「傾聴力」ひとつで、好印象に!コミュニケーションが円滑になる、話の聞き方

人の話を聞くのは好きだし、しっかり聞いているつもりなのに、「話、聞いてた?」「興味ないでしょ!」と言われがち…。そんなお悩みを抱えていませんか?今回は、ビジネスシーンでもプライベートでも、コミュニケーションの質をグッと上げて、円滑な人間関係を築けるようになる、聞く行為=傾聴のコツを、『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)の著者である小倉広さんに伺います。

部下の話に耳を傾ける上司の様子

「傾聴」できている人と、そうでない人の違いとは?

聞こうとしているけれど人の話を聞けていない人

「聞いているつもりだけど、実はたいして聞けていない」人には、どんな特徴があるのでしょうか。小倉さんに聞いてみました。

聞けていない人は、自分視点の思考にとらわれている

「まず1つ目は、“次に何を言おうか”ばかり考えて、相手の話に集中していないこと。誰かに相談ごとを持ちかけられたとき、人は“何かいいことを言わないといけない”などと、ある種の強迫観念にとらわれがちです。特に若手のリーダーには、“ダメなリーダーだと思われたくない”という恐れを抱いている人が多いと思います。

2つ目は、相手の体験を自分の体験に置き換えて、理解した気になってしまうこと。そういう人の常套句が、“わかる、わかる!”です。たとえ似たような体験であっても、相手の体験と自分の体験は全く別。本当に話を聞けている人は、“私にはわからないから、教えて”というスタンスであるはずなんです。

同じできごとに遭遇したとしても、感じ方や抱く感情は、その人にしかわかりません。安易に“それ、私もよくやったよ”とか“それって、こういうことでしょ!”などと言うのは、傾聴できている状態とは言えないのです」(小倉さん、以下同)

傾聴力を磨けば、パフォーマンスが上がっていく

傾聴力を身につけて有意義な会議を進める様子

自分の体験に置き替えてわかったつもりになるのは、傾聴とは呼べない。なかなか衝撃的な事実です。続いて、傾聴ができることによってどんなメリットが生まれるのか、解説いただきました。

「コロナ禍を経て、オンラインでのやり取りが増えた職場も少なくないはず。オンラインは便利なツールではあるものの、対面ではないことから、相手の気持ちがわかりにくいもの。そのため、相手の気持ちや人となりを知ることができる傾聴は、非常に効果的です。

傾聴が、心理的安全性をもたらす

また、傾聴のスキルを持つリーダーが率いるチームと、そうでないチームには心理的安全性の面で大きな差が生まれます。それによって、リーダーシップの機能、チームの活性化、ひいては業績アップにまで影響を及ぼすという研究結果もあります。

リーダーだけでなく、メンバー同士のコミュニケーションも傾聴がベースにあれば、心理的安全性がより保たれて、生産性の高い仕事ができるようになるでしょう。

さらに、社内はもちろん、クライアントとの商談などにおいても傾聴は役立ちます。私は以前、とある企業で営業のスーパーバイザーを務めていたのですが、ひたすら傾聴に徹することで、商品説明なしに大きな契約を数多く受注できました。饒舌に語るのではなく、聞き上手な方がトップセールスマンになれる可能性が高まると思います」

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傾聴って具体的にどういう状態?

傾聴ができている人のイメージ

では続いて、傾聴ができている状態とはどういうことを指すのか、紐解いていきます。

傾聴の基礎となる3条件

「心理学者のカール・ロジャーズは、傾聴の基礎となる3条件を次のように示しています。

  1. 自己一致……どんなに望ましくないネガティブな自分も受け止めて、自分らしくいる
  2. 無条件の受容……相手がどんなことを話しても、肯定的に受け止める
  3. 共感的理解……相手の目で見て、相手の耳で聞いて、相手の心で感じる

このうち、とくに③に対しては『どういうことだろう?』と感じる人が多いかもしれませんので、詳しく解説しますね。

ロジャーズは共感的理解を“相手の靴を履く”と表現しています。私自身は、“相手の話をスクリーンに映して、隣に座って一緒に見る感じ“と、説明することが多いでしょうか。共感的理解は、いわば相手の体験を追いかけて同じ体験をする“追体験”のようなものです」

