傾聴力は鍛えられる!コミュニケーションの鍵を握る「傾聴」を身につけるには

傾聴力とは、ただ話を聴くだけではなく、相手のことを理解し受容するためのスキル。傾聴力を磨くことにはビジネスシーンでもプライベートでも大きなメリットがあります。コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんに「傾聴力」について伺いました。

傾聴力とは

皆さんは人の話をしっかり聴くことができているでしょうか。話を聴くだけなんて簡単だと思っている人もいるかもしれませんし、自分は「聴き上手」で「リアクションには自信がある」と思っている人もいるかもしれません。

「傾聴力」とは、ただ話を聴くだけではなく、相手のことを理解し受容するためのスキルです。私たちは話を聴いているときに、つい自分の価値観で判断してしまったり、自分の考えを話してしまったりしがちです。

しかし、そのような話の聴き方は「傾聴」とは言えません。傾聴は奥が深く簡単にはできないものです。ですが、そのぶん傾聴力を磨くことにはビジネスシーンでもプライベートでも大きなメリットがあります。どんなメリットがあるのか見ていきましょう。

傾聴力を身につけるメリット①:良好な人間関係の構築

相手の話をしっかり聴けるようになるメリットとして、良い人間関係の構築が挙げられます。上手に傾聴ができるようになると、語り手の「理解されたい」という欲求や「認めて欲しい」という欲求を満たすことができます。上手にあいづちを打って共感を伝えることによって、聴き手に対してより好感がもてる先行研究もあります。

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傾聴力を身につけるメリット②:ビジネスシーンで重宝する

傾聴には相手が話しやすくなる効果もあるため、ビジネスシーンにおいてもメリットがたくさんあります。例えば問題の把握がしっかりできること、隠されたニーズに気付けること、隠し事を減らせることなどが挙げられます。ビジネスシーンにおいて、的を射た良い提案をするためにも、傾聴は重要なスキルと言えるでしょう。

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傾聴力を提唱した「ロジャーズの三原則」

「ロジャーズの三原則」とは、臨床心理の世界で有名なカール・ロジャーズの理論で、日本でも1960年頃からセラピストの間で流行しました。専門職の人でも正しい理解が難しく、技法だけが表面的に伝わって衰退してしまったとも言われています。

しかし、傾聴力と言えばやはりロジャーズという人も少なくありません。ロジャーズの三原則のアウトラインと私たちが話を聴くときに応用したいポイントを確認しておきましょう。

ロジャーズの三原則①共感的理解

哲学的なニュアンスも含んだロジャーズの三原則を短い文章で表現するのは難しいです。それを承知の上であえて意訳するなら、「共感的理解」とは「その人の内なる世界をあたかも自分のことのように感じること」といったところでしょうか。

傾聴を活用する身近なシーンに例えて言うならば「その人に起きたことをまるで自分に起きたことのように感じながら聴く」というのが近いかも知れません。

ロジャーズの三原則②無条件の肯定的関心

ロジャーズは1940年に発表した論文の中で「批判されることなく受容されるような状況では、人間は防衛することなく、次第にリアルな自己を認めるようになる」(筆者意訳)と述べています。また著書には「あらゆる道徳的あるいは審判的な態度を取ることなく」「一切の探究、批評、賞賛、および解釈を避けること」といった記述もあります。

これらを踏まえると、「無条件の肯定的関心」とは「どんな話の内容であっても、ジャッジすることなく関心を持って肯定的に聴くようにする」とも言えそうです。傾聴を身近なシーンで活用するときには、話をさえぎらないようにすることから始めてみるといいでしょう。

ロジャーズの三原則③自己一致

「自己一致」には複数の解釈があります。例えば「話し手の意図と自分の理解を一致させること」や「あるべき姿と現実の姿を一致させること」といった解釈もあります。

筆者が注目したのは、1957年にロジャーズが発表した論文の「話を聴いているときにたとえネガティブな感情が湧き上がってきても、それを否定することなくそのままの感情でいることができれば、自己一致は満たされていることになる」(筆者意訳)という記述です。身近なシーンで活用するときには、自分自身の感情をありのままに受け容れるようにしてみましょう。

ロジャーズは、態度などのニュアンスが誤解されることが多いこと、形式的な話の聴き方だけが広まって本質が見逃されてしまっていることを、かなり強めの言葉で記述しています。今回ご紹介した意訳でロジャーズの3原則に興味を持った人は、ぜひロジャーズ自身が書いた著書や論文などにあたって確認してみてください。

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傾聴には3つのタイプがある

話の内容や場面によって適切な聴き方は変わりますが、基本として知られている3つのタイプを知っておくのは良い方法です。自分が普段どんな聴き方をしているのか。人に話をするときに、どんな聴き方をされると話しやすくなるのか。具体的にイメージしながら、3つのタイプを確認してみましょう。

傾聴のタイプ①受動的傾聴

相手の話を受け身で聴くタイプの傾聴です。具体的には「はい」「えぇ」「そうだったんですね」などのあいづち詞を中心に応答します。自分の意見を言ったり、質問したりといったリアクションは使わず、相手の言うことに耳を傾けるイメージです。

