ふとした瞬間に「このままでいいのかな?」というような漠然とした不安を感じることはありませんか。できればそのようなモヤモヤはスッキリ消し去りたいものですよね。そんな「漠然とした不安」について、不安の正体や抱えやすい人の特徴、解消するコツを、職場のメンタルヘルスの専門家である関屋裕希さんに伺った話を基に解説します。
漠然とした不安。その正体とは?
「不安」とは、まだ起こっていない出来事に対してぐるぐると考えを巡らせてしまう状態のことです。では、働く人たちが未来に対して抱えやすい「漠然とした不安」とはどのようなものなのか、その正体を考えていきましょう。
正体は、主に「自身のキャリア」「この先のライフイベント」「老後」の3つに分けられます。
自身のキャリア
すぐ近くに迫っている不安として、代表的なのが「キャリア」にまつわることです。
スキルや専門性の不足
とくに20〜30代のころは、「自分は必要なスキルを身につけられているだろうか?」「どんな専門性で生きていくべきか?」「どのタイミングでどんなスキルを身につければいいのか?」と自分のスキル不足や市場価値について不安になる人が多いようです。
終身雇用制度の崩壊
近年、終身雇用や年功序列など従来型の制度をとる企業が減ってきました。こうした社会変化が「このままで大丈夫かな?」「転職するならいつがいい?」などの不安を生むきっかけになっているかもしれません。
ジョブ型雇用の増加
日本の雇用システムは「メンバーシップ型雇用」といって、人を採用してから職務を割り当てるのが主流でした。しかし、近年は職務を明確にして人を採用し、職務や役割で評価する「ジョブ型雇用」が増えつつあります。
こうした社会変化も「何か専門性を身につけなければ取り残されてしまうのではないか」といった不安を生む原因かもしれません。
この先のライフイベント
今すぐではないにしても、少し先の未来に待っているライフイベントに対して、モヤモヤを抱えている人は多いでしょう。
結婚・出産・育児のタイミング
例えば、仕事の昇級試験などについて「結婚や出産はそのあとまで待つ? それとも先がいい?」と悩むこともあるでしょう。出産のタイミングによっては、育児と仕事が忙しい時期が重なってしまうこともあるため、両立できるか不安に思うかもしれません。
介護との両立の難しさ
家庭内で介護が必要な場合は、仕事との両立に苦心することがあるでしょう。さらに、結婚や出産などほかのライフイベントも重なると、これをきっかけに介護とキャリアの両立が不安になるかもしれません。
老後
20〜30代からすれば何十年も先のこととはいえ、「自分が高齢のとき、安心して暮らせているだろうか…」と不安を覚えたことがある人は少なからずいるでしょう。
老後にかかるお金の不安
老後に必要な資金額は、そのときの健康状態や公的年金、退職金、家賃の有無などさまざまな事情が絡むため、予想が困難です。そのため、老後を思って「貯金は足りるかな?」「投資をしておいたほうが良い?」などと考えても答えは出にくく、スッキリしないものです。
孤独になることへの不安
例えばですが、今は独身生活が楽しくても、ある日突然「このままずっと一人だとさびしい…」と不安になる人もいます。
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今ある漠然とした不安を解消するには?
