働いていると、コミュニケーション力は業務を円滑に進めるうえで大切です。本連載では、心理学の法則に基づいて、さまざまビジネスコミュニケーションの悩みを解決! 連載第1回目は、心理的なハードルの高い「断る」こと。人間関係に影響を与えずスマートに断るために「DESC法」と「熟知性の法則(ザイオンス熟知性の法則)」を活用しましょう。
断るための条件をそろえて主張をする――「DESC法」
気の進まない飲み会に誘われたあなた。そんなあなたにおすすめしたいのが、「アサーション」です。直訳すると「自己主張」になりますが、心理学的には、自他双方を大切にした率直な自己表現を意味します。
例えば、次のような状況に困ったことはありませんか?
「タイトなスケジュールの仕事をいくつも依頼された。他の人は割と暇そうなのに、自分にばかり依頼が来ている。『デキる人には仕事が集中する』と言われることもあるけど、なんだか納得いかない……」。
こうしたとき、あなたならどうしますか? 次の2つのうち、自分に近いものを選んでみてください。
タイプ①
「これ以上無理です!」「なぜ私にばかり仕事を振るんですか?」などと、怒りの感情を込めながらはっきり伝える
タイプ②
「自分が我慢すれば丸く収まるなら、やるしかないな」とあきらめ、何も言わずに引き受ける
タイプ①の伝え方なら、自分の意思をはっきり伝えることができますが、攻撃的すぎて相手の気分を害してしまいます。一方、タイプ②のままでいると、「何でも引き受けてくれる人」という印象を持たれ、負担が増える一方です。
つまり、どちらも上手なコミュニケーションとは言えません。角を立てずにスマートに断りたいなら、ぜひ「アサーション」で交渉しましょう。アサーションのひとつである、「DESC法」という4ステップの交渉術について、手順をご紹介します。
① D(Describe)…状況を客観的に描写する
例)現在AとBの仕事を抱えていまして、納期がそれぞれこのようになっています。
② E(Express)…主観的な意見を伝える
例)この状況の中でCも引き受けてしまいますと、私の限界を超えてしまいます。
③ S(Specify)…建設的な提案をひとつ挙げる
例)可能であれば、Cの仕事を別の方にお願いすることはできないでしょうか?
④ C(Choose)…別の選択肢を挙げる
例)もしくは、Cの仕事の納期を1週間ずらしていただけないでしょうか?
このように「DESC」の4ステップで交渉すると、相手の気分を害さず、自分の負担も増やさずに、建設的な交渉を進めることができます。繰り返すとスムーズに言えるようになりますので、ぜひ身近な困り事からトライしてみてください。
断っても相手に悪く取られないために――「熟知性の法則」
いくら「DESC法」のような交渉術に長けていても、それだけでは人との良好な関係を保つことはできません。雰囲気の良いコミュニケーションを進めるために大切なことは、相手に自分の存在を印象良く受け止めてもらうことです。
そのためには、日頃からフェイス・トゥ・フェイスで関わり、何でも話し合える関係になっておくことが基本。米国の心理学者ザイアンスの研究によると、人は相手のことをよく知るほど好感を持ちやすいということが分かっています。これを「熟知性の法則(ザイオンス熟知性の法則)」と言います。
もし、あなたがよく知っている人とよく知らない人から、飲み会への誘いや仕事の依頼を断られたとき、どちらの方をより印象悪く受け止めますか? よく知っている人から断られたときには、「やむを得ない事情があるんだな」と素直に受け止められる一方で、よく知らない人から断られると、「頼みにくい人だな」「付き合いの悪い人だな」というマイナスの印象を持ちやすいのではないでしょうか?
つまり、普段から自分のことをよく知ってもらっていれば、気の進まないことを断ったときに悪く勘繰られることは少なくなります。そのためには、日々のコミュニケーションの積み重ねが大切です。ぜひ、「DESC法」と併せて心がけてみてください。
プロフィール
産業カウンセラー
大美賀直子
メンタル&マインドコンサルティング代表。産業カウンセラー、公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタントの資格を持つ。「こころと人生と人間関係」のベストバランスを提案するカウンセラー、セミナー講師として活動する。ストレスマジメントに関する著著・監修多数。
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