「どんどん仕事がはかどるぞ!」「明日のプレゼン、ドキドキするな」など、私たちが日常生活で自然に使っている「オノマトペ」。
仕事中の緊張をほぐして、やる気に変えたり、営業相手に好印象を与えたり、集中力を高めたり……言葉を発することで多様な効果を生むことができると、オノマトペ研究家・藤野良孝さんは言っています。
今回はその不思議なオノマトペの効果について、そしてビジネスシーンで生かせるオノマトペについて深く掘り下げて紹介します!
オノマトペとは
まず、「オノマトペ」とはなんのことで、どんな効果があるのでしょうか?
「『オノマトペ』とは、擬音語と擬態語の総称を指します。例えば、スーパーやコンビニエンスストアのお菓子や惣菜コーナーにある『ポッキー』、『ぽたぽた焼き』、『もちもちくるみパン』、『とろ~りチーズグラタン』などの商品名は、食べたときに感じる食感をダイレクトに伝えるためにオノマトペが効果的に使われています。
オノマトペとは、言葉に言い表すことが困難な感覚的なことを表現したり、リアルなイメージを作り出すなど、多方面で有効利用されているんです」(藤野良孝さん、以下同)
オノマトペの活用例
例えば、「オノマトペ」はこんな場面で活用されているそうです。
・お笑い芸人は巧みにオノマトペを使って会話をユニークかつ臨場感あふれるように演出し、コミュニケーションの活性化に役立たせている。
・スティーブ・ジョブズはプレゼンの際、製品に注目してほしいときや製品のすばらしさを強調したいときに「ブン」というオノマトペを発声して人の注意を引きつけて、興味をそそっていた。
・ジャパネット高田社長も商品を紹介するときに、デジカメならパシャパシャパシャとシャッター音をまねて発音したり、おまけをつけるときに「こちらもつけます。ボン!」などとオノマトペを使って話にテンポをつけていた。
さらに、トップアスリートが試合などで使用するオノマトペ(スポーツオノマトペ)にはどんなものがあるかも教えていただきました。
・陸上競技ハンマー投げの室伏広治選手は「んがーっ」などの声が発せられたときの投てきが、その日のベストパフォーマンス(好記録)になることが記録から分かっている。
・アジア卓球選手権で優勝した平野美宇選手が、ラリーでサーブやスマッシュが決まった際に発する「さーっ」や、リオの卓球銅メダリストの水谷選手がラリーを制すときの「ジョーッ」の掛け声はモチベーションを促進したり、身体をリラックスさせていると推察。
・ウエイトリフティングの三宅宏美選手は、試技前に「しゃーっ」と強い声を発することで気持ちを高め集中力を研ぎ澄ませている様子が分かる。
ウンウン、知ってる!聞いたこと、あるかも! そううなずいた方も多いのでは? 普段から、私たちも何気なくオノマトペを耳にしているのです。
ビジネスシーンで使えるオノマトペ
では、ビジネスシーンで生かせる「オノマトペ」にはどんなものがあるのでしょうか? 藤野さんから今すぐ使えるオノマトペを5つご紹介いただきました。
プレゼン前→「シャー」
「スポーツの試合前に『シャー!』『ヤー!』『ダー!』など声を出して気合いを入れているシーンをよく目にしますよね。例えば甲子園に出場しているチームでは、声を出しているチームと出していないチームで勝率に違いが出ると考えられています。
これは声を強く発することによって緊張感が緩和され、やる気や気合いが高まることが関係していると推察されるから。実際に『シャー』と発音したことで、どのような効果が生まれるのか調査したデータをご覧ください」
結果:1位「気合が入る」2位「やる気が高まる」3位「楽しくなる」
「気合が入る」が14人中12人もいました。あなたも会議や交渉の前に「シャー」と口に出すことで、気合が入りパフォーマンス向上につながるはず!
