死なないためのオフィス防災【前編】~会社の防災に個人で付け足す準備のポイント~

防災対策はまず「死なない」ための準備が最優先。オフィス防災の状況を知り、不足点を個人で補うポイントをご紹介します。

死なないためのオフィス防災【前編】~会社の防災に個人で付け足す準備のポイント~

2018年は大規模な自然災害が相次いだ1年でした。

6月の大阪府北部の地震、平成最悪の被害となった7月の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)、全道停電という想定外が生じた9月の北海道胆振東部地震、関西国際空港を水没させた同9月の台風21号、及び大規模な停電被害を発生させた台風24号

記録に残る自然災害が連続し、報道を通じて防災対策に関する意識を改めた方も多かったのではないでしょうか。

2019年に入ってからも、1月に熊本で震度6弱、2月に再度北海道胆振東部地方で震度6弱と、東日本大震災から8年を迎えた本日、大地震の脅威は減るどころか増加する一方です。

不意打ちで生じる大地震は、事前準備の有無がそのまま生死に直結します。皆さまの会社の防災は万全でしょうか。

防災対策はまず「死なない」ための準備が最優先。オフィス防災の状況を知り、不足点を個人で補うポイントをご紹介します。

オフィスで大地震に巻き込まれた場合の死因を知る


会社が行う防災対策は「BCP(事業継続計画)」の一部とされることもありますが、この内容には「従業員の命を守るための防災」とあわせて、「従業員が死傷しても業務を止めない」ための準備も含まれます。

経営視点ではこの「従業員が死傷することを前提とした計画」が重要なのですが、従業員側として死ぬことを前提にされてはかないません。そのため、会社の防災対策に加えて「自分が生き残る」ための準備が不可欠なのです。

「死なないための防災」を行うには、災害に巻き込まれた際の死因を理解することが重要です。自分が「どうやって死ぬ可能性があるか」を知り、これを防止するための対策を講じることになります。

オフィスで大地震に巻き込まれた場合、死ぬ可能性は大きく分けると次の3つです。

1. 地震の揺れで倒壊した建物や什器に押しつぶされて死ぬ
2. 地震により発生した二次災害(津波・大規模火災・土砂災害)に巻き込まれて死ぬ
3. 公共交通機関が停止した都市部を、徒歩帰宅する途中で危険に巻き込まれて死ぬ


この3点の危険を回避するため、会社で講じている防災対策の内容を理解し、不足する点を自身で補うことが重要です。

建物の耐震性を確認、ダメならば飛び出す準備を


地震の揺れで「死なない」ためには、建物の倒壊に巻き込まれないこと、什器や設備の転倒を回避すること、キャスター付きの複合機などに押しつぶされないようにすることが重要です。

まずは建物対策ですが、日本の場合、建物の地震に対する頑丈さは「建築基準法」の耐震基準で定められています。オフィスのある建物が「新耐震基準(1981年6月1日以降に認可を受けて建てられたビル)」である場合は、大地震の揺れで即倒壊する可能性は低くなりますが、これよりも古い「旧耐震基準」の建物である場合、耐震補強工事をしていなければ、大地震で建物が倒壊する可能性は高くなります。

この場合、最良の対策は会社に移転を提案することですが、当然ながら現実問題として難しく、仮に実行するとなっても今日明日に完了するものではありません。そのため、建物が古く倒壊の危険がある場合は素早く屋外に避難するための準備が必要になります。

緊急地震速報が鳴ったり、地震の初期の揺れを感じたりした瞬間、オフィスのドアを開け放ち屋外に移動するため、普段からイメージトレーニングやセルフ防災訓練を行うことが重要です。

また万が一建物が倒壊し、しかし幸運にも即死を免れた場合にすぐ助けを呼ぶことができるよう、ネームカードなどにホイッスルをぶら下げておくことなども考えられます。

室内の安全対策を確認、ダメならば潜り込む準備を

 

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自社の建物が「新耐震基準」であれば、次の対応は室内の安全対策です

