「声かけ」が、チームを創る!? リーダーが押さえておきたいマネジメント術

年次を重ねるにつれ、部下や後輩、チームメンバーの教育を任されたり、プロジェクトやチームのリーダーを務めたりする機会が増えている方は多いかもしれません。そこで今回は、『共感されるリーダーの声かけ 言い換え図鑑』(ぱる出版)の著者である吉田幸弘さんに、適切な声かけ、振る舞いのコツを伺います。

部下に積極的に声掛けする上司の様子

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マネジメントで悩みを抱えている人の様子

これまで数多くのリーダーたちに向けてセミナーやアドバイスをしてきた吉田さん。若手リーダーが抱える不安や悩みには、どのようなものが多いのか、聞いてみました。

「1つは、ハラスメントに敏感になっていることですね。軽い雑談の場でも、部下や後輩、チームメンバーに気を遣い過ぎてしまう人が多いようです。

もう1つは、年上の人が部下になった場合の振る舞い方について。少しの年齢差ならまだいいですが、シニア層をマネジメントしないといけない立場になって、どのように指示を出せばいいかなど、悩む人が増えているように感じます」(吉田さん、以下同)

細かすぎ or 優しすぎ?マネジメントが極端に

多くのリーダーたちが、部下や後輩、チームメンバーへの声かけや振る舞いについて、手探り状態とのこと。とりわけ、「リーダーを初めて経験する人」がやってしまいがちな失敗はあるのでしょうか。

「マネジメント経験が浅い人は、次の2つのタイプに分かれる傾向にあります。1つは、とにかく自分の存在を誇示しようとするタイプ。細かく管理したり、“そんなこと知っているよ”といったことにまで、逐一指示を出したり。

一方で、部下や後輩を尊重して“いいリーダー”になろうとするばかりに、注意や指導をしない、何でもないことでも過剰に褒める……といった、忖度強めのマネジメントをする人もいます。これはこれで、部下や後輩任せの主体性のないリーダーになってしまうんです」

あまりにも「1対1」を意識し過ぎてしまう

他にも、リーダービギナーのスタンスとして、気を付けたいポイントとは。

「チームを率いる場合、メンバーそれぞれと“1対1で向き合い過ぎること”もマネジメントがうまくいかなくなる原因となり得ます。丁寧に向き合うのは良いことですが、どうしても特定のメンバーに偏ったマネジメントになりがちです。仕事の覚えがゆっくりな人とか、期限ギリギリまで寝かせがちな人とか、そういったメンバーにばかり時間を割いてしまうことになりかねません。

メンバーの中で自分の右腕になるような人を見つけて、その人に間に入ってもらうなど、向き合い方を工夫するのがおすすめです」

チームマネジメントにおける、声かけの重要性

声かけにより円滑なコミュニケーションを図るイメージ

部下や後輩のモチベーションを上げ、雰囲気良く、そして生産性高く仕事ができるのがリーダーの目指すべきところ。吉田さんは著書の中で、声かけのテクニックについて取り上げていますが、そのメリットはどんなところにあるのか、聞いてみました。

「声かけ」の意識で、マネジメントが変わる

部下や後輩と良好な関係を築いて、リーダーとして信頼されるために必要な声かけとは、いったいどのようなものなのでしょうか。

「『状況に応じて、適切な言葉を用いた声かけ』ですね。自分主体で部下を思い通りに動かそうとしたり、感情の赴くままに叱ったりしていては、部下からは不信感を抱かれるだけ。常に部下を主体と考えて、彼らがどうしたら成長できるか、モチベーションを維持して働けるかを前提とした言葉をかけるのがよいでしょう。

リーダーからの良い声かけは、部下や後輩にとっての“良い財産”となります。一方で、傷つける言葉は“負債”として残ってしまうことも。しかしながら、こうした声かけのノウハウは、なかなか会社では教えてもらえません。だからこそ、身につけておけば人と差をつけられるはず。ぜひこの機会に学んでみてください」

チームの雰囲気も「声かけ」で作ろう

適切な言葉を使って声かけをすれば、部下や後輩のモチベーションが上がって、部署やチームの雰囲気自体が良くなりそうですね。

「リーダーの声かけによって、部下は“ちゃんと見てもらえているんだ”と感じ、承認欲求が満たされます。これが積み重なると、心理的安全性が築かれて自分らしくのびのびと働くことができるようになる。それが次第に部署やチームに良い影響を与えるようになるのです」

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【シーン別 声かけテク①】部下や後輩、チームメンバーを励ますとき

上司が部下を励ます様子

声かけのメリットについて理解できたら、いよいよ実践。声かけのテクニックをシーン別に解説します。まずは、部下や後輩、チームメンバーを「励ます」ときの声かけについて、吉田さんに紹介いただきました。

