- 「メタ認知」とは?その概要を解説
- メタ認知は大きく2つに分類できる
- メタ認知能力がビジネスで必要とされる理由とは?
- ビジネスにおいてメタ認知能力を高めるメリット
- メタ認知能力が高い人にはどんな傾向がある?
- 逆にメタ認知能力が低い人にはどんな傾向がある?
- メタ認知能力を鍛えるトレーニング方法
- メタ認知能力を高めるときの注意点
- メタ認知能力を高めて仕事に活かそう
つい感情的になってしまう、自分の考えをうまく説明できない。そのような状態から抜け出すためには、「メタ認知」の能力を鍛えることが重要です。そこで今回は、公認心理師の川島達史さんに伺ったお話を基に、メタ認知の概要やビジネスで必要とされる理由、メタ認知能力を高めるメリットや鍛え方などについて解説します。
「メタ認知」とは?その概要を解説
メタ認知とは、「自分の思考や感情を、客観的に捉えられること」を指す言葉です。
メタ認知を提唱したのはアメリカのジョン・H・フラベル
1976年、アメリカ心理学会の発達心理学部門で会長を務めていたジョン・H・フラベルによって「メタ認知」の概念が提唱されました。
子どもの知能発達を研究する中で、3歳児と5歳児のメタ認知能力を調べたところ、明確な違いがあることを発見。以来、数多くの学者によって研究されています。
現在では、子どもに限らずすべての人のメンタルヘルスにメタ認知能力が関わっていることが知られています。
メタ認知は大きく2つに分類できる
メタ認知という概念は、大きく2つに分けることができます。それが、「メタ認知的知識」と「メタ認知的技能」です。
メタ認知的知識
メタ認知的知識とは、自分の価値観や考え方、感情などの特徴を理解している(知っている)ことを指します。
例えば、「自分はプレゼンなどで上手に話すのは苦手だけれど、傾聴力には自信がある」と認識できていれば、それはメタ認知的知識がある状態だといえます。
メタ認知的技能
メタ認知的技能とは、メタ認知的知識によって自分の特徴を理解したうえで、その特徴を問題解決や計画達成に活かせる能力のことを指します。
例えば、「自分は傾聴力が高いから、チームの問題を把握してチームメンバーたちのメンタルヘルスを向上させられそうだ」などと考えられることが、認知的技能がある状態といえます。
メタ認知能力がビジネスで必要とされる理由とは?
ビジネスシーンでメタ認知能力が必要とされる背景には、時代とともに働き方が変化してきたことが大きく関係しています。
工場にロボットが導入されたり、データ処理を自動化したりと、人間に求められる単純作業は年々減ってきています。今後もその傾向は進んでいくでしょう。
その一方で、AI(人工知能)の台頭によって、人間ならではの思考や感情が複雑に絡む仕事が重視されていくはずです。
例えば、自分が管理職で、職場の離職率を下げることが求められている場合を考えてみてください。
メタ認知能力の低い管理職は、給与をアップしたり残業を減らしたりといった表面的な対策をするだけで、「なぜ離職率が上がったのか」という原因をうまく探ることができないでしょう。
しかし、メタ認知能力の高い管理職であれば、「上司が高圧的だからなのでは」「働き方の自由度が低いからでは」といった、離職の理由まで考えを巡らせて対策に結びつけられるはずです。
今後、ますます後者のような働き方が求められていくと考えられます。結果として、メタ認知能力を養う必要性もより高まっていくでしょう。
ビジネスにおいてメタ認知能力を高めるメリット
では次に、メタ認知能力によって得られるビジネス上のメリットについて見てみましょう。
物事を俯瞰して捉えやすくなる
メタ認知能力の最も大きいメリットが“俯瞰する力”です。自分自身だけでなく、他者の気持ちや状況までも推し量ることができます。
プロジェクトを進めていく中で、自分を含めたチーム全体の状況を把握し、どの部分に問題があるのかを的確に見抜いて問題解決に導くことができます。
これは仕事を円滑に進めるうえで非常に役立ち、リーダーシップやマネジメントにもつながるスキルです。
仕事のミスを削減できる
メタ認知能力が高ければ焦りや恐怖に動じにくくなり、うっかりミスを減らすことができます。
例えば、納期が迫っていることに焦りを感じてしまう場面でも、メタ認知能力が高いと、「私は今、とても焦っているんだな」と客観視できるので落ち着きを取り戻し、ていねいに仕事を進められるようになるでしょう。
仕事をする意義や信念を見つけられる
物事の全体像を俯瞰できる力を応用すれば、行動の裏側にある感情を見つけられます。
「なぜこの仕事をしているのか」を深く考えて自分の信念に気付くことができれば、仕事のモチベーションも高まるはずです。
また、キャリアアップや転職の際にも役立てられるでしょう。
メンタルヘルスが安定する
自分の状況を客観視できると、ネガティブな感情にも早めに対処できます。
例えば、残業が続いてイライラしてしまった場合、「私は働きすぎでストレスが溜まっているんだな」と把握し、自分自身に「休憩を取ったほうが良い」と言い聞かせることができます。
このように感情をコントロールできるので、メンタルヘルス(心の健康状態)が安定しやすくなります。
その結果、感情的な振る舞いや失言を未然に防ぐことができ、社内外の信用を得やすくなるでしょう。
メタ認知能力が高い人にはどんな傾向がある?