漠然とした不安の正体について、主なものは「自身のキャリア」「この先のライフイベント」「老後」と紹介してきました。次に、それぞれについて、おすすめの解消方法をご紹介します。
キャリアへの不安を解消:吐き出してプランを立てる
(1)書き出すか、口に出す
まず、どんなことを不安に思うのか、具体的に書き出してみましょう。キャリアカウンセラーや同期の友人などに話すのも良いでしょう。
例えば、漠然とした不安を同期の友人に話してみると、「自分は今、○○のスキルや経験が不足しているかも」と自覚できたり、それに対する意見を聞いたりできます。
(2)今、手が打てることにフォーカスする
書くことで「今、手が打てること」にフォーカスできます。逆に「今考えても分からないこと」はいったん手放しましょう。前述のスキル不足の例でいうと、今の自分に必要なスキルを調査することがこれにあたります。
(3)キャリアの見通しを立てる
考えや方向性が整ってきたら、キャリアプランを立てることもできます。いつまでにスキルを身につけるのか、いつまでに資格を取得するのか、などスキルアップする行動につなげられます。
ライフイベントに伴う不安:ライフライン予測チャートを書く
(1)書き出す
「キャリアへの不安」と同様に具体的な不安を書き出すのがおすすめです。
ライフイベントはデリケートな話題ですし、誰かの一言によって不用意に自分と他人を比べるようになってしまう恐れがあるため、口に出すのは控えたほうがよいでしょう。話すなら、家族やパートナーなど自身のライフイベントに直接関わる人にしてください。
(2)ライフライン予測チャートにまとめる
※上の図はあくまで一例です。
ライフライン予測チャートとは、縦軸を「力を入れたい度合い/力をセーブしたい度合い」、横軸を年齢として描くグラフのこと。「結婚や出産をする場合いつしたい?」「何を人生において優先したい?スキルアップや趣味に打ち込む?」など、自分に問いかけながら今後のライフイベントを書き込んでみましょう。
そこにキャリアプランも重ねたら、仕事に打ち込んで貯金をするタイミングなどが見え、仕事とプライベートの配分についてイメージが湧いてスッキリするかもしれません。
<ライフライン予測チャートを描くポイント>
- 現在の年齢からリタイア予定の年齢までの範囲を想定しましょう。
- 「仕事」と「ライフイベント」の2本のラインを、力を入れたい時期はいつなのか、力をセーブしたい時期はいつなのかを想像して描きます(それぞれ色を変えると分かりやすくなります)。
- 仕事のラインに書く主な項目は、スキルアップ、転職、昇進、異動などです。
- ライフイベントのラインに書く主な項目は、結婚、出産、育児、転居、介護などです。
- そのほかにも「これはどうしよう」と不安に思うイベントがあれば書き込んでおきましょう。
(3)ライフライン予測チャートから分析する
ライフライン予測チャートをきれいに描く必要はありません。歪なところや、仕事とライフイベントどちらにも力を入れたい時期こそ、対策が必要なタイミングです。
例えば、「キャリアを形成したい時期と育児期間が重なってしまう…」という不安が明確になった場合は、どのようなサポートを得られると良いかなど、対策を講じるきっかけになります。
仕事かライフイベントか、一方にしか力を入れられないと決めつけるのではなく、それぞれのリソースやサポートを工夫すればどちらも充実させられる、と前向きに考えると良いでしょう。
老後の不安:老後資金を整理する
(1)書き出す
老後についても不安をまず書き出して、今分かっていることを明確にすると良いでしょう。老後のことは不明確な要素も多いため、「今できることがあればする。あとは情報が増えたら対応しよう」と割りきるのが心を楽にするコツです。
(2)今できることをする
老後のことは、必要な貯金額が分かると安心できるかもしれません。ただし、情報は信頼できるソースから収集するのが肝心。やみくもに調べると余計に不安がふくらんでしまうことがあるためです。
また、情報に惑わされてリスクの高い投資商品に手を出し、ストレスの元になってしまった実例もあります。十分に注意しましょう。
漠然とした不安を抱えやすい人の特徴とは?
