- コミュニケーションの軸を「自分」から「相手」に変える
- 異なる意見を否定せず、受け止めて、自分の意見も伝える
- こんなとき、何て言う? 仕事でよくあるシーンの言い換え術
- 伝え方を変える際には「アイメッセージ」を意識する
- 自分が発する言葉は、人生を変える可能性を秘めている
- まとめ
コミュニケーションの軸を「自分」から「相手」に変える
まず知りたいのは、なぜこんなにも多くの人が「伝え方」について悩みを抱えているのかということ。それにはどんな共通点があるのでしょうか。
「伝え方に悩む人は、大きく2パターンに分かれます。一つは、誤解や争いを生みたくない気持ちがあって、それならば言いたいことを我慢しようと思うタイプ。もう一つは、思ったことを何でも言葉にしてしまい、敵をつくってしまうタイプです。
方向性は違いますが、実はどちらも『相手よりも自分を見ている』ことに共通点があります。前者は嫌われないたくないという思いが強く、後者は自分のことをわかってほしいという思いが強いのです。
コミュニケーションは、『自分』を軸にするとこじらせてしまいがちです。自分がどう思われるのかではなく『相手がどう感じるか』にフォーカスすると、おのずと伝え方が変わり、人間関係が良好になっていきます」(宮本さん・以下同)
異なる意見を否定せず、受け止めて、自分の意見も伝える
では、個人も組織も上向いていく「伝え方」には、どのようなコツがあるのか、教えていただきましょう。
「相手がどう感じるか」を基準に言葉を選ぶ
「一つ目は、自分本意になり過ぎず、相手がどう感じるかを念頭に置いて言葉を選ぶこと。
『これを言ったら、自分がどう思われるだろう……』と思うと、言葉に詰まってしまいます。でも、『相手はこれを言ったら、喜んでくれるかな』という考え方にシフトするだけで、スラスラと言葉が出てきます。少し客観的な視点を持つのがポイントです。
相手の意見も尊重しつつ自分の意見を持つ
二つ目は、自分の意見をしっかり持っておくこと。相手を喜ばせることと、自分の意見があることは別です。
どうしても目上の人や、尊敬する人の意見などを聞くと『自分もそう思わないと』と考えてしまいがち。でも、どんなにすごい人の意見でも、それはヒントでしかなく、自分にとっての正解は自分の中にしかないのです。
決して、相手の意見を否定したり、自分の意見を押し付けたりするわけではありません。お互いの意見を同じテーブルに出して、優劣をつけずに認め合うことが大切です。
自分とは異なる意見は、受け入れがたいかもしれません。でも一度、受け止める。その際に自分の中でいくつかの『受け止めフレーズ』を用意しておくと、それがクッションの役割を果たしてくれるでしょう。
例えば、『ふむふむ』『なるほど、そういう考え方もあるな』など。こうしたフレーズを思い浮かべれば、相手を否定することなく、意見を持ち寄ることができるでしょう。
相性の良し悪しがあることを受け入れる
最後の三つ目は、誰にでも合わない相手は必ずいると心得ておくことです。
コミュニケーションに悩んでいる人の特徴の一つに、合わない相手にイライラして、ストレスを増やしてしまっているケースがあります。無駄に衝突することなく、『そういう人もいるよね』とさらりとかわせるようになれば、コミュニケーションの悩みは格段に減りますよ」
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こんなとき、何て言う? 仕事でよくあるシーンの言い換え術
では、実際に対話する場合、具体的にどう伝えたらよいのでしょうか。ここでは、上司や同僚、部下、取引先と、相手の立場別にありがちなシーンを想定し、角が立たず、なおかつ相手に好印象を与える伝え方を教えていただきます。
上司の場合1
ありがちなシーン:上司の業務把握ミスで、間違った指示を出されたことに気づいた場合
言い換え前
「これで本当に間違いないでしょうか?」
言い換え後
「私の認識違いかもしれないのですが、これで間違いないでしょうか? ちょっとこちらで確認してみますね」
ポイント
