原因不明のパニック発作を繰り返す「パニック障害」
パニック障害は、身体的な問題はないにも関わらず、突然に過呼吸や動悸、頻脈、手足のしびれ、ふるえなどのパニック発作が起き、その後にも「またパニック発作が起きてしまうのではないか」と強い苦痛や不安などを感じ(予期不安)、パニック発作が起こりそうな状況を避ける行動(回避行動)をとってしまう病気です。その発作の症状は劇的に重く、発作中は「死ぬのではないか」「命の危機を感じる」という人も多いようです。
パニック障害の特定の原因は不明ですが、ストレス症状の現れとも言われています。特定の場所を訪れたり、特定のシチュエーションに遭遇したりする場合に発作を起こしてしまうことが多く、「電車に乗るとパニック発作が起こる」というように、その人特定の発作を引き起こす条件などがあるようです。しかし、その条件に特に思い当たる原因があるわけではないというケースも多いそう。いろいろなストレス要因が積み重なり、自分の中で抱えきれない状況になった時、パニック発作という身体症状が現れてくるという人が一定数います。男性でも女性でも、多くの方に起こりうる病気です。
特定のシチュエーションを避けることで、発作を回避。周囲の理解で働きやすく
その患者さんにより、パニック発作が出るシチュエーションは特定されているので、その場所やシチュエーションを避けることにより、発作の頻度を下げていくことができます。満員電車でパニック発作が起こるようであれば、出勤時間をずらして満員電車を避けるなどの対応をするといいでしょう。「緊張が強いので、このような対応をさせてください」などと、事前に周囲の方に伝えておくのがベストです。
産業医に相談すれば、会社にもそういった対応を認めてもらえることもあります。そのような個別の対応が可能になることで、「またパニック発作が起こるのではないか」とい不安感を減らしていくことができます。メンタル系の病気を周囲に伝えるのには抵抗があるかもしれませんが、周囲に理解してもらうことで、患者さん自身が楽に働けるようになります。
「パニック障害」の同僚には、配慮が重要。病気を理解してサポートを
満員電車に乗れない、テーブル席の端に座れない、タクシーに一番先に乗れない、などパニック発作を引き起こす原因はその患者さんによってさまざまです。ちょっとした配慮を受けることで、パニック障害の患者さんのつらい状況は緩和されていきます。パニック障害の患者さんが周囲にいる場合、発作を引き起こすシチュエーションをなるべく避けてあげるようにしたいものです。
業務上避けられないシチュエーションが発作を引き起こす可能性がある場合は、そういった業務を担当させない、という選択も必要です。産業医が上司の方と患者さんの間に入って、必要な配慮についての説明をすることなどもできます。役職者の方にパニック障害の知識を深めるためのレクチャーを行ってもらうなど、誰もがかかる病気だと知ってもらうことも有効です。
「曝露療法」で少しずつ恐怖に向き合うトレーニングを
治療には「薬物治療」や「曝露療法」などが有効です。この「曝露療法」は、患者が怖いと思うシチュエーションに、簡単なレベルから少しずつ向き合わせていくことです。たとえば、電車に乗ることでパニック発作が起こるという患者には、すいた電車に一駅だけ乗ってもらう。一駅乗れたら、次は二駅乗ってもらう。このように、患者が怖いと感じる状況に少しずつ晒していき、曝露の時間と回数を少しずつ増やし、慣れさせていくといったトレーニングです。こうやって、患者がコントロールできるレベルを少しずつ引き上げていくことで、そのシチュエーションに耐えられるようにしていくのです。
このパニック障害は男女問わず、100人のうち1~2人がかかる可能性のある病気です。長時間労働などによるストレスや、過労や睡眠不足なども原因になる可能性があります。発作を避けるための周囲の理解、適切な治療なども重要なので、身体的な問題はないのにパニック発作を何度か起こすようなことがあれば、気軽に産業医やメンタルクリニックに相談をしてみるようにしましょう。
【監修】
尾林 誉史●「VISION PARTNER メンタルクリニック四谷」院長/VISIONER。精神保健指定医。日本医師会認定産業医。
東京大学理学部化学科卒業後、大手人材会社に入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。現在、10社の企業にて産業医およびカウンセリング業務を務める他、メディアでも精力的に発信を行っている。
文=松村知恵美
編集=五十嵐 大+TAPE
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