次に、漠然とした不安を抱えやすい人に共通しやすい特徴を見ていきましょう。
原因分析が苦手
何が不安なのかを明確にしないままにしてしまいます。例えば、「キャリアに不安がある」と思った場合、「じゃあ、キャリアの何が不安?」とさらに分析するのが苦手です。
物事を先延ばしにしてしまう
「これについて今は考えないようにしよう」と、何も対策を講じず、不安に感じていることを先延ばしにすると、無意識のうちにその不安が頭に浮かんできてしまう…という悪循環を引き起こす可能性があります。
このような状態を象徴するのが、心理学の「シロクマ実験」です。「シロクマのことを考えて」と言われるより、「シロクマのことを考えないで」と言われたほうが考えてしまう人が多い、と実証されています。
この実験のように、「今は考えないでおこう」と先延ばしにすればするほど、逆にぐるぐると考え続けてしまうことになるのです。
未来に注意が向きやすい
心配性で、未来について「大丈夫かな?」とあれこれ考えてしまう人も、漠然とした不安を抱えやすくなります。ただし、心配性は悪いことばかりではありません。心配を対策に結びつけられると「高パフォーマンス」となります。
例えば、プレゼンで想定されるさまざまな質問を心配し、対応できる資料を用意すると、結果的にプレゼンのパフォーマンスが良くなるのです。
今後、漠然とした不安を抱え込みすぎないコツ
では、前述したような漠然とした不安を抱えやすい特徴を持つ場合、どうすれば良いのでしょうか。3つの特徴それぞれについて、不安を抱え込まないコツをご紹介します。
原因分析が苦手な人:「分からない」を書き出し、対策に結びつける
「不安=分からないこと」と考えて、分からないことを書き出しましょう。すると、漠然としていた不安が「実は分かっていること」と「まったく分からないこと」に分解できます。
「実は分かっていること」は対策を講じましょう。一方の「まったく分からないこと」は割り切って分からないままにしておくのも理にかなった対処法です。分かるようになったら手を打てば良いので、「あとで対策を講じるリスト」などを作ってメモしておきましょう。
これらの方法は、過去ではなく未来について書く、というのも重要なポイントです。
<事例>
提出予定の報告書があるが、何を言われるか不安。そこで「分からないこと」を書き出した。すると「分かっていること」として、上司は効率重視であることに気づいた。そこで想定される質問に答えられるデータを追加で用意。こうして対策ができたので不安が減った。
物事を先延ばしにしてしまう人:時間を決めて気が済むまで考える
あえて「くよくよタイム」を取ってみましょう。誰かに話しても不安が消えなければ、時間を決めて気が済むまで一人で「くよくよ」するのです。すると意外にも、漠然とした不安を手放しやすくなるでしょう。
<事例>
「今から10分間はとことん『くよくよ』する」と決めて考え続けた。すると10分後には「ここまで『くよくよ』をやり切ったから、もう悩まなくていいや」とスッキリした。
未来に注意が向きやすい人:現在のことに注意を向ける
「マインドフルネス」のトレーニングをしてみましょう。マインドフルネスとは、今まさに目の前で起きていることや感じていることに注意を向けるというアプローチです。
マインドフルネスの方法はさまざまですが、手軽でおすすめなのは「3分間呼吸法」。専用のスマートフォン用アプリなどもあるので活用すると良いでしょう。
<事例>
「3分間呼吸法」でマインドフルネスを実践。やり方は3分間、座ったまま目を閉じて背筋を伸ばし、自分の自然な呼吸のリズムを観察するというもの。未来のことで頭がいっぱいだったが、「今ここ」に戻る感覚が得られて心が落ち着いた。
不安を味方につけて、自分らしく生きていこう
キャリアも人生も、一生懸命考える人ほど不安になりやすくなるものです。しかし、不安は「分からないことがあるから、何か手を打ったほうがいい」と教えてくれているサインのようなもの。
「心配性な自分が嫌」と自己嫌悪することがあるかもしれませんが、大丈夫です。「不安を感じられる自分は素晴らしい!」と不安を味方につけて、自分らしく生きる道を探っていきましょう。
監修:心理学博士、臨床心理士、公認心理師 関屋裕希
東京大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座所属。
早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了。専門は、産業精神保健(職場のメンタルヘルス)であり、業種や企業規模を問わず、ストレスチェック制度や復職支援制度などのメンタルヘルス対策・制度の設計、職場環境改善・組織活性化ワークショップ、経営層・管理職・従業員それぞれに向けたメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行う。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
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