「相手に恥をかかせないために、自分が勘違いしているかもしれないという体の枕詞を入れましょう。また、実際に確認するにしてもしないにしても、確認するというワンクッションを入れると良いです。
その後、『やっぱり違っていました。私も勘違いしてしまってて。これ、ちょっとわかりづらいですよね』と相手だけでなく自分も間違っていたことにして、『あなたが悪いのではなく、そもそも業務内容がわかりづらいせい』というニュアンスを添えるなどしてもいいと思います」
上司の場合2
ありがちなシーン:上司が急な仕事を振ってきたが、手一杯で自分は担当できそうにないとき
言い換え前
「このスケジュールでは対応できません」
言い換え後
「仕事を任せていただいて、ありがとうございます。でも今、○〇の件で立て込んでいまして、お引き受けするとなると終えられるのが○○日になりそうです。それでもいいでしょうか?」
ポイント
「まずは仕事を任せてくれようとしたことに対して、感謝を伝えます。その後、具体的にいつまでなら対応可能かを伝え、判断を仰ぐ。自分から断るのではなく、相手から断ってもらうようにするのが大切です。
『それだと間に合わないから、別の人にお願いする』と言われたら、『本当にすみません』と、やりたかったのにできなかったことを伝えましょう。すると次の仕事につながることもあるかもしれません」
同僚の場合
ありがちなシーン:あきらかに仕事に身が入っていない様子で、チームの雰囲気が悪くなっているとき
言い換え前
「ねぇ、しっかりやろうよ」
言い換え後
「なんかあった? この後、ランチでも行かない? 話聞くよ」
ポイント
「このような状態になっているのには必ず理由があるはずです。それを聞き出し、どうしたいのか、何がしたいのかを尋ねて、相手に寄り添う姿勢を見せる。
相手の言うことに賛成できなくても、『そういう考え方もあるよね』と受け止めて、どうすればいいかを一緒に考えてあげるのもいいでしょう」
部下の場合
ありがちなシーン:急ぎの案件が入り、どうしても残業して対応してもらわないといけないとき
言い換え前
「これ急ぎになったから、今日中に対応してほしい」
言い換え後
「発売日が早まって、今日中にこれを仕上げないといけなくなってしまって。○○さんなら仕事が早いからできるんじゃないかなと思って……。残業してもらうことはできるかな?」
ポイント
「なぜ今日中にやる必要があるのか理由を述べて、重要度について納得してもらいましょう。ポイントとしては、『あなたにやってもらいたい』と頼りにしているニュアンスを添えること。
『やりなさい』ではなく『やれる?』と疑問形で聞くことで、相手の意志を尊重していることを伝える。やってもらった後は、『やっぱり○○さんにお願いして良かった。ありがとう』と、相手のことを褒めた上で、感謝を示すのが大切です」
取引先の場合1
ありがちなシーン:返事をもらわないと進められない案件について、返事を催促するメールを送るとき
言い換え前
「○○の件、早めにお返事をいただけないでしょうか?」
言い換え後
「先日お話した○○の件ですが、その後いかがでしょうか。○日が発注の締め切りで、これに間に合わないと納品が遅れる可能性がありまして……。なるべく早くお返事をいただければ幸いです。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします」
ポイント
「この場合、なぜ早く返事がほしいのか、締め切りなどの理由を伝えるのが効果的です。『自分は急かしたくないけれど、期日に間に合わないと大変だから』というニュアンスを添えるのも良いでしょう。
返事がないことを責めるのではなく『忙しいから仕方ないと思うけど……』という体で伝えたりすると、相手を無理に急かしているという印象を与えずに済みます」
取引先の場合2
ありがちなシーン:自社の対応に不備があり、クレームが入ってしまったとき
言い換え前
「申し訳ございません。ですが、○○だったので、仕方ないことでして……」
言い換え後
「ご指摘くださって、誠にありがとうございます。大変申し訳ございませんでした。今後は、システムを改善して不備が出ないように努めてまいります」