ポイントは、思考ではなく感情に目を向け、寄り添わないこと

ここまでのお話を踏まえると、「共感的理解を伴った傾聴は、“相手の気持ちに寄り添いさえすれば実現する”」ようにも思えます。しかし「寄り添う」行為と「傾聴」は、似て非なるものだと小倉さん。

「“寄り添う”とは、医者と患者、助ける人と困っている人といった、ある種の上下関係を前提に成り立つもの。共感というよりは、同情に近いニュアンスを含むケースも多いです。

例えば、何か大変な思いをした人の話を聞いて、“さぞやお辛かったでしょう。大変でしたね”と伝えるのが、“寄り添う”行為。一方で、“そうだったんですか…話を聞いていたら、私まで悲しくなってきました”と伝えるのが、共感的理解を伴った“傾聴”です。

寄り添うとき、人は相手の『大変だった』という“思考”に目を向けています。一方で傾聴は、相手の「大変な思いをしたことで、悲しくなった」という“感情”に目を向け、それを一緒に追体験することが求められます。一見似ているようで、目を向ける先が相手の思考か感情か、という決定的な違いがあるのが、“寄り添う”と“傾聴”なのです」

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「受け入れて、味わう」ことで傾聴力を磨いていく

部下の話を否定せず耳を傾ける様子

相手の感情に目を向けて追体験することが「傾聴」とのこと。とはいえ、アドバイスをしたり、励ましたりしなくても、相手は満足するものなのでしょうか。小倉さんに詳しく解説いただきました。

否定せずに認め、アドバイスもしないのが吉!

「傾聴において、アドバイスは不要です。私のようなカウンセラーがお話を聞くときも、ひたすら傾聴するだけ。その人が悩んだり、迷ったり、困ったりしていることに対して、“悩んでるんですね、迷いますよね、困っちゃうよね”と、そのまま全部を認めるのです。表立って問題解決方法を提示するケースは、ほとんどありません。

人はなぜ思い悩むのか。それは、自分の嫌な面を自己否定し、今の自分ではダメだと思っているからです。それでは “嫌なところを直して良い自分になる”という選択肢しかなく八方塞がりです。でも、ダメな自分でいい、とありのままを受け止めてもらえることで、“こうあるべき”という思考から抜け出して、視野と選択肢がグッと広がるのです」

相手を自然体に誘って、好循環を生む

傾聴とは、とても奥が深いものですね。実際、小倉さんはカウンセリングでどのように対話をしているのでしょうか?

「先日行ったカウンセリングで、以下のようなやり取りがありました。仮に相手をAさんとしましょう。

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Aさん:先日の会議中、ある同僚が自分の考えをつらつらと述べ続ける、という一幕がありました。周囲は、そんなに意見が言えるなんてすごい、と褒めていたのですが、私としては、会議中にあれだけ自分の意見を話し続けるのはいかがなものか、と思ってしまって。

私(小倉さん):そういう場面で自分の意見を延々と語るのは、あまり良いことだと思わないんですね。私もお話を聞きながら場面が目に浮かんで来て、ちょっと嫌な感じを受けました。その時は、その方に関して嫌悪感のような感覚がありましたか?

Aさん:ありました。嫌な感じ、って。

私:そうなんですね。一方で、もしかしたら…みんなに注目されて羨ましい、という感じもあったでしょうか。

Aさん:あぁ、たしかに…。それもあったかもしれません。

私:そうなんですね。でもそれはごく普通の感情ですよね。何も恥ずかしいことではないと思います。私も同じ場面に居たとしたら、そう思ったかもしれません。

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このように、思考ではなく感情を尋ねながら、Aさんのありのままを受け止めました。特にこうしろああしろとアドバイスしていないけれども、このやり取りでAさんは、“私は会議で毅然と発言した人を、嫌悪感と共に本当はうらやましいと思っていたんだ。私も意見をはっきり主張して、注目されたかったんだ…”と気づくことができる。

そうすると自然体でいられるようになって、「今度は嫌われてもいいから、自分の意見をハッキリ言ってみようかな…」とその人の本来の姿に戻っていき、それが良い循環につながることがあるのです」

