOは両親や園児にとって信頼できる「ロボット先生」という地位を確立するのではないでしょうか。
ロボットが救世主になり、トモダチになる日
さらに土岐さんは「ロボットは子どもたちにとって、最高のUI(ユーザー・インターフェイス)」だと話します。
「もちろんタブレット教材もいいのですが、やっぱり積み木のおもちゃで遊んだり、家族とコミュニケーションをとったりすることも大切にさせたい。その点、ロボットはコミュニティーの一員として参加させられますし、やがて来る、ロボットと共存していく社会にも子どもが対応できるようになると思うのです」
子ども自らがロボットに教えたり学んだり、コミュニケーションをとりながら接することで自然と思いやりの気持ちも芽生えてくる。親が知らないうちに成長する子どもの姿を、ロボットを通じて見届けることができるかもしれません。
土岐さんが社会に還元したいのは、「ロボット・プロダクト」ではなく「子育てのプラットフォーム化」としてのMEEBOの価値。
今後20代のあなたが結婚をして家族を持ったとき、子どもの安全や成長を見守るためにサポートをして共に歩んでくれるのは、このようなロボットたちかもしれません。
ただの機械ではなく、一緒に生きていくための“トモダチ”として――。
(取材・文:安田博勇)
識者プロフィール
土岐泰之(とき・やすゆき)
1980年12月28日生。福岡県出身。九州大学卒業後、住友商事のベンチャー投資部隊にてIT企業を中心に投資・事業開発に従事。外資系経営戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガーにて大企業を中心とした事業戦略/再生支援を実施。デロイトトーマツコンサルティングにて中堅企業を中心に事業戦略/会計関連プロジェクトに従事。2013年5月、保育業界を起点とした家族コミュニケーションを豊かにするポータルメディアを提供するユニファ株式会社を設立。
※この記事は2017/03/28にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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