ポイント
「取引先に謝罪する場合は、まず言いづらいことを言ってくれたことに対して、感謝を述べる。その後に具体的な改善策を提示して、今後は大丈夫であることを伝えましょう。
たとえ自分が悪くなくても、何か仕方のない原因があったとしても、火に油を注ぐだけなので言い訳はしないほうがいいと思います」
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伝え方を変える際には「アイメッセージ」を意識する
さまざまなポイントを教えていただきましたが、伝え方を変えていくために、普段から意識しておいたほうがいいことは何かあるのでしょうか。
「まずは、『アイメッセージ』で伝えるようにすることです。
自分が当たり前だと思っていることを、『みんなそう思っている』とか『普通はそうだよ』などと、まるで常識であるかのように考えない。あくまで『私個人はこう思っている(=アイメッセージ)』という立場で伝えると、角が立ちにくくなります。
それともう1つ、私がいつも意識しているのは、相手がしてくれて自分がうれしいと思ったこと、いいなと思ったことは、その都度ちゃんと言葉にして伝えることです。スルーしないで『やってくれてありがとう』『これ、すごくいいね』と伝えると相手は喜んでくれる。
これらの積み重ねが、いい関係性につながると思っています」
自分が発する言葉は、人生を変える可能性を秘めている
自分の意見を言えなかったり、言い方が良くなかったり……。そのようなマイナスのコミュニケーションが重なると、仕事だけでなく、日々のモチベーションも下がってしまうとのこと。
「例えば、言いたいことを我慢し続けると『もう自分が何を考えてもしょうがない』という意識が生まれ、考えない癖がついてくる。そうすると、自分自身の考えがわからない状態に陥ってしまいます。
よく『やりたいことがわからない』『好きなことがわからない』といった相談を受けることがありますが、これは長く言いたいことを我慢してきたことによる末期症状の可能性もあるのではないでしょうか。
日常の中で自分の考えや思いを言葉にして確認するプロセスは、人生においてとても重要なものだと私は思います」
加えて、宮本さんは、著書で「言いたいことを伝えられると、人生が変わる」と書いています。
「言葉のエネルギーは、自分に大きな影響を与えます。怒りの言葉も、愚痴も、全部自分は聞いていますから、そんな言葉ばかりを浴びていたら、マイナスな影響しか生まれません。
自分がどんな人生を生きたくて、どんな言葉を話していたいか。それを明確にして言葉を選べば、それが自分にどんどんプラスの影響を与えます。自分だけでなく、相手にも影響するので、人生が前向きに変わっていきますよ」
まとめ
伝え方のスキルを身につけていくことは、「英会話を覚えるのと同じ」と宮本さんは言います。
「英語で言いたいことが言えなかったら、単語や文法を調べて次に活かしますよね。それと同じで、こう言えばよかった、これが言いたかったというのを整理して、次のタイミングではどう言うかを考えるのです。
すぐには完璧にできません。私も20代、30代の頃にたくさんトライアンドエラーを繰り返していました。失敗は成功につなげるためのデータだと思えばいいのです。ぜひ前向きに、積み重ねていってください」
話を聞いた人:宮本佳実さん
高校卒業後、アパレル販売員や一般企業などを経て、28歳でパーソナルスタイリストとして起業。ブログのみの集客で全国各地からお客様が集うサロンに成長。その経験から「好きなことで起業する楽しさ」を伝えたいとコンサルティングを開始する。現在は、サロンやコンサルティング事業を組織化し、自身は女性の新しい働き方・生き方(=ワークライフスタイル)を書籍や講演、SNSで発信。著書は『可愛いままで年収1000万円』など17冊。近著には『どんな相手も味方になる 感じのよい伝え方』(すばる舎)がある。
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