相手がどんどん話してくれる! 傾聴力を押し上げるポイント

同僚や後輩からの話を聞き出すのが上手な人

傾聴力を鍛えるのには、練習と経験が必要なんだそうです。まずは何を意識することから始めればいいのか、小倉さんに聞いてみましょう。

相手の土俵から出ず、言葉にならない思いにも共感

「傾聴中、聞き手は自分の体験を安易に口にしないことです。頭に浮かんだとしても、グッとこらえましょう。そして基本的には、解決策やアドバイス、自分の意見は一切口にしないと思っていてください。それは全て、自分の中にあるもので、傾聴している話の中にはないものだからです。そうして、ひたすら相手の体験を追体験することに終始する。基本、相づちや質問がほとんどで、話す割合は相手が7割、自分が3割くらいになるでしょう。

話している間は、“それでどうなった?”とか、“話を聞いて、私はこう感じたけど、あなたはどうだった?”とか、“そっか、そう感じたんだね”と、相手の体験(できごと)のみならずその時の感情を探り、その感情も含めて追体験して感じてみるのです。

相手は、自分の思いをうまく言葉にできなくて、“いや、そうじゃなくて…”とか、“うーん、どうなんだろう?”などと、立ち止まるはずです。その時には、聞き手である自分も、“そういうわけではなかったんだね…?”とか、“どうなのか、わからないよね…”などと、その思いを一緒に味わって、共感します。

カウンセラーの多くは、このようにして言葉にならない3点リーダー(…)をよく発しています」

レポートではなく、エピソードを聞く

他には、どんなことをやってみるといいでしょうか?

「“エピソードを聞くこと”を意識すると、格段にコミュニケーションが変わるでしょう。人は体験をエピソードではなく、端的な要約であるレポート形式で話しがち。それを質問によって、エピソード化していくのです。例えば、ある同僚が「Bさん」という人の愚痴を言ってきたとしたら、このように返してみるのがおすすめです。

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同僚「同僚のBさんの仕事がちょっといい加減で、困ってるんですよね」

あなた「そうなんですね。Bさんがいい加減だと一番強く感じたのはどんな時でしたか?」

同僚「先週の水曜日です。資料の作成をお願いしたのに、出てきたものが誤字や脱字ばかりでミスが多くて、結局私が一時間以上かけて全部チェックして修正したんです」

あなた「そうでしたか。一時間以上も…それはさぞやイライラしたでしょう。どうでしたか? なんというか、やるせない、というか情けないような感覚もあったのでしょうか」

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このように、エピソードを聞くことによって初めて、“それはイライラしますよねぇ…”と共感できる。レポートだけだと、せいぜい“そうなんだ、いい加減な人って困っちゃうよね”浅い感想しか抱けず、それは共感できているとは言えません。Bさんの仕事ぶりが具体的に目に浮かぶように見えなければ、本当の意味で共感することができないんです。

これは、人事の方が採用面接に対応するときにも活用できます。『学生時代に頑張ったこと』は新卒採用面接の質問項目として定番だと思いますが、たいていの採用希望者は、“サークルのトップを務め、リーダーシップを学びました”などとレポートを話しますよね。そこで、“チームをまとめるのに、一番大変だと思ったことは?”などと追加質問を加え、エピソードを尋ねるのです。それによって、その人の人柄がクリアに見えてくるでしょう。

傾聴ができると、友だちにも好かれるし、人付き合いが円滑になります。平たく言うと、人生のあらゆる場面で役立つスキルなのです」

まとめ

小倉さんに教わった傾聴のメソッドやスキルは、一朝一夕で身に付けられるものではないかもしれません。それでも、努力して習得すれば、人と大きな差を付けられるものであることは、間違いなさそうです。人生のあらゆる場面で役立つものであるならば、向き合ってみて損はなし。これまで、他人の話を聞くことについて深く考えてこなかった人も、ぜひ自身を振り返りながら傾聴にトライしてみましょう。

話を聞いた人:小倉広 さん
企業研修講師、心理療法家(公認心理士)、東京都公立小学校スクールカウンセラー。
新卒入社した企業にて、商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作多数。

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