あいづちは理解していることを伝えるために使います。謙遜や自己卑下などを含む話を聴くときには、相手の言うことを肯定していいのか、否定していいのか判断しにくいものです。そういったときでも、この聴き方は強い味方になってくれます。

傾聴のタイプ②反映的傾聴

相手の話に寄り添って聴くタイプの傾聴です。理解を伝える「はい」「えぇ」などのあいづち詞に加えて、相手の言ったことの繰り返しや要約を使います。

例)「今月は期末だっから、残業や休日出勤もあって、とにかく忙しかったんですよ」「とても忙しかったんですね」

あいづち詞だけを使う聴き方よりも、理解していることが伝わりますし、話す側がより話しやすくなる効果に期待できます。声のトーンや表情も意識すれば、共感を伝えることも可能です。

傾聴のタイプ③積極的傾聴

ただ話を聴くだけでなく、質問などを交えながらより深い理解をしていく傾聴です。理解をしていることを伝えるあいづち詞や、気持ちに寄り添う繰り返し・要約などに加えて、質問や促しの言葉なども用います。

受動的に聴く傾聴とは違い、聴き手の発話は増えますが、批判やアドバイスなどはしません。相手の言葉の背景や、本人も気付きにくい部分まで理解するように耳を傾けます。

傾聴力がある人・ない人の違い

傾聴力がある人は、相手と真摯に向き合い、肯定的に受容する聴き方ができます。それに対して傾聴力がない人は、批判やアドバイスをするなど、相手の話をさえぎるような行為をしがちです。

もう一つ分かりやすい見分け方として、発話時間があります。相手の話を聴いているつもりが、いつの間にか自分の話が多くなってしまう人を思い浮かべると、傾聴力がない人をリアルにイメージしやすいのではないでしょうか。

傾聴力を鍛える3つの方法

良好な人間関係を維持するためにも、さまざまな問題に対処するためにも傾聴力は重要です。苦手な人も練習によって改善することができますので、この機会に取り組んでみませんか。コミュニケーションには相互作用があります。意識してやってみることで、相手からの反応が変わるのを感じるはずです。

傾聴力を鍛える方法①非言語を活用して聴いていることを伝える

非言語を活用して、肯定的に受容する気持ちを伝えましょう。身体は相手の方に向け、アイコンタクトを取ります。頷きを上手に使いましょう。

頻繁に速く頷くのではなく、目を見てゆっくりと頷くのがコツです。特にネガティブな話や深刻な話を聴く場合には、意識してゆっくり頷くようにしましょう。

貧乏ゆすりや腕を組むことが癖になっている人は、手足を無駄に動かさないように注意します。こうした身体的な態度を整えることで、心理的にも聴く態度が整いやすくなります。

傾聴力を鍛える方法②感想やアドバイスは控える

「それは気にし過ぎじゃないの」「俺の時代なんてそんなもんじゃなかったぞ」「もう少し我慢してみた方がいいよ」など、話を聴いているときについ感想やアドバイスを口にしたくなる人は少なくありません。

傾聴力を改善するには、相手に起きたことをあたかも自分に起きたことのように聴くことが大切です。相手の話をさえぎるようなリアクションをしないよう、十分気を付けましょう。特に部下や子ども、配偶者などの話を聴くときには、自制するようにしましょう。

傾聴力を鍛える方法③あいづちのバリエーションを増やす

単調なあいづちで話を聴くよりも、あいづちのバリエーションが多いときの方が、話し手が共感されているように感じたり、話しやすくなったりといったポジティブな効果が出やすくなります。

「はい」「そうなんですね」といった理解を伝えるあいづちだけでなく、「そう言われたのが辛かったのですね」といった相手の気持ちに寄り添うようなあいづち、また相手が話したことを言い換えるようなあいづちや質問なども使いながら話に耳を傾けましょう。

傾聴力は相手のためでなく自分のためにも

カウンセラーのような聴き方を目指す必要はありませんが、相手の話にしっかり耳を傾けられるようになると、ビジネスでもプライベートでもいい影響が出てきます。あいづちをうまく使って話を聴く人は、話し手から魅力的に感じられる傾向もあります。

相手のためになるだけでなく、自分のためにもなる傾聴力は一生モノのスキルと言っても過言ではありません。最初は難しく感じるかもしれませんが、慣れれば比較的容易にできるようになりますので、今日からぜひ意識して取り組んでみてください。

【プロフィール】
藤田尚弓(ふじた なおみ)
株式会社アップウェブ代表取締役、コミュニケーション研究家、コラムニスト。さまざまな領域に散見するコミュニケーション研究の調査整理、アウトリーチ活動を行う。また、テレビ出演・監修、雑誌などへのコンテンツ提供も多数。著書に『銀座で学んだ稼ぐ人のシンプルな習慣(総合法令出版)』『NOと言えないあなたの気くばり交渉術(ダイヤモンド社)』。近著に『いい人間関係は「敬語のくずし方」で決まる(青春出版社)』。

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