仕事の大小にかかわらず、頑張りを認める

「精神的な負担を減らそうと、“たいしたことない”“簡単だよ”と言うのはやめましょう。自分が向き合っている仕事を、リーダーは軽く見ているんだと感じてしまうからです」

【声かけの例】
一生懸命に取り組んだコンペで結果を残せなかったとき

NG「しょうがないよ、また次、頑張ればいいって」
OK「時間をかけてよく準備したね。大変だったね」

良い点も悪い点も、誰かと比較せず評価する

「褒めるときも叱るときも、相対評価ではなく絶対評価をするように心がけましょう。誰かと比較して褒めることは、その裏に必ず低い評価をされる人がいるということ。もし自分が何か失敗したら、その人のように悪い評価を下されてしまうのではないかと考え、リーダーに対しての信頼度が落ちてしまいかねません。

ある企業では、チーム同士を競わせてインセンティブを出していました。その結果、チーム同士が情報共有をしなくなって、同じ会社のチームにもかかわらず同業他社のような関係になってしまったのです。会社にとって大きな損失ですよね」

【声かけの例】
早く仕事を覚えたことを褒めるとき

NG「●●さんはみんなより仕事を覚えるのが早くて助かるよ」
OK「●●さんは先輩に質問をよくするから、早く仕事を覚えられるんだね」

なかなか仕事を覚えられないのを指摘するとき

NG「●●さんはこの仕事をもう1人でできるけど、▲▲さんはまだかな?」
OK「仕事を覚える上で、何か困っていることはある?」

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【シーン別 声かけテク②】雑談をするとき

部下と雑談を交わす様子

部下や後輩、チームメンバーとの信頼関係を築くには、普段からのコミュニケーションが欠かせません。とは言え、ハラスメントを気にして、何を話せばいいのか迷ってしまうことも多いはず。気をつけたいポイントを紐解きます。

「まず、個人の家族関係や休日の過ごし方など、プライベートを知ることが重要だと考えるのはやめましょう。プライベートに踏み込まなくても、コミュニケーションは成り立ちますし、十分に関係性は築けます」

弱みを見せることで、心理的安全性を生み出す

では、どんな話題で雑談をすれば、良い距離感で関係性が築けるのでしょうか。

「職場における雑談の話題は、仕事に関係するものがベストです。業務の話でもいいですし、ランチに何を食べたかといった、業務時間内に関係することでもいいでしょう。

中でもおすすめしたいのが、“お昼を食べたら眠くなっちゃった”とか、“この資料作り、苦手なんだよ”といった、少し弱みを見せるような話。完璧過ぎて愚痴を言わないようなリーダーだと、メンバー自身も弱音を吐きづらいのです。

リーダーだから、先輩だからと見栄をはって、部下や後輩と壁を作らないこと。親しみやすいリーダーや先輩には、部下や後輩も近寄りやすく、率直に話ができて、心理的安全性が保たれやすいでしょう」

悪いギャップではなく、良いギャップを見せる

一方で、親しみやすさを重視すると「なめられてしまうのでは……?」と懸念する人もいるような気がします。

「意外とそんなこともないですよ。部下や後輩になめられてしまうのは、次の3つの条件全てに合致するケースが多いです。

1:平常心を失う
トラブル時などに取り乱したり、おろおろしたりする。

2:決断力がない
「部長がこう言っているからやろう」などと、上の言いなりになるだけで、自分の意志を示さない。

3:業務が把握できていない
部下や後輩が取り組んでいる業務を把握しておらず、とんちんかんなことを言ったり、負荷の大きな仕事を新たに振ったりする。

普段、完璧な素振りを見せていても、こうした3つの姿を見せてしまうと信頼は失われます。

逆に言えば、普段親しみやすいリーダーが、いざというときに冷静に対応したり、自らの意志で決断したり、適切な業務配分をしたりすると、頼りにしてもらいやすい、ということです。ぜひ悪いギャップではなく、良いギャップを意識しましょう」

【シーン別 声かけテク③】新しい仕事に対応してもらいたいとき

部下に仕事を依頼するイメージ

続いて、部下や後輩、チームメンバーに仕事の依頼などお願いごとをしたいときは、どのような声かけがベストなのか、聞いてみました。

仕事の目的、人選の理由を言葉にする

「なぜその仕事をする必要があるのかを具体的に伝えること。加えて、なぜその人にやってほしいのかも伝えると、納得感をもって取り組んでもらいやすいです。なるべくその人の得意なことを生かせるような依頼をすると良いでしょう」

【声かけの例】
資料作りをお願いしたいとき

NG「●●さん、来週の水曜までにこの資料をまとめておいてくれる?」
OK「大事な新規プロジェクトの会議があるから、資料作りが上手な●●さんにお願いできると嬉しいんだけど、どうかな」

その人にとって何が“負”なのかを聞く

もし仕事をお願いしたのに渋られてしまったり、断わられたりしてしまった場合、どうやって説得すればいいでしょうか?

