「これまで雑談力に関する研修やセミナーにいらした受講生の中で多かったのは『人見知りなんです』『あがり症なんです』『説明が下手なんです』という方々。雑談が苦手な理由はほとんど、この3つの理由に絞られました。そんな方々には、日常生活で誰にでもできる簡単なトレーニングがあります」と桐生さん。一体どんな内容なのでしょうか?
「まず、会話の先手を取るトレーニングです。『先手』というと難しく感じてしまうかもしれませんが、要は自分から会話をスタートすることです。人と会話するシーンでは、常に自分から会話を始めてみてください。質問するのが難しければ、あいさつだけでも構いません。人間は、相手から先にあいさつしてもらう方が気持ちいい。気持ちいいことを先にやってあげると、その場が良い空気になるのです。にっこりと微笑むだけでも構いません」(桐生さん・以下同)
レストランやカフェでも、入店したときに自分から声をかける必要があると、ちょっと残念な気持ちになるもの。店員さんの方から笑顔で「いらっしゃいませ」「こんにちは!」と言ってくれると、気遣ってもらえている気がして、やはり嬉しいものです。まずは自分から先手を打ってみましょう!
仕事の飲み会で、雑談下手な人の役割とは?
雑談下手の方が苦手なのが、仕事の飲み会。口を閉じたまま「早く終わらないかな…」なんて願っている方もいるでしょう。でも、今よりも雑談への苦手意識が薄れれば、居心地も良くなるほか、職場の人間関係改善にもつながるはずです。そんな飲み会の場で、雑談下手な人はどう過ごせば良いでしょうか。
「雑談下手な方ほど『話す人にならなくてはいけない!』と思い込んでいることが多いです。でも、雑談は決して、話すだけの場ではありません。目的は、その場が誰にとっても心地よく、温かい場所になること。もし、話し上手の人ばかりが集まる飲み会があったらどうでしょう? 全員が話したいことをしゃべってばかりでは、心地よい場所にはなりにくいと思います。人には、場に応じた役割があります。複数人が集まる場では『回す人』『聞く人』『話す人』の3つの役割があるので、話すことが苦手なら、まずは『聞く人』に徹してみるのがおすすめです」
聞く人の役割を担った場合、ただうなずいているだけでは壁の花になってしまうことも。そんなとき、自分の存在をアピールするのに適した方法があるとか。
「ただ聞くだけではなく、リアクションを大きめにしてみましょう。上半身ごと動かしてうなずいたり、大きく手を叩いてみたりと、リアクションを大きくします。また、話に対して『すごいですねえ』と反応したり、『どういうことですか?』と質問してみてください。それによって、回す人があなたの存在に気付きやすく、話を振ってもらえることもあるでしょう。まずはリアクションから慣らしてみてください」
観察眼を養うために試したい「パントマイム雑談」とは
桐生さんの著書『雑談の一流、二流、三流』(明日香出版)を読んでいると、優れた観察眼にも驚かされます。雑談上手になるには、やはり観察力も必要でしょうか?
「観察力は雑談する際の助けになりますね。普段から、目の前で話している相手の反応を注意深く見ておくと良いでしょう。前のめりで聞いているのか、引き気味で聞いているのか? 顔や肩に力が入っていないか? 相手が会話に興味を持って楽しんでいるかどうかを察することができるようになれば、心地よいと思ってもらえる雑談ができるようになるはず。そのためのトレーニングとして、私たちの研修では『パントマイム雑談』をしています。二人一組になり、片方は一言も発さずに口パクで何かをしゃべり続け、もう片方は表情や身振り手振りからその内容を感じ取って、何を話していたかを当てるゲームです。感じ取る練習なので、答えが間違っていても構いません。雑談が苦手な方は、ぜひお友だちや家族と試してみてください」
雑談は30秒が命⁉バラエティ番組で雑談のコツをつかもう
ところで、桐生さん自身はどのようにして雑談力を磨いているのでしょうか?
