オンラインで買うことのできる商品を、改めて店舗で買う時代に
ECサイトの普及と共に、小売業の様相は大きく変わってきました。インターネット上で商品を検討し、購入する体験が一般化した昨今、実店舗はショールーム的な役割を持つスペースへと変わっていき、ブランディングや顧客接点の確保といった目的をより顕在化させています。
また、ECサイトでの体験に何が不足しているかが明確になったことも、平成後期のトピックのひとつです。店舗での顧客体験がブランディングに大きな影響を与えることが明らかになったいま、改めて実店舗での体験に立ち返る企業も増えています。
小売業界に関わるIT用語3選
そんな動向が見られる中、令和時代にはどのような技術が小売業界に影響を与えていくのでしょうか。特に実店舗での体験に焦点をあて、注目されるIT用語をまとめます。
RaaS
RaaS(Retail as a Service)とは、「サービスとしての小売」を表す言葉であり、簡単に言えば実店舗のサブスクリプションサービスです。店舗に必要な従業員の総合的管理や在庫管理、物流やPOSなどを一括して提供し、店舗運営をサポートします。
RaaSが注目された背景には、「消費者に対し、商品を直接販売する仕組み」であるD2Cの台頭があります。ECサイトを通じて商品を消費者に直接提供するスタートアップ企業が増えた昨今、副次的にオフラインの場のニーズが高まったのです。
D2Cからスタートし、実店舗を展開して成功したスタートアップ企業例はいくつかありますが、資金調達段階の企業にとって、自ら所有する店舗をオープンするハードルは高いものです。そうした企業を対象として期間限定で場所を提供するのがRaaSの狙いです。
BOPIS
BOPIS(ボピス:Buy Online Pick-up In Store)とは、ECサイトで購入した商品をリアル店舗で受け取るサービスの形態を指します。
BOPISはECサイトを介した消費行動が一般化したからこそ、そのニーズが高まっています。BOPISを利用することで、ユーザーは送料負担や受け取りの手間を軽減することができ、小売業者も物流コストを削減することができます。
また、それ以上にBOPISはオンラインの購入体験では満たすことのできなかった実店舗の魅力を購入者に提供することができます。購入前に実物を確認すること、店舗で他商品との出会いを楽しむこと、店舗スタッフとのコミュニケーションなどのエクスペリエンスを、受け取りのタイミングで生み出すことができるのです。
BOPISはヨドバシカメラや米国スターバックス、ウォルマートなどの店舗で導入されていますが、今後はさらに多くの店舗に浸透していくことが期待されています。
ウォークスルー決済
ウォークスルー決済とは、実店舗で選んだ商品を持ったままレジを通過するだけで決済が完了するシステムを指します。
ウォークスルー決済は顧客の持つスマートフォン情報の認証と、商品の特定、そしてゲート通過の認証という3ステップで完了します。2020年2月、すでにローソンの店舗で限定的な実証実験がスタートしており、実店舗での展開の実現性は極めて高い技術です。
無人店舗時代の到来とも言われていますが、ローソンは店員と顧客のコミュニケーションを店舗体験の一つとして重要視しており、スタッフ同様またはそれ以上のコミュニケーションを実現できるAI店員や、商品レコメンドを行うモニタの設置などを併せて検討しています。
ウォークスルー決済は、これまでECサイトが網羅できなかった、その日その場で必要なものを販売する小売店で有効な手段と考えられます。そうした顧客のニーズも踏まえた上で、スムーズかつ満足度の高い購入体験を提供する店舗そのもののデザインが、ウォークスルー決済を普及させるためのポイントとなるでしょう。
令和時代の小売業は、オンラインとオフラインを結びつける
今回まとめたIT用語は、いずれも実店舗の在り方を変容させる技術を表したものばかりです。2000年代に浸透したECサイトの存在は、人々の消費活動を大きく変えるとともに、改めて実店舗のニーズを確認させる契機になったのかもしれません。
今後小売業界はよりオフラインとオンラインの境界を越え、柔軟な販売手法と顧客との接点を増やしていくでしょう。そのなかでは、多言語対応やAIによる顧客対応、ARによる試着サービスなど、複合的なテクノロジーを駆使した新たな顧客体験が増えていくはずです。
顧客体験向上の視点に立ち、テクノロジーのトレンドを読み解くことが、今後の小売業界での新たな道筋を探るヒントになるでしょう。
文=宿木雪樹
編集=五十嵐 大+TAPE
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