「“つべこべ言わずにやりなさい”と押し付けるのは言語道断。より反発される可能性があります。こうした場合は、“どの点が不安?”“どの辺が引っかかってる?”などと尋ねましょう。“なぜ?”と聞くのは責められているように感じてしまうため、避けた方が無難です」

【声かけの例】
新規顧客の営業担当を任せたいが、断られたとき

NG「どうしてダメなの? チームのみんな手一杯だから、協力してくれると嬉しい!」
OK「私は●●さんが適任だと思うんだけど、どの部分が不安かな? もし今抱えている仕事の量を減らしたらお願いできるかな?」

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【シーン別 声かけテク④】褒める・叱るなどのフィードバックをするとき

上司が部下を褒めるイメージ

最後に、部下や後輩、チームメンバーにフィードバックをする際、どんな点に気を付けるべきか、ポイントをご紹介します。

やる気も再現性もアップする褒め術

「褒めるときには、できる限り具体的に細かな点を挙げることです。褒められた点は、次も必ず頑張ろうと思いますよね。褒めるのは、モチベーションを高めるのと同時に、その良いパフォーマンスの再現性を高める点でも、効果を発揮します」

【声かけの例】
会議で良いプレゼンをしたとき

NG「プレゼン、すごく良かったよ!」
OK「過去のデータを分析していたのが良かったね。それに結論から話していたのもとてもいいと思ったよ」

叱る側がコンディションを整えてから、叱る

ミスを指摘したり、叱ったりする場面では、何に気を付けると良いでしょうか。

「まず、強く言えば改善されると思うことはやめましょう。信頼されなくなったり、反発されたりするだけです。気を付けたいのは、感情のままに発言してしまうことです。ですから、叱る側が感情をコントロールする必要があります。

私はよく、部下から“報告がある”と言われたら、“良い報告? それとも悪い報告?”と尋ねていました。良い報告ならばすぐに聞き、悪い報告ならば“ちょっと聞く準備をしてくる”と言って、トイレに行ったり、飲み物を買いに行ったりしていました」

良い点を挙げてから、悪い点を指摘する

冷静に向き合ったのち、どんなことを伝えればいいですか?

「いきなり指摘したい点を伝えるのではなく、プロセスや取り組む姿勢など良かった点を挙げてから、“ただ、ちょっと言いづらいことを言うけど……”とワンクッション挟みましょう。相手にも“今から何か指摘を受ける”と、心の準備をしてもらうのです」

【声かけの例】
作ってもらった資料が、求めている内容と違ったとき

NG「お願いしたことと違う内容になってるから、直してほしいんだけど」
OK「表を入れてくれたから見やすくなったね。ただ、これは顧客に見せる資料だから、もう少し商品のアピールポイントを強調してほしいかも」

最後のひと言が、成長を左右する

部下後輩、チームメンバーにとって、意味のあるフィードバックだったと思われるには、どんな声かけをすると良いでしょうか。

「叱ることは、行動改善を促すこと。その人の行動が改善されなければ意味がありません。だから、改善すべきポイントを共有することが大切です。そして、そのために具体的に何をするのかまで話して、次へとつなげましょう。

改善ポイントは1つに絞ること。もし、3つ改善してほしい点があったとしても、より影響が大きな部分を指摘します。“ここだけ直そうね”と伝え、“じゃあ、そのためにどう行動しようか”と問いかけて、本人に考えてもらうことで、次のステップが開けます」

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まとめ

リーダーに必要なのは 「最近の若手は……」といった、世代でくくる意識を持たないこと。同じ世代でも仕事への価値観が多様なのは当たり前です。なるべく決めつけないで、1人ひとりの話を聞くよう心がけましょう。また、リーダーはリーダーであるだけで、想像以上に部下や後輩に要らぬ圧をかけてしまうもの。心理的安全性のある健やかな関係性を目指して、一歩ずつ、リーダーの経験値を増やしていきましょう。

話を聞いた人:吉田幸弘 さん
リフレッシュコミュニケーションズ代表。大手旅行会社、学校法人、外資系専門商社での勤務経験を持ち、その間に「伝え方」の大切さ、コーチングの技術などを習得、2011年に独立。現在は経営層・中間管理職向けに、人材育成、チームビルディングなどのコンサルティングを行い、累計受講者数は3万人を超える。著書に『共感されるリーダーの声かけ 言い換え図鑑』(ぱる出版)、『リーダーシップは見えないところが9割』(青春新書インテリジェンス)など。

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