「TVのバラエティ番組は、雑談の塊です。テンポやリズム、動きの良い勉強になります。雑談は長くても30秒以内で会話を回すと、飽きることなく会話が続きます。バラエティ番組を見ていると、句読点が短い方、つまり短文でパッと答える方の方が、会話に変化がついて飽きにくいですね。自分ならどう答えるかを意識しながら見ると、話を振られたときの反応や場の温め方、ちょうど良い間合いなどのヒントがつかめますよ」
さらに、自分が「話を振る人」になった場合の勉強にもなるそうです。
「司会者の方を見ると、人に話題を振るときの参考になります。明石家さんまさんのMC力は神業です。30秒でボケて、30秒で話を振って、30秒で相手にボケさせて、30秒でそれを回収する。雑談を回すときの勉強になるので、参考にしてみてください」
雑談がすぐ終わってしまう人のための「ツープラス」の仕掛け
雑談に慣れるために、頑張って話を振ってみても、すぐに会話が終わってしまう…というお悩みは多いかもしれません。桐生さんには、話が途切れない「ツープラス」というコツがあるそう。
「私が推奨しているのが『ツープラス』という仕掛けです。ただ『おはようございます』『初めまして』と声をかけるだけだと、相手がそれを返しただけで会話が終わってしまいますよね。次のように、あいさつに加えて必ず、ふた言追加するだけで、相手が話しやすい空気を作ることができます」
【上司とのあいさつ】
「おはようございます。昨日は遅くまでありがとうございました」
↓
「おはようございます。昨日は遅くまでありがとうございました。しかし部長、本当にタフですね!」
【お客様とのあいさつ】
「初めまして。お会いできて光栄です」
↓
「初めまして。お会いできて光栄です。お噂はかねがねお聞きしておりました」
挨拶は雑談の始まり。ふた言プラスするだけで会話に広がりが出て、次の話の展開が生まれます。会話が続かない方は、ふた言付け加えることを意識してトレーニングしてみると、良いかもしれません。
オンライン会議が、雑談力を磨くための場となる!
最後に、オンラインでのコミュニケーションについてお聞きしました。意外にも、オンライン会議や打ち合わせは、雑談力を鍛えるトレーニングの場として活用できるようです。
「オンラインでは、視覚情報が圧倒的に優位になることを覚えておきましょう。対面よりも聴覚や肌感覚(相手の温度)を感じ取りにくいので、普段通りでは無感情に見えてしまいます。ここで役立つのが、『先手を打つ』ことと『聞くときの大きなリアクション』です。相手が画面に現れたら、すぐに笑顔であいさつすることで先手を打ちましょう。さらに、表情も身振り手振りも普段以上に大きくすると、相手に感情が伝わって、その場が良い空気になります。トレーニングの一種だと思って、やってみてください」
特にビジネスシーンで雑談力を必要とする人は、どうしても一足飛びに「話し上手になりたい」と思うもの。でも「話さなくては」と思えば思うほどハードルが高く、雑談力は鍛えられません。いきなり難しいことにトライするのではなく、簡単なところから少しずつトレーニングを重ねていきましょう!
<識者プロフィール>
桐生稔
株式会社モチベーション&コミュニケーション代表取締役。
1978年生まれ。新卒で大手人材派遣会社に入社するも、極度な人見知りが原因で左遷。そこから一念発起し、売り上げ達成ナンバーワンを実現する。その後、音楽スクールに転職し、350名の講師をマネジメントする。2017年に株式会社モチベーション&コミュニケーションを設立。社会人のリアルコミュニケーション力を向上すべく、全国でセミナーや研修を開催している。著書に『10秒でズバッと伝わる話し方』(扶桑社)、『雑談の一流、二流、三流』(明日香出版)がある。
https://www.motivation-communication.com/
取材・文=富永明子(サーズデイ)
編集=村田智博(TAPE)
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