■トラブル回避のために、就業規則が重要
そもそもなぜ、退職時に就業規則をチェックする必要があるのでしょうか。
「就業規則とは、労働条件や職場の服務規律を定めた、使用者と労働者との間のルールブックというイメージがあります。加えて、『職場の労働条件を平等に保つためのルールブック』という観点も持っておくとよいでしょう」(榊さん 以下同)
退職条件で自分だけ不利に扱われることを避けるために、就労規則をきちんと知っておくことが大切なのですね。上司に退職を伝えるときにも、規則を理解できていれば、理不尽な要求にもすぐに気づくことができます。
■トラブルごとの対処法
それでは、トラブルを避けるために就業規則のどの部分を、どのようにチェックすればよいか、退職時に起こりがちなトラブルごとに見ていきましょう。
1.退職日を会社の都合の良いように決められてしまう
「自己都合退職の申出を定めた部分をチェックします。『退職を希望する日の1~2カ月以上前に申し出るように』と定めている会社が多く、『賃金が日給制の場合は申し出から14日経過後、月給制の場合は月の前半に申し出れば当月末、月の後半に申し出れば翌月末をもって退職できる』とする法律よりも労働者に不利です。
しかし後任者への引き継ぎや関係者へのあいさつなどには通常1カ月程度はかかると思われますので、円満退職のためには、できる限り会社のルールを守るようにした方が良いでしょう。しかし、それを守った上でも会社が退職を認めてくれないような場合や、退職日をずるずると引き延ばされる場合は、法律に基づき、労働者側の意思表示のみで、合法的に雇用関係を終了させることができます」
2.会社が退職を認めてくれない
「法律の手順を守り雇用関係を終了させようとしても、『退職は認めない』と恫喝をされたり、『やめるなら損害賠償を請求する』と脅しをかけられたりして、事実上退職が困難となる状況も考えられます。そこで、そのような場合には行政機関に助けを求めることを考えます。最初に相談すべきは労働基準監督署。自社を管轄している労働基準監督署に、退職の意思表示をしても認められない事情を話せば、会社を指導してくれるでしょう。
それでも効果がない場合は、労働基準監督署の上部機関である労働局に相談することができます。労働局では会社を指導することに加え、『あっせん』という方法で、専門家の仲介によって労働者と会社が話し合いで問題の解決を図る場を提供してくれます。労働基準監督署や労働局といった行政機関が間に入っても問題が解決しない場合は、最終手段として、裁判所で法的解決を図ることになります」
3.有給休暇の消化を認めてくれない
「年次有給休暇の付与日数を定めた部分をチェックします。有給休暇を消化して退職したい場合は、自分が持っている有給日数が何日あるのかを確認し、引き継ぎと有給消化が両立できるようなタイミングで退職日を申し出るのが、円満退職のためのマナーです。例えば、『2月いっぱいは引き継ぎをし、3月は有給を消化して、3/31付で退職します』と、1月時点で申し出るようなイメージです。なお、就業規則に有給休暇のことが書かれていない場合でも、少なくとも労働基準法に定められた日数分(労働基準法第39条)は法律上当然に権利が発生していますので、労働者が求めているにもかかわらず、会社が退職時に有給消化を認めないことは違法行為です」
4.退職金制度があるにもかかわらず支払われなかったり、不当に減額される
「就業規則と別冊になっていることも多いのですが、退職金規定をチェックします。退職金規定に基づいて自分で退職金額を試算し、その金額で間違いないかを人事部の担当者などにあらかじめ確認しましょう。退職金規定に具体的な計算式が示されていない場合や、退職金規定そのものがない場合でも、職場の慣習としてこれまで退職した人に退職金が支払われていたならば、法的には自分も同じ条件で退職金の支払いを受けられるので、会社の恣意的な判断で退職金を受け取り損ねることがないように気を付けましょう」
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■セクハラやパワハラなど、やむを得ない理由からすぐに退職したい場合
退職時のトラブルを避けるための、就業規則の見方をみてきました。しかしセクハラやパワハラなど、「どうしてもすぐに退職したい!」という場合もあるはず。その場合、やはり就業規則で定められた期間は会社にとどまらなければならないのでしょうか。
「以下のような場合には、即時に退職をすることが可能です」と榊さんは言います。「まず、期間の定めのある労働契約(※1)の場合ですが、『やむを得ない理由がある場合』は即時に退職ができるとされており(民法第628条)、セクハラやパワハラはここでいう『やむを得ない事由』に当たるとされています。
次に期間の定めのない労働契約(※2)の場合ですが、即時退職を定めた法律上の規定はありません。しかし、セクハラやパワハラにより心身に危害が及びそうな場合は、緊急避難や公序良俗といった法律の一般原則の趣旨から、即時退職は当然に認められると考えられます。
また、期間の定めのある/なしにかかわらず、労働契約を結んだときに明示された条件と、実際の労働条件が異なっていた場合にも、即時退職が認められています(労働基準法第15条)。サービス残業の強要、有給休暇の取得拒否、基本給の一方的なカットなどが、本条に基づく即時退職が認められる場合の代表例でしょう」
勤めてきた会社を退職することは、同僚や上司を裏切るようで多少の後ろめたさを感じるかもしれません。しかし退職は、就労規則や法律で認められた権利。今回学んできたようにきちんとルールにのっとることで、トラブルを起こすことなく、円満に退職することができるのです。近いうちに会社を辞めようと思っている方も、そうでない方も、改めて自分の会社の就業規則をチェックしてみてはいかがでしょうか。
(※1)期間の定めのある労働契約…契約社員やパート・アルバイトなど
(※2)期間の定めのない労働契約…正社員
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識者プロフィール
榊裕葵(さかき・ゆうき)/ 特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表)
上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。
※この記事は2014/07/24にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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