背の高い書類棚やスチールキャビネットが固定されているかどうか、キャスターが付いている複合機が床に固定されているかどうか、ガラス製の扉やガラスに飛散防止フィルムが貼られているかどうかなどを確認してください。

対策が不十分である場合も、ベストは会社に対して固定を依頼することです。その際、専門業者に依頼をしなくとも、ネットショップなどで「固定器具」を購入すれば、自分たちで取り付けることも可能です。

また、対策を講じても被害が生じる可能性はあるため、あわせて救助道具のセットを導入することも有効です。

一方、あらゆる対策が実行できない場合には、やはり個人で訓練を行うことが必要となります。

特に自席の真後ろに転倒しそうな書類棚やキャビネットがあったり、近くに大型のコピー機が置いてあるような場合は、緊急地震速報を察知したり地震の揺れを感知した場合、速やかに安全な場所へ逃げる必要があります。

デスクの下に潜る、転倒物がない廊下などに出るなど、前述のようなセルフ防災訓練で、とっさの行動を身につけてください。

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ハザードマップで、地震の二次災害の確認を


大地震の揺れから身を守る準備をしたら、次に大地震の二次災害を回避する対策を講じます。

大地震の際は、津波・土砂災害・地震火災などの被害が生じる恐れがありますが、これらの影響は生じる場所がほとんど固定しています。海沿いの低地であれば津波の被害が、崖の裏側に社屋があれば土砂災害の被害が、また木造住宅の密集地域であれば地震火災(火災旋風と呼ばれる炎の竜巻を伴うこともある、大規模な火災)の被害が、それぞれ生じる可能性があります。

まず会社が、これらの二次災害の可能性を認識しているかどうかを確認し、把握していない場合は自分自身でチェックを行う必要があります。

津波・浸水害・土砂災害、また地震火災などは、「ハザードマップ」と呼ばれる地図を見て、発生の可能性や影響の大小を調べるのが適切です。

どの地域に、どの程度の影響が生じるかが色分けされた地図が見られますので、避難が必要なのかどうかを把握してください。

二次災害の影響が想定される場合は、避難の準備を


会社が海から遠く、ガケもなく、オフィス街にある場合は、大規模な二次災害の可能性は相対的に低くなります。ただし建物内部からの火災だけはどのような立地においてもあり得るため、対策が必要です。

消火設備を準備するのは会社や建物側ですが、これを実際に利用して初期消火を行うのは従業員個々人となります。どこに消火栓や消火器があるのか、これをどのように使うのか、日頃の防災訓練に参加して使い方を学んでください。

なお、火災が発生した場合は常に119番が原則です。まず消防車を呼び、同時に初期消火に努め、それでも火の手が収まらなければ素早く避難を行います。

一方、会社周辺で地震による二次災害が発生する恐れがある場合は、避難場所と徒歩移動のルートを確認しておく必要があります。避難場所は災害の種類ごとに異なる可能性があり、津波であれば高い津波避難ビルやタワー、地震火災であれば広域避難場所などが定められています。

「ハザードマップ」を見れば適切な避難場所が記載されていますので、どこへどうやって逃げるのかを、会社または個人で確認し、できれば昼間と夜間にそれぞれ、移動する練習をしてみてください。

ここまでの準備を行えば、大地震直後に命を落とす可能性をグッと低くすることができます。後編では、命を守った後の行動、徒歩帰宅時に身を守るためのポイントと防災グッズを解説します。

死なないためのオフィス防災【後編】~帰宅困難者となった際、命を守る準備のポイント~

執筆者プロフィール
高荷智也(ソナエルワークス代表|備え・防災・BCP策定アドバイザー)


「自分と家族が死なないための防災対策」と「企業のBCP策定」のポイントをロジックで解説するフリーの専門家。大地震や感染症パンデミックなどの防災から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく実践的に伝えるアドバイスに定評があり、講演・執筆・コンサルティング・メディア出演など実績多数。著書に『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』など。1982年、静岡県生まれ。

公式サイト「備える.jp」https://sonaeru.jp
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