営業や人間関係を良くする→「ニーッ・コッ!」
「毎日働いている職場の雰囲気は、自分を映し出す鏡だと思いましょう。先輩や上司が無愛想だとおのずと部下にも影響します。なぜならそれは、自分の顔が部下の脳に映し出されるからです。そうならないためにも、職場で人と会ったときや他の部署の人と廊下ですれ違ったときには、心の中で『ニーッ・コッ!』と唱えましょう。
『ニーッ』の音を出す口の形によって、自然と口角が上がって笑顔が作れます。それによって脳にプラスの作用が起き、感情状態が肯定的に変化します。無理にでも口角を上げていると、表情につられて気持ちがパーッと明るくなります。先人の研究において、作り笑いであってもストレスホルモンのコルチゾールを減らし、免疫力を高める効果があると言及されているのです。
私はこれによって、職場の雰囲気や営業先で相手からの印象もアップすると考えています。目の前の人をいつでも笑顔に変えられるスキルを持てば、周りはその人についていきたいと思うもの。つまり“営業しやすいから笑うのではなく、笑うから営業しやすくなる”と心得てくださいね」
不快な気分になったとき→「スー・グッ・ハーー」
「営業先で相手の対応が不快に感じる場面ってありますよね。そんなときは『スー・グッ・ハーー』という呼吸法がオススメ。怒りの感情があると頭に血がのぼる、とよくいいますよね。なので『スー』で頭の血をおなかへ意識的に持っていき、『グッ』と怒りをおなかで受け止めて、最後に『ハーー』でマイナスのエネルギーを外に吐き出すようにします。 ポイントは吸ったときの倍の長さで息を吐き出すこと。これによって、自律神経のバランスが整い、リラックスできるようになります」
通勤中の嫌な感情を吹き飛ばす→「スパッ」
「人は黙っているとついネガティブなほうへ思考が傾きがち。例えば、通勤途中に『今日の仕事つらいな』『営業の仕事が面倒くさいなあ』と考えるとします。すると仕事の集中力が散漫してしまうのです。
ネガティブなことを考えると仕事に悪い影響を及ぼすので、そんなときは『すぱっ』と声を発してください。頭の中で生じたネガティブな思いを『ス』という素早い音で切り込んで、『パッ』と外に向かって負の感情を吹き飛ばすのです。
もしもうまくいかない場合は、さらに強く唱えるのが効果的。ネガティブな感情を消すときに『すぱっ』という言葉と、『忘れよう』という言葉を比べた場合、どちらのほうがイライラを忘れられるか実験をしたところ46名中41名が『スパッ』のほうが忘れられたと答えています。
<参考データ>
すぱっが「通常の場合(忘れようの言葉)と比べた場合、どちらがイライラを忘れることができそうですか?」の調査では、46名中41名が(89%)が「スパッ」のほうを回答。(46名の学生を対象に調査)
そしてネガティブな感情を解放したら、そこにプラスの感情を上書き保存してください。方法はワクワクすることを3つ思い浮かべるだけでOK。例えば『週末は彼女とデートだ!』『今夜はぜいたくにお寿司を食べよう!』『今月のボーナスで洋服を買うぞ!』などプラスなことを考えると、気持ちもポジティブに変わります」
集中力を高めたいとき→「ジー」
「自分の人差し指を見つめながら、心の中で1~3分程度『ジー』とつぶやき続けると、だんだん頭の中にある邪念が消し去られ、1つの行動のみに集中できるようになります。このオノマトペを実践した上で仕事に入ると、普段よりも効率よく作業に取り組めますよ」
相手のやる気を生み出すオノマトペ活用術
ここまでは自分自身に向けた「オノマトペ活用術」をご紹介しました。では、相手との会話の中で「オノマトペ」を使うと、どのような効果が生まれるのでしょうか。
「人は言葉の意味に反応します。例えば作業が遅い人に対し『もっと早くやってくれる?』と言った場合、私たちは『早く』という言葉に反応して『偉そうだなあ』『作業が遅いと思われてるのかな』など、ムッとした感情が生まれやすい。それをオノマトペを使って『パパッとやってくれるかな』と置き換えるだけで、相手に不満を与えず、言われたほうは早く行動しようと頑張ります」
「早く」→上から目線に聞こえがちで、相手の反感を買いやすい。
「パパッ」→明るい印象の音により、テキパキ行動するようになる。
他にどのような活用方法があるのでしょうか?
「この調子で頼むね」→「この調子でドンドン頼むね」
「今週もよろしくね」→「今週もジャンジャンよろしくね」
「この感じでお願いね」→「この調子でグイグイお願いね」
「僕の場合は褒めることをモットーにしているので、自信をつけさせる上でも『オノマトペ』は非常に有効なんです。例えば、『この調子で頼むね』という言葉に『この調子でドンドン頼むね』とオノマトペを加えることで作業テンポが上がり、プラスの感情が生まれるようになります」
オノマトペパワーでキラリと輝くビジネスパーソンへ!
「ものは言いよう」とはまさしく「オノマトペ」のこと。同じ言葉でも、オノマトペをうまく取り入れ活用することで、仕事の効率も上がり好印象を与えることができるそうです。シチュエーションによって使い分ければ、あなたの潜在能力をメキメキ発揮できるようになるかもしれません。
今日から実践できるオノマトペ、皆さんもサクッと試してみてくださいね。
(取材・文:真貝 聡)
識者プロフィール
藤野良孝(ふじの・よしたか)
朝日大学保健医療学部健康スポーツ科学科准教授。早稲田大学国際情報通信研究センター招聘研究員、早稲田大学ことばの科学研究所 研究員。
2007年文部科学省所管独立行政法人メディア教育開発センター研究開発部助教、東京田中短期大学こども学科非常勤講師、2009年朝日大学経営学部ビジネス企画学科准教授、2014年スポーツ言語学会理事などを経て現職。
※この記事は2017/06/19にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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