すでにメタ認知能力を身につけている人には、次のような傾向があります。
人間関係を築くのが上手
他人の感情を察するのが得意なので、円滑な人間関係を築くことが上手です。
そのような人は、表情が暗い人や声の抑揚がない人の存在にいち早く気づき、その理由を洞察します。
発言の裏にある真意を読んだり、繊細な人に配慮したりできるので、思いやりのある人として周囲から評価されやすくなります。
冷静さを取り戻すことに長けている
大規模なプレゼンなどで緊張してしまうのは当然のこと。しかし、メタ認知能力が高い人は、たとえ混乱してしまっても、「私は緊張しているんだな」とすぐに客観視できます。
そういう人は「大丈夫、あれだけ練習したんだから、ていねいにプレゼンすればいい」といったように、冷静さを取り戻しやすいでしょう。
現実的な計画を立てるのが得意
自分自身の特徴や傾向を理解しているので、身の丈に合った計画を立てられます。
仕事の納期を設定する場合、自分の性格や集中力、体力などを総合的に鑑みて、無理のないスケジュールを設定できます。
周囲からは、「約束をきちんと守る人だ」と認識されるので、信頼を得やすいでしょう。
妄想と現実を分けて考えられる
ときにポジティブな妄想はモチベーションアップに一役買います。しかし、妄想や直感を頼りに動いてしまうと、思わぬ失敗につながってしまうことも。
「これが成功したら大きな成果になりそう」というおいしい話が目の前にあったとしても、メタ認知能力が高い人は、「現実的にうまくいくのか?」「成功する根拠は?」と現実を見ながら判断するでしょう。
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逆にメタ認知能力が低い人にはどんな傾向がある?
メタ認知能力が低い人には、主に下記のような傾向が見られます。
- 感情に左右されやすく、なかなか冷静になれない。
- 周囲の人に流されることが多く、自分自身と向き合うのが苦手。
- 自分の考えや行動の理由が「なんとなく」ばかりでうまく説明できない。
- 直感的な発言が多く、根拠をもって他者を納得させられない。
ただし、これに当てはまらない人もいます。また、思い当たる節があっても心配しすぎる必要はありません。
次に紹介するトレーニング方法を実践すれば、メタ認知能力を高めることが期待できます。
メタ認知能力を鍛えるトレーニング方法
通勤中や休憩中など、ちょっとした隙間時間で手軽に取り組めるトレーニング方法を3つご紹介します。
〜だな法
自分を客観的に観察するための方法です。
「私は○○と感じているんだな」「私は○○と考えているんだな」「私の気持ちは○○だな」というように、「私」を主語にして語尾に「〜だな」をつけることで、思考や感情を確認しやすくなります。
普段から習慣づけるだけでなく、仕事でミスをしてパニックに陥ったときに実践するのもおすすめです。
「私は納期を勘違いしてしまって、取引先からクレームが入ったから焦っているんだな」と考えられれば、何から着手すべきか冷静に判断する助けになるでしょう。
事実・思考・感情の整理法
頭の中のモヤモヤを「事実」「思考」「感情」の3つに分ける方法です。
上司から重要な仕事を任された場合、「仕事の責任が重くて、自分にできるのか不安」と混乱しているとしましょう。
これを3つに分けると次のようになります。
事実:上司から重要な仕事を任された
思考:失敗したら会社に損害を与えてしまうのではないか、と考えている自分がいる
感情:うまくやり遂げる自信がなくて不安
メタ認知能力を鍛えるにあたっては、このようにモヤモヤを整理するだけでも十分です。
なぜなぜ法
前述した「事実・思考・感情の整理法」と組み合わせると、より効果的なのが「なぜなぜ法」。その名のとおり、「なぜ?」を繰り返しながら自分の考えを深掘りしていく手法です。
「感情:うまくやり遂げる自信がなくて不安」を例にして考えてみましょう。
任された仕事をうまくやり遂げる自信がなくて不安
↓
なぜ不安なの?
↓
初めて取り組む仕事だから
↓
なぜ初めて取り組む仕事だと不安なの?
↓
経験がなく、分からないことが多いから
こうして、漠然と不安に思っていたことが、「初めて取り組む仕事は分からないことが多いから不安」であることが明確になりました。
このように、深層心理にある考えを発見できたり、自己矛盾に気付けたりします。
メタ認知能力を高めるときの注意点
メタ認知能力を意識し続けると、「自分っていったいどのような人間なんだろう?」と考えすぎてしまい、心の負担が大きくなる恐れがあります。
また、客観視が強くなることで、達観しすぎて人間らしい心の動きが薄くなってしまうことも。
先に紹介したトレーニング法に取り組む際には、ネガティブな考えや自責ばかりにならないように注意が必要です。
メタ認知能力を高めて仕事に活かそう
メタ認知能力を活用して自己理解を深め、強みや弱み、特徴を認識できれば、相性の良い仕事を選んで力を発揮しやすくなります。
この機会に、「なぜ自分はこの仕事をしているのか?」をじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。仕事に関する価値観を明確にすることで、働くモチベーションが上がり、やりがいを見出せるはずです。
監修:ダイレクトコミュニケーション 代表取締役 川島達史
目白大学大学院心理学研究科を修了し、現在ではコミュニケーション講座の講師として、心理学や人間関係に関するワークを行う。専門は成人のソーシャルスキルが孤独感・対人不安に与える影響。普段は「コミュニケーション講座」の主催や、YouTubeチャンネル「ダイコミュ大学」による情報発信を行っている。
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